重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
202 / 1,657
第4章

時を動かす 4

しおりを挟む
「洋、気を付けて行って来い。kai、洋のことをくれぐれも頼むよ」
「おお!任せておけって。有休もたっぷりもらえたし、しっかり洋のこと見張っておくよ、ははっ」
「kaiっ、俺のことは見張るんじゃないだろう? 俺は何もしてないぞ」
「ふふっ洋と二人で旅行なんて楽しみだよ」
「まったく……」
「心配だな」

 丈と俺は顔を見合わせて苦笑してしまった。kaiはどこまで本気でどこまでが冗談だかわからないが、本人曰く言霊に縛られているらしく俺をからかいはするが手を出するつもりはないらしい。

 ヨウの信頼する部下だったカイの末裔。そのこともあるから丈はkaiのことを信頼している。だから丈自ら頼み込んで、一緒に渡米してくれることになった。あれからkaiを通して現地の義父の入院先や状況を調べてもらったが、まだ意識は戻らず危ない状態が続いているらしい。

「丈、由さんと王様と洋月のことをよろしく頼む。俺、しっかりケリををつけてくるから……」
「洋、あまり無理するなよ」

 丈の横に立っている洋月のことを見ると、俺が注文してあげた白地の浴衣を着て、静かに微笑んでいた。白い小袖も似合っていたが浴衣もしっとりと着こなしている。

「うん!似合うよ」
「ありがとう。洋……俺……祈っているから」
「ありがとう。じゃあ行ってくるから。俺の丈のことよろしくな」

****

 そんな挨拶を交わしkaiと共に俺は久しぶりにアメリカにやってきた。ニューヨーク州マンハッタンは、高校の途中から大学卒業までの五年間を過ごした土地だ。

「あぁ懐かしいな」
「洋は大学卒業まで、ここに住んでいたって聞いたが」
「うん、五年間過ごした場所だ」
「五年も! 俺も大学の時、旅行でニューヨークに来たことがあるよ」
「kaiも? 俺達どこかですれ違っていたかもな」
「そうだな、さてちょっと一息いれようぜ。珈琲でいいか」
「うん。アイスコーヒーにしようかな」

 コーヒースタンドで一服しながら、金髪碧眼の人が往来する空港内をぼーっと眺めていると、昔のことが走馬灯のように思い出される。

 ひたすら目立たぬようにひっそりと過ごしていた五年間。

 息が詰まるような義父との二人暮らしで、休日の気まずさに耐えかねて、サウス・フェリーに乗ってスタテン島へ往復することでいつも時間を潰していた。

 あの時の義父は、俺との間の一線を越えるようなことは決してなかった。いつも俺を見る目は苦痛に歪んでいた。義父は何を感じ何を我慢していたのか。

 あの時船であった伯母の話は、俺が全く知らない聞かされていない世界だった。もともとの母の婚約者だったのが義父だったなんて知らなかったよ。母が婚約者や家を捨て家庭教師をしていた実父と駆け落ちをしていたなんてな。          (※安志編 面影9参照)

 義父のしたことは許せない。許せるはずないじゃないか。無理矢理脅すように俺の躰を支配し、奪ったのだから。だが婚約者だった母を愛していたのに裏切られたことが、義父の苦しみの発端となっていたのかもしれない。そう思うと何とも言えない気持ちになってしまう。

「洋、まっすぐ病院へ行くか」

 過去に想いを馳せていると、現実に引き戻されるようにkaiに声をかけられた。

「あぁそうしよう。義父の様子を……まず確認したい」
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

処理中です...