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第4章
【4章最終話】満月の夜、月が照らす道 2
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「いよいよなのか」
「そうだな」
すぐ横に立つ丈を見上げながら俺は呟くと、丈からも緊張した声が返ってくる。今俺達は、kaiが見つけてくれた月夜見海岸に立っている。
浴衣姿の洋月、この世界に来た時の衣装に身を包んだ王様、現代の洋服を着た赤い髪の女、そしてkaiも一緒だ。
空には一つも欠けることのない丸い月がぽっかりと浮かび、妖しいほどの月明かりを海に落としていた。
降り注ぐ月明かりが波間に揺れ、まるで月までの橋が架かっているみたいに真っすぐに一直線に輝いていた。
「あの月の道は本当に歩けそうだね。まるで本物の橋のようだ」
洋月がその先にあるものが気になるような様子で呟いた。
「kai……満月になるのはそろそろか」
「あと五分だ」
このメンバーで集うことは二度とない。
この一瞬を惜しむように、俺は一人一人の顔を見た。
「王様、俺よりもっと強いヨウの所に戻ってくださいね。そしてヨウとジョウが幸せに暮らせるように君の力を貸してあげて欲しい」
「うん! 僕は……こんなに不思議な体験をしたんだ。もっと心と躰を鍛えて、いい王様になれるように努力する。そしてヨウとジョウにもずっと傍にいてもらうよ。二人の愛を認めるよ」
「良かった。信じているよ」
抱きしめた王様の小さな体は、ここ一カ月で随分と逞しくなった気がする。一人でこんな世界に迷い込んで未知の治療を受け克服し、本当に精神的にもタフになったのだろう。
次に赤い髪の女……由さんと向かい合って握手をする。
「あなたのお陰で、俺達の過去を変えることが出来る。あなたが過去の俺達の世界に迷いこんでなかったらと思うとぞっとするよ。ありがとう。俺たちのために尽力してくれて。もうあなたの本来いるべき世界へ戻って幸せに暮らして欲しい」
「ほんとに貴重な体験だったわ。あー私は十四年前に戻るのね。いつか年老いたおばあさんになった私とすれ違うかもしれないわね、その時は無視して頂戴! ふふっ」
ふわりと赤い髪が視界を遮る。その次の瞬間、頬に口づけされていた。
「ふふっお別れのキスよ」
「なっ!」
「だって丈さんの怒る顔を最後に見たくて!彼、ずっと冷静沈着だったから」
口づけされた頬を押さえ乍ら、ちらっと横目で丈を見ると、睨まれてしまった。参ったなと苦笑しながら、洋月の方を向く。
「洋月……」
俺が追加で買ってあげた浴衣を持っている。洋月の希望で、丈の中将のサイズを購入してあげたものだ。大事そうに抱きしめるように抱えている姿が可愛らしい。
「洋月……幸せになって。君のお陰で俺は父に会いに行く勇気をもらったし……本当に励まされたよ」
「洋……俺も君と会えて、君の行動を間近で見ていて、勇気をもらったよ。そして丈と仲良しの君がうらやましくもなった。俺も丈の中将のところに帰りたくなったよ。本当にありがとう、俺の分身にような君が大好きだよ」
「洋月……もう一人の俺の幸せを願っているよ。いつも……」
一人ひとりへの挨拶を終えると、心が本当に温かく落ち着いて来た。
『満たされた心』
幸せを願っている。
「洋、そろそろ時間だ」
「あぁ。丈も手伝ってくれ」
胸元からそっと月輪を取り出し手の平に乗せる。丈も胸元から取り出し、二つの月輪を重ねた。
『重なる月』
月輪は手の平で眩い光を生み出し、一気に海にかかる橋を駆け上がっていった。空には白く輝く星の群れ、そこに一直線にかかる橋が現れる。なんともいえない厳かな光景だ。
「今だ、元の場所へ帰る時が来た」
「洋、素晴らしい光景だ。行く時が来たよ」
洋月の口から和歌が詠まれる。
かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける
中納言家持(6番) 『新古今集』冬・620
意味……七夕の日、牽牛と織姫を逢わせるために、かささぎが翼を連ねて渡したという橋。天の川にちらばる霜のようにさえざえとした星の群れの白さを見ていると、夜もふけたのだなあと感じてしまうよ。
「行こう!」
王様と赤い髪の女、洋月
三人は手を繋いで歩きだした。
海に架かる光で出来た橋を一歩一歩進んで行く。
「さよならじゃない……君たちは俺に繋がっているから」
赤い髪の女は十四年前の世界の婚約者の元へ。
王様はヨウの元へ、洋月は丈の中将の元へ……それぞれが帰りたい場所へ行くんだ。
これは別れじゃない。そう思うのに、どんどん姿が小さくなっていく三人を見送ると自然と涙が浮かんでくる。三人の影はやがて光に渦にのまれ、一瞬雷光が轟いたかと思うと、もとの穏やかな海に戻っていた。
残されたのは俺と丈とkaiだけだ。
「行ってしまったね」
少し寂し気に丈に話しかけると、丈は穏やかな瞳で俺を見つめ、目元の涙を拭ってくれた。
「私たちの心の中に皆いるよ……ずっと」
「そうだね。俺たちは俺達で……また始まるだけだね」
果たして本当に過去を変えることができたのだろうか。
過去が変わったがどうかは分からない。
分かるのは俺達がずっと一緒にいられるということだけ。
それが俺にとっての一番の幸せだ。
重なった月は、また元の場所へ戻っていった。
空に月はひとつ──
これからは、それぞれの時代を明るく照らすだろう。
『重なる月 4章』 了
****
こんにちは!志生帆海です。
ふぅ~とうとう!『重なる月』の第4章が完結しました。だいぶ長い章になってしまいました。『重なる月』のタイトルを踏まえた輪廻転生編をお楽しみいただけたでしょうか。
素人の稚拙な文章で、誤字脱字もあり読みにくい部分も多々あったと思うのですが、なんとか無事に輪廻転生&タイムトリップの筋書きを完結させることが出来ました。
本当にありがとうございました。何度も背中を押していただいて感謝しています。ちょっと脱力気味ですが、まだまだ創作話を書くことを続けて行きたいなと思っています。
とりあえず次回は『悲しい月』と『月夜の湖』の更新を予定しています。
無事に帰りついたそれぞれが幸せになるところまでしっかり描きたいです♪
いつも読んでくださってありがとうございます。
更新の励みになっております。
感謝を込めて♪
「そうだな」
すぐ横に立つ丈を見上げながら俺は呟くと、丈からも緊張した声が返ってくる。今俺達は、kaiが見つけてくれた月夜見海岸に立っている。
浴衣姿の洋月、この世界に来た時の衣装に身を包んだ王様、現代の洋服を着た赤い髪の女、そしてkaiも一緒だ。
空には一つも欠けることのない丸い月がぽっかりと浮かび、妖しいほどの月明かりを海に落としていた。
降り注ぐ月明かりが波間に揺れ、まるで月までの橋が架かっているみたいに真っすぐに一直線に輝いていた。
「あの月の道は本当に歩けそうだね。まるで本物の橋のようだ」
洋月がその先にあるものが気になるような様子で呟いた。
「kai……満月になるのはそろそろか」
「あと五分だ」
このメンバーで集うことは二度とない。
この一瞬を惜しむように、俺は一人一人の顔を見た。
「王様、俺よりもっと強いヨウの所に戻ってくださいね。そしてヨウとジョウが幸せに暮らせるように君の力を貸してあげて欲しい」
「うん! 僕は……こんなに不思議な体験をしたんだ。もっと心と躰を鍛えて、いい王様になれるように努力する。そしてヨウとジョウにもずっと傍にいてもらうよ。二人の愛を認めるよ」
「良かった。信じているよ」
抱きしめた王様の小さな体は、ここ一カ月で随分と逞しくなった気がする。一人でこんな世界に迷い込んで未知の治療を受け克服し、本当に精神的にもタフになったのだろう。
次に赤い髪の女……由さんと向かい合って握手をする。
「あなたのお陰で、俺達の過去を変えることが出来る。あなたが過去の俺達の世界に迷いこんでなかったらと思うとぞっとするよ。ありがとう。俺たちのために尽力してくれて。もうあなたの本来いるべき世界へ戻って幸せに暮らして欲しい」
「ほんとに貴重な体験だったわ。あー私は十四年前に戻るのね。いつか年老いたおばあさんになった私とすれ違うかもしれないわね、その時は無視して頂戴! ふふっ」
ふわりと赤い髪が視界を遮る。その次の瞬間、頬に口づけされていた。
「ふふっお別れのキスよ」
「なっ!」
「だって丈さんの怒る顔を最後に見たくて!彼、ずっと冷静沈着だったから」
口づけされた頬を押さえ乍ら、ちらっと横目で丈を見ると、睨まれてしまった。参ったなと苦笑しながら、洋月の方を向く。
「洋月……」
俺が追加で買ってあげた浴衣を持っている。洋月の希望で、丈の中将のサイズを購入してあげたものだ。大事そうに抱きしめるように抱えている姿が可愛らしい。
「洋月……幸せになって。君のお陰で俺は父に会いに行く勇気をもらったし……本当に励まされたよ」
「洋……俺も君と会えて、君の行動を間近で見ていて、勇気をもらったよ。そして丈と仲良しの君がうらやましくもなった。俺も丈の中将のところに帰りたくなったよ。本当にありがとう、俺の分身にような君が大好きだよ」
「洋月……もう一人の俺の幸せを願っているよ。いつも……」
一人ひとりへの挨拶を終えると、心が本当に温かく落ち着いて来た。
『満たされた心』
幸せを願っている。
「洋、そろそろ時間だ」
「あぁ。丈も手伝ってくれ」
胸元からそっと月輪を取り出し手の平に乗せる。丈も胸元から取り出し、二つの月輪を重ねた。
『重なる月』
月輪は手の平で眩い光を生み出し、一気に海にかかる橋を駆け上がっていった。空には白く輝く星の群れ、そこに一直線にかかる橋が現れる。なんともいえない厳かな光景だ。
「今だ、元の場所へ帰る時が来た」
「洋、素晴らしい光景だ。行く時が来たよ」
洋月の口から和歌が詠まれる。
かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける
中納言家持(6番) 『新古今集』冬・620
意味……七夕の日、牽牛と織姫を逢わせるために、かささぎが翼を連ねて渡したという橋。天の川にちらばる霜のようにさえざえとした星の群れの白さを見ていると、夜もふけたのだなあと感じてしまうよ。
「行こう!」
王様と赤い髪の女、洋月
三人は手を繋いで歩きだした。
海に架かる光で出来た橋を一歩一歩進んで行く。
「さよならじゃない……君たちは俺に繋がっているから」
赤い髪の女は十四年前の世界の婚約者の元へ。
王様はヨウの元へ、洋月は丈の中将の元へ……それぞれが帰りたい場所へ行くんだ。
これは別れじゃない。そう思うのに、どんどん姿が小さくなっていく三人を見送ると自然と涙が浮かんでくる。三人の影はやがて光に渦にのまれ、一瞬雷光が轟いたかと思うと、もとの穏やかな海に戻っていた。
残されたのは俺と丈とkaiだけだ。
「行ってしまったね」
少し寂し気に丈に話しかけると、丈は穏やかな瞳で俺を見つめ、目元の涙を拭ってくれた。
「私たちの心の中に皆いるよ……ずっと」
「そうだね。俺たちは俺達で……また始まるだけだね」
果たして本当に過去を変えることができたのだろうか。
過去が変わったがどうかは分からない。
分かるのは俺達がずっと一緒にいられるということだけ。
それが俺にとっての一番の幸せだ。
重なった月は、また元の場所へ戻っていった。
空に月はひとつ──
これからは、それぞれの時代を明るく照らすだろう。
『重なる月 4章』 了
****
こんにちは!志生帆海です。
ふぅ~とうとう!『重なる月』の第4章が完結しました。だいぶ長い章になってしまいました。『重なる月』のタイトルを踏まえた輪廻転生編をお楽しみいただけたでしょうか。
素人の稚拙な文章で、誤字脱字もあり読みにくい部分も多々あったと思うのですが、なんとか無事に輪廻転生&タイムトリップの筋書きを完結させることが出来ました。
本当にありがとうございました。何度も背中を押していただいて感謝しています。ちょっと脱力気味ですが、まだまだ創作話を書くことを続けて行きたいなと思っています。
とりあえず次回は『悲しい月』と『月夜の湖』の更新を予定しています。
無事に帰りついたそれぞれが幸せになるところまでしっかり描きたいです♪
いつも読んでくださってありがとうございます。
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