210 / 1,657
第4章
時を動かす 12
しおりを挟む
「どうか目を覚ましてください」
「覚まして欲しい」
「このまま逝かないで」
呪文のように繰り返す言葉。俺の口から一度零れ落ちたら、もう止まらない。涙の滴と共に、父に静かに降り注いでいった。
それでも、なんの反応も見せない父の手を握りしめ、その手をさすって願いを込める。
確かに父さんが俺にしたことは、消えない。許せない。でもすぐでなくてもいつか許せたらいい。そう葛藤しているのは真実です。
父さん……このまま逝ってしまったら俺、何もできないよ。いつか許すこともできないじゃないか。お願いだから、目を覚まして!
俺の事を、あんな風に気にかけてくれていたなんて知らなかった。俺はずっと拒否し続けていたのに。Kentに聞かなかったら永遠に気づけなかった。そんなKentをあなたは命がけで守ってくれたのですね。
縁は続いている。
まだ切れていない。
決して死んで欲しい憎む程、嫌いではない。
ごめん。好きとはまだ言えないけれども。
死んで欲しくない。
生きていて欲しい。
父さんの手の甲に、親子の愛情を込めて、静かな心で口づけをした。
涙の雨と共に。
ピクっ
その時だった、父の指先が少し動いたのは。
「父さん?」
ピクっ
今度は固く閉じられていた睫毛が微かに揺れた。
「父さん! 気が付いたの?」
確実に意識が戻って来ている!
「すいません! 父が! 」
俺は慌てて看護師さんを呼んだ。
「どうしました? 」
「意識が戻って来ているみたいなんです」
「本当ですか? 崔加さんっ! 分かりますか」
「意識が戻って来ていますね! 息子さんは少しカーテンの向こうで待っていていただけますか、処置をしますので」
「分かりました!あの……」
「はい? 」
「……父のことよろしくお願いします」
カーテンから抜け出ると心配そうなkaiとkentと目が合った。
「洋、大丈夫か」
「you、ありがとう。社長はどうだった? 中が騒がしいが」
「ありがとう。意識が戻りそうなんだ」
「本当か! 信じられないなっ! 洋、良かったな」
kaiがその温かい手を俺の肩に置いて微笑んでくれた。Kentは控えめに部屋の壁で俺達の様子を嬉しそうに温かく見守ってくれている。
ここに今集う俺達。
これもまたすべての縁があってのことなんだ。本当に生きていると不思議なことの繰り返しだな。
そのまま数時間待った。ようやく処置が終わったようで、看護師さんにもう一度中に呼ばれた。
「やっとしゃべれる状態になりました。息子さんを呼んでいますので中にどうぞ」
「行ってくるよ……しっかり話してくる」
カーテンを潜ると、父と眼が合った。もう……あの日の狂ったような眼ではなかった。幼い頃に俺を慈しんでくれていた時期のよくしていた眼を思い出した。
俺はずっと忘れていた。この眼を……
「……」
酸素マスクを外したばかりの掠れる声で、父が何か小さく囁いた。
「父さん? 」
「あれは……慈雨の……雨だった」
「慈雨……?」
「お前の涙だったんだな……すまない……ありがとう」
「覚まして欲しい」
「このまま逝かないで」
呪文のように繰り返す言葉。俺の口から一度零れ落ちたら、もう止まらない。涙の滴と共に、父に静かに降り注いでいった。
それでも、なんの反応も見せない父の手を握りしめ、その手をさすって願いを込める。
確かに父さんが俺にしたことは、消えない。許せない。でもすぐでなくてもいつか許せたらいい。そう葛藤しているのは真実です。
父さん……このまま逝ってしまったら俺、何もできないよ。いつか許すこともできないじゃないか。お願いだから、目を覚まして!
俺の事を、あんな風に気にかけてくれていたなんて知らなかった。俺はずっと拒否し続けていたのに。Kentに聞かなかったら永遠に気づけなかった。そんなKentをあなたは命がけで守ってくれたのですね。
縁は続いている。
まだ切れていない。
決して死んで欲しい憎む程、嫌いではない。
ごめん。好きとはまだ言えないけれども。
死んで欲しくない。
生きていて欲しい。
父さんの手の甲に、親子の愛情を込めて、静かな心で口づけをした。
涙の雨と共に。
ピクっ
その時だった、父の指先が少し動いたのは。
「父さん?」
ピクっ
今度は固く閉じられていた睫毛が微かに揺れた。
「父さん! 気が付いたの?」
確実に意識が戻って来ている!
「すいません! 父が! 」
俺は慌てて看護師さんを呼んだ。
「どうしました? 」
「意識が戻って来ているみたいなんです」
「本当ですか? 崔加さんっ! 分かりますか」
「意識が戻って来ていますね! 息子さんは少しカーテンの向こうで待っていていただけますか、処置をしますので」
「分かりました!あの……」
「はい? 」
「……父のことよろしくお願いします」
カーテンから抜け出ると心配そうなkaiとkentと目が合った。
「洋、大丈夫か」
「you、ありがとう。社長はどうだった? 中が騒がしいが」
「ありがとう。意識が戻りそうなんだ」
「本当か! 信じられないなっ! 洋、良かったな」
kaiがその温かい手を俺の肩に置いて微笑んでくれた。Kentは控えめに部屋の壁で俺達の様子を嬉しそうに温かく見守ってくれている。
ここに今集う俺達。
これもまたすべての縁があってのことなんだ。本当に生きていると不思議なことの繰り返しだな。
そのまま数時間待った。ようやく処置が終わったようで、看護師さんにもう一度中に呼ばれた。
「やっとしゃべれる状態になりました。息子さんを呼んでいますので中にどうぞ」
「行ってくるよ……しっかり話してくる」
カーテンを潜ると、父と眼が合った。もう……あの日の狂ったような眼ではなかった。幼い頃に俺を慈しんでくれていた時期のよくしていた眼を思い出した。
俺はずっと忘れていた。この眼を……
「……」
酸素マスクを外したばかりの掠れる声で、父が何か小さく囁いた。
「父さん? 」
「あれは……慈雨の……雨だった」
「慈雨……?」
「お前の涙だったんだな……すまない……ありがとう」
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる