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第4章
※ 安志編※ 太陽の欠片 5
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「ここが安志さんの家なのか」
涼が目をキラキラ輝かせている。なんかこう犬みたいに可愛いんだよな~こういう表情。
「入れよ」
「うっうん……お邪魔します」
これから涼が通う大学と涼のマンションとの中間地点の駅に、俺の部屋がある。なんと嬉しい偶然なのだろう。俺は大学に入ってから、ひとり暮らしを始め……最後にこの家に来た男は洋だった。そういえばあれ以来、洋との思い出を穢したくなくて、この家に人を呼ぶのはやめてしまったんだな。
五年前のあの日偶然飲み会で再会し、酔っぱらった洋をここで介抱してやった。この部屋で久しぶりに間近で見る洋の美しさに見惚れていたのを思い出す。
****
相変わらず細い首だな……
白く透き通るようなうなじ
少し癖があるクシュっとした黒髪
長い睫毛は目を閉じていると一層引き立つし、 通った鼻筋だ。
キュッと引き締まった綺麗な形の桜色の唇
****
その時の洋にそっくりな涼がこの部屋にいるのを目の当たりにして……また駄目だって分かっているのに、洋のことを思い出してしまった。涼と洋は顔はそっくりでも別人だって理解しているのに、面影をつい探してしまう罪悪感に苛まれる。
「安志さんどうしたの?」
「いや、どうぞ入って」
「わぁ! 僕のイメージ通りだ、安志さんの部屋」
「そっそうか。ただの男のひとり暮らしの家だよ」
「安志さんの匂いがする」
「えっ臭い? 換気するよ」
もしかして涼が来るかもと思い、これでも時間を掛けて掃除したのに、臭かったかと焦って窓を開けようとすると、涼がそっと背中にくっついてきた。
「違うよ。僕の大好きな安志さんの匂いだってこと」
「涼っ……おいっこらっ離れろ! 」
「なんで? 」
「はぁ……お前な」
そんなに信頼した目で見るな。罪悪感の裏側では涼を今すぐ抱きたいという節操ないことを考えているのが本当の俺だ。歯止めが聞かなくなるのを必死に止めているのだから。
「あっあのさ、何か飲む? コーヒーでいいか」
「うん、ありがとう。あの……砂糖とミルクはある? 」
「くくっミルクか~お子様みたいだな」
「あっ! だってまだブラックじゃ飲めない」
恥ずかしそうにシュンとする幼い涼の表情が本当に可愛くて可愛くて、ちょっとした会話に口元が綻んでまうよ。
「涼、少し話そうか」
ソファに座る涼に甘いコーヒーを手渡すと、その頬がほんのり染まった。
「うん」
「涼、日本に来てくれてありがとう。待っていたよ」
「僕もこうやってまた安志さんと会える日をずっと待っていたよ」
「ありがとう……もう一度確認するが、本当に俺でいいのか」
「何が? 」
キョトンとした表情で涼が首を傾げた。
そうか……俺は幸せすぎることに臆病になっているのかもしれない。洋との報われない恋の思い出の欠片は、いつまでも俺の首を絞め続ける。こんなんじゃ駄目だと分かっているのに。
涼が俺のことを好きになってくれて、こうやって二人で会っていても、まだどこか夢見心地で、信じられないという気持ちが強まってしまう。
「涼はこれから大学に入学してサークルやクラブ活動をしたり、コンパをしたりゼミ仲間と旅行にいったり、楽しいことが沢山待っているだろ。もちろんその中で好きな女性が出来るかもしれない。華やかな未来が待っているんだ。それなのに十歳も年上の俺なんかと……最初から……」
「……安志さんっ馬鹿にしないでほしいよ。僕がそれを望んだんだ! 僕が好きになったんだ! あなたを!
涼は心外なことを言われたといった表情で、きっと俺のことを睨んだ。
眼が赤くなり、今にも泣きそうな顔をしている。
「ありがとう。だが……涼。実はまだお前に洋の面影を見つけてしまうんだ。お前も気が付いているだろう? 涼と洋は別人だって分かっているのに……酷いよな。でもこれが本当の俺なんだ。呆れてくれ」
揺らぐ俺の心を正直に涼に打ち明けると、涼は優しく微笑んで、俺の手を優しく握ってくれた。途端に太陽のようにほんわかと温かい涼の体温がドクドクと伝わってきた。
「安志さん、分かっているよ。いいんだ。焦らないで。洋兄さんだから僕はそれを許せる。罪悪感なんて持たなくていいから」
「いやそんなはずない、俺は卑怯だ。洋のことをまだ心の片隅に残しながら、涼を好きになって、涼にもっともっと触れたくてしょうがなくなっている情けない男なんだよ。だからこんな俺のために、涼のこれから始まる素晴らしい出会いの数々を狭めてしまうというのが申し訳ないし、怖いんだ」
「ふぅ……安志さんは心配症だな。あの、少し僕の話も聞いてくれる? 」
「あぁもちろん」
「……実は……先月のサマーキャンプであったことなんだ」
涼が目をキラキラ輝かせている。なんかこう犬みたいに可愛いんだよな~こういう表情。
「入れよ」
「うっうん……お邪魔します」
これから涼が通う大学と涼のマンションとの中間地点の駅に、俺の部屋がある。なんと嬉しい偶然なのだろう。俺は大学に入ってから、ひとり暮らしを始め……最後にこの家に来た男は洋だった。そういえばあれ以来、洋との思い出を穢したくなくて、この家に人を呼ぶのはやめてしまったんだな。
五年前のあの日偶然飲み会で再会し、酔っぱらった洋をここで介抱してやった。この部屋で久しぶりに間近で見る洋の美しさに見惚れていたのを思い出す。
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相変わらず細い首だな……
白く透き通るようなうなじ
少し癖があるクシュっとした黒髪
長い睫毛は目を閉じていると一層引き立つし、 通った鼻筋だ。
キュッと引き締まった綺麗な形の桜色の唇
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その時の洋にそっくりな涼がこの部屋にいるのを目の当たりにして……また駄目だって分かっているのに、洋のことを思い出してしまった。涼と洋は顔はそっくりでも別人だって理解しているのに、面影をつい探してしまう罪悪感に苛まれる。
「安志さんどうしたの?」
「いや、どうぞ入って」
「わぁ! 僕のイメージ通りだ、安志さんの部屋」
「そっそうか。ただの男のひとり暮らしの家だよ」
「安志さんの匂いがする」
「えっ臭い? 換気するよ」
もしかして涼が来るかもと思い、これでも時間を掛けて掃除したのに、臭かったかと焦って窓を開けようとすると、涼がそっと背中にくっついてきた。
「違うよ。僕の大好きな安志さんの匂いだってこと」
「涼っ……おいっこらっ離れろ! 」
「なんで? 」
「はぁ……お前な」
そんなに信頼した目で見るな。罪悪感の裏側では涼を今すぐ抱きたいという節操ないことを考えているのが本当の俺だ。歯止めが聞かなくなるのを必死に止めているのだから。
「あっあのさ、何か飲む? コーヒーでいいか」
「うん、ありがとう。あの……砂糖とミルクはある? 」
「くくっミルクか~お子様みたいだな」
「あっ! だってまだブラックじゃ飲めない」
恥ずかしそうにシュンとする幼い涼の表情が本当に可愛くて可愛くて、ちょっとした会話に口元が綻んでまうよ。
「涼、少し話そうか」
ソファに座る涼に甘いコーヒーを手渡すと、その頬がほんのり染まった。
「うん」
「涼、日本に来てくれてありがとう。待っていたよ」
「僕もこうやってまた安志さんと会える日をずっと待っていたよ」
「ありがとう……もう一度確認するが、本当に俺でいいのか」
「何が? 」
キョトンとした表情で涼が首を傾げた。
そうか……俺は幸せすぎることに臆病になっているのかもしれない。洋との報われない恋の思い出の欠片は、いつまでも俺の首を絞め続ける。こんなんじゃ駄目だと分かっているのに。
涼が俺のことを好きになってくれて、こうやって二人で会っていても、まだどこか夢見心地で、信じられないという気持ちが強まってしまう。
「涼はこれから大学に入学してサークルやクラブ活動をしたり、コンパをしたりゼミ仲間と旅行にいったり、楽しいことが沢山待っているだろ。もちろんその中で好きな女性が出来るかもしれない。華やかな未来が待っているんだ。それなのに十歳も年上の俺なんかと……最初から……」
「……安志さんっ馬鹿にしないでほしいよ。僕がそれを望んだんだ! 僕が好きになったんだ! あなたを!
涼は心外なことを言われたといった表情で、きっと俺のことを睨んだ。
眼が赤くなり、今にも泣きそうな顔をしている。
「ありがとう。だが……涼。実はまだお前に洋の面影を見つけてしまうんだ。お前も気が付いているだろう? 涼と洋は別人だって分かっているのに……酷いよな。でもこれが本当の俺なんだ。呆れてくれ」
揺らぐ俺の心を正直に涼に打ち明けると、涼は優しく微笑んで、俺の手を優しく握ってくれた。途端に太陽のようにほんわかと温かい涼の体温がドクドクと伝わってきた。
「安志さん、分かっているよ。いいんだ。焦らないで。洋兄さんだから僕はそれを許せる。罪悪感なんて持たなくていいから」
「いやそんなはずない、俺は卑怯だ。洋のことをまだ心の片隅に残しながら、涼を好きになって、涼にもっともっと触れたくてしょうがなくなっている情けない男なんだよ。だからこんな俺のために、涼のこれから始まる素晴らしい出会いの数々を狭めてしまうというのが申し訳ないし、怖いんだ」
「ふぅ……安志さんは心配症だな。あの、少し僕の話も聞いてくれる? 」
「あぁもちろん」
「……実は……先月のサマーキャンプであったことなんだ」
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