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第4章
時を動かす 8
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「あれ? お前っyouか」
「あっ! 」
その顔を見た途端、俺は過去の恐怖を思い出した。
あいつは……俺を車の中で襲った男だ。たしかKentという名のクラスメイト。
あれは大学に入学して間もない時だった。歓迎パーティーの帰り道、急に雨が降ってきたので乗せてもらった車の中で、眠ってしまった俺を羽交い絞めにして、無理矢理キスしてきた奴だ。 ※「重なる月」はじまり3参照
あの時の酒臭い息。押し倒され下半身をまさぐられたあの指の感覚。太い毛深い指……全て思い出したくない、封印したい過去だ。
「It is a case of mistaken identity!」(人違いだ!)
俺は躰を翻し、その男から逃げようとした。
「you!待てよ!悪かった」
だが、逃げようとした俺の手首を掴まれてしまった。
「うっ」
「見間違えるはずないじゃないか」
「やめろ! 手を離せ! 」
「あっああ悪かった。つい力が入り過ぎた。お願いだ。ここで会えたのも何かの縁だ」
あの時のような凶悪な雰囲気ではなく、すっかり憑き物が落ちたかのように落ち着いた大人になっているKentに、俺は逃げるのをやめた。だが、かといって話すこともない。相手はかつて、俺を凌辱しようとした相手だから。
「……お前と話すことなんて、俺にはない」
早くこの場から逃げないと。kaiの言う通りだ。一人で行動なんてしたから、こんな目に遭って、こんな奴と再会してしまった。そんな後悔に押しつぶされそうになっていると、kentの口から意外な言葉が漏れた。
それは本当に反省の心を感じさせる真摯な口調だった。
「you……許してくれ、お前には本当に申し訳ないことをした」
「……」
「youにずっと直接謝りたかった。お前、あれから大学に暫く来なくなってしまって、俺は心配で心配で見舞いに行ったんだ。知っているか」
「えっ? 」
そんなことは知らない。確かにあの日のショックで1週間以上大学に行けなかった。雨に濡れたのと襲われたショックで、酷い風邪をひいて寝込んだのは覚えている。あの時は流石に義父も心配して、会社を数日休んで付き添ってくれた。
「冷静になった俺は、酒の勢いであんなレイプまがいなことをしてしまったことを恥じて、死にたい気持ちだった。youに訴えられたら甘んじて受け入れようと思っていたよ」
「……そこまで」
「思い詰めて勇気を出して、お前の見舞いに行ったんだ。そうしたらお父さんがいて」
「えっ!義父と会ったのか?」
「あぁ。youは高熱で寝込んでいたから会えなくて、代わりにお父さんに『俺は息子さんに手を出しました。訴えるなり殴るなり好きにしてください』って謝った」
「……そうだったのか。それで義父は何と?」
「お前のお父さんは紳士的でいい人だよな」
「……いい人?」
思わず復唱してしまった。あの人がいい人だなんて……そんな風に他人から言われると複雑な気持ちになる。
「あぁ素敵な方だ」
「どうしてそんな風に? 」
「お父さんは最初怒っていた。でも俺が真面目に謝りにきてくれたことを見込んでくれたのか、『君が犯した罪は消えない。だが償っていくことは出来る。それが出来るのなら実行してくれ。私は君を訴えたり殴ったりはしないから』と言ってくれて」
「それで? 」
「youが大学での生活を無事に送れるように、陰ながら守って欲しいと言われたんだよ」
「えっ!」
想像もしなかった。義父がクラスメイトにそんなことを頼んでいたなんて。一体どういうことなんだ。確かにあの事件以降、不思議と周りが静かになり、事件に巻き込まれることもなく大学を無事に卒業出来た。まさか裏で義父がそんなことを頼んでいたなんて……今まで思いもしなかった。
「俺は必死に守ったよ。お前のことを色目で見る奴は消しても消しても湧いてきたからな」
「なんてことだ……ごめん。少し整理させて欲しい」
頭がクラクラしてくる。心が追いつかない。
あのアメリカでの生活の中で、俺は……俺が知らないところで義父に守られていたということなのか。
あぁでも何故その後……あんな行為に至ってしまったのか。義父の本心が……気持ちが掴めない。
「you、顔色悪いぞ。向こうで座って話そうか」
「あぁ……そうしよう」
「あっ! 」
その顔を見た途端、俺は過去の恐怖を思い出した。
あいつは……俺を車の中で襲った男だ。たしかKentという名のクラスメイト。
あれは大学に入学して間もない時だった。歓迎パーティーの帰り道、急に雨が降ってきたので乗せてもらった車の中で、眠ってしまった俺を羽交い絞めにして、無理矢理キスしてきた奴だ。 ※「重なる月」はじまり3参照
あの時の酒臭い息。押し倒され下半身をまさぐられたあの指の感覚。太い毛深い指……全て思い出したくない、封印したい過去だ。
「It is a case of mistaken identity!」(人違いだ!)
俺は躰を翻し、その男から逃げようとした。
「you!待てよ!悪かった」
だが、逃げようとした俺の手首を掴まれてしまった。
「うっ」
「見間違えるはずないじゃないか」
「やめろ! 手を離せ! 」
「あっああ悪かった。つい力が入り過ぎた。お願いだ。ここで会えたのも何かの縁だ」
あの時のような凶悪な雰囲気ではなく、すっかり憑き物が落ちたかのように落ち着いた大人になっているKentに、俺は逃げるのをやめた。だが、かといって話すこともない。相手はかつて、俺を凌辱しようとした相手だから。
「……お前と話すことなんて、俺にはない」
早くこの場から逃げないと。kaiの言う通りだ。一人で行動なんてしたから、こんな目に遭って、こんな奴と再会してしまった。そんな後悔に押しつぶされそうになっていると、kentの口から意外な言葉が漏れた。
それは本当に反省の心を感じさせる真摯な口調だった。
「you……許してくれ、お前には本当に申し訳ないことをした」
「……」
「youにずっと直接謝りたかった。お前、あれから大学に暫く来なくなってしまって、俺は心配で心配で見舞いに行ったんだ。知っているか」
「えっ? 」
そんなことは知らない。確かにあの日のショックで1週間以上大学に行けなかった。雨に濡れたのと襲われたショックで、酷い風邪をひいて寝込んだのは覚えている。あの時は流石に義父も心配して、会社を数日休んで付き添ってくれた。
「冷静になった俺は、酒の勢いであんなレイプまがいなことをしてしまったことを恥じて、死にたい気持ちだった。youに訴えられたら甘んじて受け入れようと思っていたよ」
「……そこまで」
「思い詰めて勇気を出して、お前の見舞いに行ったんだ。そうしたらお父さんがいて」
「えっ!義父と会ったのか?」
「あぁ。youは高熱で寝込んでいたから会えなくて、代わりにお父さんに『俺は息子さんに手を出しました。訴えるなり殴るなり好きにしてください』って謝った」
「……そうだったのか。それで義父は何と?」
「お前のお父さんは紳士的でいい人だよな」
「……いい人?」
思わず復唱してしまった。あの人がいい人だなんて……そんな風に他人から言われると複雑な気持ちになる。
「あぁ素敵な方だ」
「どうしてそんな風に? 」
「お父さんは最初怒っていた。でも俺が真面目に謝りにきてくれたことを見込んでくれたのか、『君が犯した罪は消えない。だが償っていくことは出来る。それが出来るのなら実行してくれ。私は君を訴えたり殴ったりはしないから』と言ってくれて」
「それで? 」
「youが大学での生活を無事に送れるように、陰ながら守って欲しいと言われたんだよ」
「えっ!」
想像もしなかった。義父がクラスメイトにそんなことを頼んでいたなんて。一体どういうことなんだ。確かにあの事件以降、不思議と周りが静かになり、事件に巻き込まれることもなく大学を無事に卒業出来た。まさか裏で義父がそんなことを頼んでいたなんて……今まで思いもしなかった。
「俺は必死に守ったよ。お前のことを色目で見る奴は消しても消しても湧いてきたからな」
「なんてことだ……ごめん。少し整理させて欲しい」
頭がクラクラしてくる。心が追いつかない。
あのアメリカでの生活の中で、俺は……俺が知らないところで義父に守られていたということなのか。
あぁでも何故その後……あんな行為に至ってしまったのか。義父の本心が……気持ちが掴めない。
「you、顔色悪いぞ。向こうで座って話そうか」
「あぁ……そうしよう」
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