重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
224 / 1,657
第4章

※安志編※ 太陽の欠片 4

しおりを挟む
 涼と近くのホームセンターにやって来た。

「なぁ、家具をこんなところでいいのか」
「うん大丈夫だよ」
「分かった。じゃあまずは何から選ぼうか」
「うーんとやっぱりベッドかな」
「ベッド!!」

 おいおい、なんだか赤面してしまう。いつかそのベッドで、なんて在らぬ妄想をしてしまう自分が恥ずかしい。

「安志さん、どうしたの? 」
「えっ!」
「ふふっ。ねぇやっぱりベッドは広い方がいいかな? 」
「あっ、えっと」

 ベッド売り場の前で涼がそんなこと言い出すから、顔が火照ってしまう。

「じゃあこっちにしよう、ベッドは配送だって……あっそうだ、シーツとかもいるよな。どれがいいかな?この海みたいな濃いブルーのはどうだ?」
「いいと思う」

 涼は嬉しそうにホームセンターのカートにシーツや枕カバーをどんどん積んでいった。そのまま歯ブラシやお風呂の道具などひとり暮らしに必要なものを選んでいく。こういうのって社会人になって独り暮らしを始めた時を思い出すな。涼の奴、ウキウキして楽しそうだ。彼はずっと親元にいたから、新鮮なのだろう。その気持ち分かる!

「あっこれも買おう!」

 見ると色違いのマグカップだった。太陽のようなオレンジ色と、地中海の海のようなブルーのマグカップだ。

「安志さん、これって僕達みたいだ」
「オレンジが涼だな」
「安志さんはこの深いブルーだ」

 まるで新婚さんのような買い物をして、俺の心臓はドキドキしっぱなしだ。涼の方もテンションが上がって来たのか、始終楽しそうにしていた。そんな表情を横で見ていると、さっきの暗い表情は気のせいだったのかと思えて来た。

 荷物はすべて宅配にしてもらい手ぶらになったので、俺は涼を行きつけのビストロに連れて行ってやった。

「ほら、好きなだけ食べろよ」
「わぁ! いいの? ありがとう」

 ハンバーグをおいしそうに頬張る涼の顔が可愛くて大満足だ。これからは日本でこんなことが出来ると思うと俺の頬も綻んでいく。

「大学はいつからだ? 」
「来週からだよ、九月入学だから」
「そうか。六月に高校を卒業して……俺と会ったのが七月の終わりだったな。八月は向こうで存分に楽しめたのか? 」
「……そうだね。みんなはそのままアメリカの大学に進む奴が多いから、そんなにお別れモードでもなかったけどね」
「そういえばサマーキャンプはどうだった? 涼の送別会も兼ねていたのだろう」
「……え……あぁうん、楽しかったよ」

 少しだけトーンを落として涼が答えるのが気になった。まさか何かあったんじゃないよな? 心配になるじゃないか。

「涼……やっぱり何かあったのか。さっきから何となく元気がない気がする。もしかしてサマーキャンプで嫌なことがあったのか」
「いや大丈夫。時差ぼけで疲れが出てるんだよ。実は隣の人と喋り過ぎて、あまり寝てない」

 ふんわりと微笑みながら、涼が心配しないでと机の下で手を握ってきた。全く可愛いことをするな。こっちは理性を保つのに必死なのに、お構いなしか。

「お前な~」
「ごめん、本当になんでもないから心配しないで」
「今日はもう早く帰って休めよ。疲れているのだろう」
「うん、でも安志さん……」
「なんだ? 」
「まだベッドも布団もないのに、何処で寝たらいいかな」
「はぁお前なっ。男だろ。床で寝ろ!」
「……床でなんて疲れが取れないよ。よかったら今日は安志さんの家に泊めてもらえると嬉しいけれども……」
「はっ? お前っ! それ無理っ! 」
「安志さん、何か怒ってる? 本当に駄目? 」

 ははは……怒るも何も。どうしてこうも天使の顔をして悪魔のようなことを囁くのか。涼はまるで捨てられた猫のような眼で俺に訴えかけてくるし、おーい、この場合どうしたらいい?

「くそっ分かったよ。その代わり涼はソファで寝ろよ」
「ソファ?あっ……うんそうだね。安志さん……あの、僕、ごめん」
「何を謝る?」
「だって……まだ……その、覚悟が」

 涼が小声で恥ずかしそうに呟いた。やっぱりそこだよな。涼が戸惑うのも無理ないよな。

「ストップ!飯がまずくなる。もういいよ。その話題は」
「安志さん……」
「涼、勘違いするな。俺はゆっくりでいいんだ。涼を急かすつもりはないから。俺達まだ実際に会うのは数回だ。安心しろ。これ以上は手は出さない」
「なんか……いろいろごめんなさい」
 
 涼は申し訳なさそうに項垂れた。

 本当はもう我慢できないと思ったが、俺は絶対に早まらない。
 もう二度と間違いたくない。

 己の感情のままに走っては駄目だ。
 俺の想いは後回しでいい。

 涼を怯えさせたくない。
 涼の気持ちが一番大事なんだ。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...