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第4章
重なる出会い 2
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「入ってもいい?」
「どうぞ」
ドアを開けると俺が居た。いや俺よりも更に儚げで心配になってしまう程ほっそりとした人がいた。
「良かった。戻って来てくれて」
彼は俺を見つめ、目元を緩ませ涙ぐんだ。
「……また誰かこの世界にやって来たのだね」
「えっなんでそんなことが分かるんだ?」
「んっここが……」
彼はそう言いながら、心臓の辺りを押さえた。
「そこに?」
訝し気に問うと、彼はまたあの白百合の花が咲くかのような清らかな笑顔になった。
「ここに届くよ。君の心に反応して……今日は忙しかったね。感情が……あんなにも複雑でいろいろあるとは……一つ一つの名前は知っていても、俺には感じたことがないものも多かったから驚いたよ」
「……そうか。少し君のこと教えてくれないか」
「いいよ。何でも聞いて」
俺は彼が寝ているベッドの横に腰を下ろた。この俺にそっくりな青年が一体どこからやって来たのか詳しく知りたくなった。
「君はどんな時代を生きている?」
「どんな時代?そう言われても……帝がいて……御所があって、牛車……丈の中将がいて……湖があって……」
キーワードになりそうなことを挙げた彼は少し寂しそうだ。単語から想像するに、日本の平安時代からってことになるな。全く信じられない。今日は想像もできないことの連続だ。
ヨウ将軍絡みのことは理解したつもりで覚悟も出来ていたが、まさかヨウ将軍以外の自分にそっくりな人がこの世にタイムスリップしてくるなんて。
「丈の中将か。その人は君の大切な人なんだね」
「うっ……」
その名を挙げた途端、崩れ落ちそうな表情になってしまった。
「うん……俺の大事な人なんだ。とてもとても大切な俺にとって宝物のような人だよ」
「丈に似ているのだね?」
「そっくりだよ。最初は本人かと思った位だ。一体ここは何処なんだ? 君は俺にそっくりだし、丈の中将にそっくりな丈と呼ばれる人もいる。あっ……そういえば君の名前はなんていうんだ?」
「崔加 洋だよ。『よう』って呼ばれている。君は?」
「洋月(ようげつ)だ」
「ようげつ……そうか……月が付くのか」
彼はまじまじと俺の顔を見て、その後視線を胸元に落とし驚きの声をあげた。
「あっそれ……」
「何?」
「君のその胸元の飾りをよく見せてくれないか」
胸元の飾りとは月輪のネックレスのことだ。彼の手の平にそっと載せてやると、彼は懐かしそうに触れた。
「これは俺が失くしたものだ」
「失くした?」
「あの時……俺は逃げていた。追手が迫り焦った俺は不注意にも足を滑らせて湖に落下してしまった。その時袂からこの月輪が滑り落ち、離れ離れになってしまったのに、まさかここにあるなんて……」
「えっ君もこれを持っていたの?」
「そうだよ。これは元々俺の母の形見だからね」
なんてことだ。ヨウ将軍がこの悲恋の発端かと思っていたのだが、もしかしたら今俺の目の前にいるこの青年が発端なのか。どうにも考えがまとまらない。
すると月輪を指で撫でていた彼の動きが停まった。
「あっ……ここ、欠けてしまったのか」
「……」
あの時だ。思い出したくもない。未だに逃げていること。忘れたいことがある。
あの日、俺が絶望の淵に落とされた。義父に無理矢理ホテルの一室で抱かれた日だ。首から強引に外され投げ捨てられた月輪のネックレスは、窓枠に強くぶつかり欠けてしまった。
「もともとは君のものだったのに……俺のせいで欠けさせてしまってごめん」
「いいんだよ……君の方がもっともっと辛かったはずだ」
その瞬間ふわりと彼が俺を抱きしめてくれた。鼻をかすめる香りに酔いそうだ。白百合の香しい高貴な香りを彼は持っている。
彼はまるで俺の心を読み取ったかのように苦し気な表情を浮かべ、俺の背をさすりながら、囁いた。
「そうか……君も酷く辛い目にあったのだね。絶対にあってはいけないことを……された。でももう大丈夫なのか……いや大丈夫そうだね」
ドキリとした。まるで自分自身に慰められているような心地良さ。
さっきまで儚げで折れそうな人だと洋月のことを見ていたが、本当は芯が強く凛とした人なんだな。とてつもなく気高い……そんな言葉が似合う人だ。
「洋月には全部伝わっているのか。俺の気持ち」
「そうだよ洋……今、君は満月のように満ちている。落ち着いている。君の丈がしっかり傍にいてくれるからだね」
そうかもしれない。
少し前の俺では考えられない程、心も躰も軽い。今なら何でもできそうな、そんな自信すら沸いてくる。
(俺も……俺の丈の中将の元に戻りたい…)
今度は彼の本音が聴こえてくる。口に出さなくても伝わるよ。
「大丈夫。俺が元の世界に帰してやれるように頑張ってみる。今は心と躰を休めて欲しい。洋月……君はひどく衰弱している……」
「ありがとう……君は俺だから信じている。その時が来るまで、この世界で待つよ」
その時、電話が鳴った。
「もしもし?」
「どうぞ」
ドアを開けると俺が居た。いや俺よりも更に儚げで心配になってしまう程ほっそりとした人がいた。
「良かった。戻って来てくれて」
彼は俺を見つめ、目元を緩ませ涙ぐんだ。
「……また誰かこの世界にやって来たのだね」
「えっなんでそんなことが分かるんだ?」
「んっここが……」
彼はそう言いながら、心臓の辺りを押さえた。
「そこに?」
訝し気に問うと、彼はまたあの白百合の花が咲くかのような清らかな笑顔になった。
「ここに届くよ。君の心に反応して……今日は忙しかったね。感情が……あんなにも複雑でいろいろあるとは……一つ一つの名前は知っていても、俺には感じたことがないものも多かったから驚いたよ」
「……そうか。少し君のこと教えてくれないか」
「いいよ。何でも聞いて」
俺は彼が寝ているベッドの横に腰を下ろた。この俺にそっくりな青年が一体どこからやって来たのか詳しく知りたくなった。
「君はどんな時代を生きている?」
「どんな時代?そう言われても……帝がいて……御所があって、牛車……丈の中将がいて……湖があって……」
キーワードになりそうなことを挙げた彼は少し寂しそうだ。単語から想像するに、日本の平安時代からってことになるな。全く信じられない。今日は想像もできないことの連続だ。
ヨウ将軍絡みのことは理解したつもりで覚悟も出来ていたが、まさかヨウ将軍以外の自分にそっくりな人がこの世にタイムスリップしてくるなんて。
「丈の中将か。その人は君の大切な人なんだね」
「うっ……」
その名を挙げた途端、崩れ落ちそうな表情になってしまった。
「うん……俺の大事な人なんだ。とてもとても大切な俺にとって宝物のような人だよ」
「丈に似ているのだね?」
「そっくりだよ。最初は本人かと思った位だ。一体ここは何処なんだ? 君は俺にそっくりだし、丈の中将にそっくりな丈と呼ばれる人もいる。あっ……そういえば君の名前はなんていうんだ?」
「崔加 洋だよ。『よう』って呼ばれている。君は?」
「洋月(ようげつ)だ」
「ようげつ……そうか……月が付くのか」
彼はまじまじと俺の顔を見て、その後視線を胸元に落とし驚きの声をあげた。
「あっそれ……」
「何?」
「君のその胸元の飾りをよく見せてくれないか」
胸元の飾りとは月輪のネックレスのことだ。彼の手の平にそっと載せてやると、彼は懐かしそうに触れた。
「これは俺が失くしたものだ」
「失くした?」
「あの時……俺は逃げていた。追手が迫り焦った俺は不注意にも足を滑らせて湖に落下してしまった。その時袂からこの月輪が滑り落ち、離れ離れになってしまったのに、まさかここにあるなんて……」
「えっ君もこれを持っていたの?」
「そうだよ。これは元々俺の母の形見だからね」
なんてことだ。ヨウ将軍がこの悲恋の発端かと思っていたのだが、もしかしたら今俺の目の前にいるこの青年が発端なのか。どうにも考えがまとまらない。
すると月輪を指で撫でていた彼の動きが停まった。
「あっ……ここ、欠けてしまったのか」
「……」
あの時だ。思い出したくもない。未だに逃げていること。忘れたいことがある。
あの日、俺が絶望の淵に落とされた。義父に無理矢理ホテルの一室で抱かれた日だ。首から強引に外され投げ捨てられた月輪のネックレスは、窓枠に強くぶつかり欠けてしまった。
「もともとは君のものだったのに……俺のせいで欠けさせてしまってごめん」
「いいんだよ……君の方がもっともっと辛かったはずだ」
その瞬間ふわりと彼が俺を抱きしめてくれた。鼻をかすめる香りに酔いそうだ。白百合の香しい高貴な香りを彼は持っている。
彼はまるで俺の心を読み取ったかのように苦し気な表情を浮かべ、俺の背をさすりながら、囁いた。
「そうか……君も酷く辛い目にあったのだね。絶対にあってはいけないことを……された。でももう大丈夫なのか……いや大丈夫そうだね」
ドキリとした。まるで自分自身に慰められているような心地良さ。
さっきまで儚げで折れそうな人だと洋月のことを見ていたが、本当は芯が強く凛とした人なんだな。とてつもなく気高い……そんな言葉が似合う人だ。
「洋月には全部伝わっているのか。俺の気持ち」
「そうだよ洋……今、君は満月のように満ちている。落ち着いている。君の丈がしっかり傍にいてくれるからだね」
そうかもしれない。
少し前の俺では考えられない程、心も躰も軽い。今なら何でもできそうな、そんな自信すら沸いてくる。
(俺も……俺の丈の中将の元に戻りたい…)
今度は彼の本音が聴こえてくる。口に出さなくても伝わるよ。
「大丈夫。俺が元の世界に帰してやれるように頑張ってみる。今は心と躰を休めて欲しい。洋月……君はひどく衰弱している……」
「ありがとう……君は俺だから信じている。その時が来るまで、この世界で待つよ」
その時、電話が鳴った。
「もしもし?」
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