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第4章
時を動かす 15
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到着ロビーに着くと飛び込んで来たのは、俺を待つ丈の姿。
丈だ……背が高く涼やかな佇まいが人目を引いているのが分かる。
「丈っ!」
思わず駆け寄ってしまった。
「洋、お帰り」
「うん、ただいま」
丈がポンポンと労わる様に肩に手を置いてくれると、途端に穏やかな空気が流れてくる。あぁやっぱりほっとする。丈が傍にいてくれると何故だか俺のバランスは良くなるよ。心も躰も穏やかになれる瞬間だ。
「kaiもお疲れさま」
「あぁ!いや~洋の子守りは、飛行機の中でも大変だったよ」
kaiが眠たそうな目を擦りながら文句を言うので、不思議に思う。
「kai……俺の子守りって何のことだ? 」
「だってさ、帰国の飛行機の中も大忙しだったよ。隣の席の奴が洋を見るなり色目を使ってくるから、さりげなく奥の席にしたり、洋がトイレに行けばズラズラと他の男も付いて行こうとするから、それを阻止するのにも忙しかったよ。洋は呑気にしているから気づいていなかったが。洋が油断した顔で眠っている間も俺、気が張って眠れなかったよ! あーもうなんの因果か、俺のプライベートが何もないのが本気でむなしい!」
「ははっ。kaiそうだったのか。それはありがとうな。洋はkaiが近くにいると周りに気を張るのを忘れてしまうようだな」
「kaiっ…そんなだったか。俺……全然気が付かなくてごめんっ」
kaiの言う事はオーバーだとは思いながらも、そういえば、いつもみたいに周りの目を気にすることもなく、俺はアメリカでも飛行機の中でも、嫌な目に遭うこともなくリラックスして過ごせたことを思い出した。
kaiが傍にいてくれるという事が、どれだけ安心するのか。
これは丈とはまた違う安心感だよ。
「kai、改めて言うよ。ありがとう。君のお陰で無事に帰って来られた」
「なんだよ~照れるぜ!まぁ俺のお陰で愛しの丈の元に帰って来られて良かったな~今宵は丈との熱い夜で眠れないから、飛行機の中でいっぱい寝てたんだろっ! あーまったく妬けるぜ! 」
「kaiっ! 」
「ははっ! 」
快活に笑うkaiの明るい笑顔につられて三人で笑ってしまった。そして信頼できる同朋であり部下だったというヨウとカイの関係に思いを馳せる。
後世にまでヨウの想いを託せたのはカイの人柄のお陰に違いない。そしてそのカイの血をkaiが色濃く受け継いでいるんだな。kaiがいなかったら今回のことも成し遂げることが出来たか分からない。その位……俺、君を頼りにしているよ。
人は一人で生きているわけではない。
周りの人と信頼関係を築き、お互い助けあって生きている。
思いやりを持って生きている。
それは、お互いにだ。
kaiのお陰で、そのことを実感できた。
俺、もう一人で抱え込むのはやめたよ。もっと肩の力を抜いて生きて行く。
これからの人生は……ね。
「さぁとりあえず家に戻ろう」
「あぁ早くあの家に戻りたい」
****
「お帰りなさい。洋」
「洋月! 元気だった? 大丈夫だったか」
「留守の間、丈がとても親切にしてくれたよ」
「そうか! ほっとしたよ」
俺より年下に感じる洋月を久しぶりに見ると、嬉しくて思わず抱き寄せてしまった。鼻をかすめるのは白百合の花のような楚々とした香り。帰って来た、そう実感できる香りだった。俺は分身のような洋月のことが、この上なく愛おしく勇気をもらえる存在であることを再認識していた。そしてこの洋月を早く丈の中将の元へ帰してやりたいと再び強く思った。
「その浴衣よく似合っているよ」
「ありがとう。洋からの贈り物だから、大事に着ているよ」
「そうか、よかったよ。あ……丈、王様の容態はどうなの? 」
「あぁ凄くいいよ。こちらの医術に初めて触れたせいか、化学療法の効き目が抜群なんだ。データで見てもびっくりするほどだ。もう腫瘍はすっかり消え、今は体調を整えて経過をみている段階だ。この分なら来月には戻ることも可能だ」
「本当か、それは良かった!」
「……だが洋、どうやったら再び時を動かせるか、まだ分からないんだろう? 」
丈が俺を気遣うように見つめてくる。そうだ……早く伝えないと、あの月輪の欠片のことを。
「丈……そのことなんだが、これを見て欲しい」
丈だ……背が高く涼やかな佇まいが人目を引いているのが分かる。
「丈っ!」
思わず駆け寄ってしまった。
「洋、お帰り」
「うん、ただいま」
丈がポンポンと労わる様に肩に手を置いてくれると、途端に穏やかな空気が流れてくる。あぁやっぱりほっとする。丈が傍にいてくれると何故だか俺のバランスは良くなるよ。心も躰も穏やかになれる瞬間だ。
「kaiもお疲れさま」
「あぁ!いや~洋の子守りは、飛行機の中でも大変だったよ」
kaiが眠たそうな目を擦りながら文句を言うので、不思議に思う。
「kai……俺の子守りって何のことだ? 」
「だってさ、帰国の飛行機の中も大忙しだったよ。隣の席の奴が洋を見るなり色目を使ってくるから、さりげなく奥の席にしたり、洋がトイレに行けばズラズラと他の男も付いて行こうとするから、それを阻止するのにも忙しかったよ。洋は呑気にしているから気づいていなかったが。洋が油断した顔で眠っている間も俺、気が張って眠れなかったよ! あーもうなんの因果か、俺のプライベートが何もないのが本気でむなしい!」
「ははっ。kaiそうだったのか。それはありがとうな。洋はkaiが近くにいると周りに気を張るのを忘れてしまうようだな」
「kaiっ…そんなだったか。俺……全然気が付かなくてごめんっ」
kaiの言う事はオーバーだとは思いながらも、そういえば、いつもみたいに周りの目を気にすることもなく、俺はアメリカでも飛行機の中でも、嫌な目に遭うこともなくリラックスして過ごせたことを思い出した。
kaiが傍にいてくれるという事が、どれだけ安心するのか。
これは丈とはまた違う安心感だよ。
「kai、改めて言うよ。ありがとう。君のお陰で無事に帰って来られた」
「なんだよ~照れるぜ!まぁ俺のお陰で愛しの丈の元に帰って来られて良かったな~今宵は丈との熱い夜で眠れないから、飛行機の中でいっぱい寝てたんだろっ! あーまったく妬けるぜ! 」
「kaiっ! 」
「ははっ! 」
快活に笑うkaiの明るい笑顔につられて三人で笑ってしまった。そして信頼できる同朋であり部下だったというヨウとカイの関係に思いを馳せる。
後世にまでヨウの想いを託せたのはカイの人柄のお陰に違いない。そしてそのカイの血をkaiが色濃く受け継いでいるんだな。kaiがいなかったら今回のことも成し遂げることが出来たか分からない。その位……俺、君を頼りにしているよ。
人は一人で生きているわけではない。
周りの人と信頼関係を築き、お互い助けあって生きている。
思いやりを持って生きている。
それは、お互いにだ。
kaiのお陰で、そのことを実感できた。
俺、もう一人で抱え込むのはやめたよ。もっと肩の力を抜いて生きて行く。
これからの人生は……ね。
「さぁとりあえず家に戻ろう」
「あぁ早くあの家に戻りたい」
****
「お帰りなさい。洋」
「洋月! 元気だった? 大丈夫だったか」
「留守の間、丈がとても親切にしてくれたよ」
「そうか! ほっとしたよ」
俺より年下に感じる洋月を久しぶりに見ると、嬉しくて思わず抱き寄せてしまった。鼻をかすめるのは白百合の花のような楚々とした香り。帰って来た、そう実感できる香りだった。俺は分身のような洋月のことが、この上なく愛おしく勇気をもらえる存在であることを再認識していた。そしてこの洋月を早く丈の中将の元へ帰してやりたいと再び強く思った。
「その浴衣よく似合っているよ」
「ありがとう。洋からの贈り物だから、大事に着ているよ」
「そうか、よかったよ。あ……丈、王様の容態はどうなの? 」
「あぁ凄くいいよ。こちらの医術に初めて触れたせいか、化学療法の効き目が抜群なんだ。データで見てもびっくりするほどだ。もう腫瘍はすっかり消え、今は体調を整えて経過をみている段階だ。この分なら来月には戻ることも可能だ」
「本当か、それは良かった!」
「……だが洋、どうやったら再び時を動かせるか、まだ分からないんだろう? 」
丈が俺を気遣うように見つめてくる。そうだ……早く伝えないと、あの月輪の欠片のことを。
「丈……そのことなんだが、これを見て欲しい」
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