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第4章
邂逅 10
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洋からの連絡を受け、応急処置できる道具を担いで湖へ向かった。
ドアを開けると横殴りの雨が私の躰をあっという間にびしょ濡れにしたが、洋のあの切羽詰まった声……今は悠長に傘をさしている場合ではない。
大きな樹の後ろに広がる黒い森を抜けて湖になんとか辿り着くが、洋たちはまだ到着していないようだ。
雨で霞む視界に目を凝らすと、雨で波打つ湖の湖岸に白いものが見える。
慌てて近寄ってみると、びっしょり濡れた白い着物を身に纏い、意識なく横たわった人だった。
「おい!しっかりしろ!」
長い髪が濡れて顔にまとわりついて表情が見えない。
溺れた人だ。
すぐに分かった。
応急処置を施さねば。
脈をとると、微かに感じた。
さらにその濡れた髪を払って人工呼吸しようとした時、驚きで飛び退きそうになった。
「えっ……洋っ?」
これは……洋と瓜二つの顔をしているこの青年は誰だ? いや今は深く考えない方がいい。
一刻を争う事態だ。
まずは救ってやりたい。
顎を上に持ち上げ首を後ろに反らせ気道を確保し、心肺蘇生法を開始した。
助かってくれ!
彼と唇を合わせたとき私の心に込み上げて来た、この熱い感情はなんだ?
私は彼を知っている。
私がずっと探し求めていた人だ……
そんな不思議な感覚に一瞬にして陥った。
いつだか分からない日、私は湖に浮かぶ月輪をこの手に掬い取って、二つの月輪を胸に抱き嗚咽した。いなくなってしまった愛する人に再び逢いたくて、むせび泣いたことがある……?
頭の中では次々と不思議な情景が浮かぶが、己の躰は条件反射の如く必死に救命救護を続けていた。
人工呼吸と心臓マッサージを行っていくうちに、指先が微かにピクリと動くと同時に彼は咳き込んだ。
ゴホッ……ゴホッ……
少量の水を吐いたので横を向かせて、それからまた人工呼吸を繰り返していくと、切なげに苦し気に顔を歪めた、彼がうっすらと目を開いた。
はっとした。
洋とそっくりな顔だが、洋ではない。洋よりも色白でずっと儚い、今すぐにでも折れてしまいそうな躰。
その涼やかな品を湛えた麗しい眼は驚きに満ち、涙が溢れていた。そして私に向かって細い手を伸ばしてきた。
その震える手を、そっと握んでやると、彼の口がゆっくりと動いた。
「君は……丈の中将なのか……もう一度……逢いたかった」
そう呟いた後、再び意識を失ってしまった。
「おいっしっかりしろ!」
ゆさゆさと躰を揺さぶるが反応がない。その時、背後に車が停まった。
「丈っ!」
「洋か」
「助かる?」
「分からない、今すぐ温めてやらねばっ」
「乗って!」
kaiが運転する車のドアが開いたので、私のその青年を横抱きにして車に乗り込んだ。
洋が手際よく彼の白い着物を脱がし躰をタオルで拭き、さらに毛布で覆ってくれた。そして顔をまじまじとのぞき込み、神妙な顔をした。
「洋……一体この青年は誰だ?」
「さっき夢でみた彼だよ。きっと過去の俺の一人……」
「何だって?」
ドアを開けると横殴りの雨が私の躰をあっという間にびしょ濡れにしたが、洋のあの切羽詰まった声……今は悠長に傘をさしている場合ではない。
大きな樹の後ろに広がる黒い森を抜けて湖になんとか辿り着くが、洋たちはまだ到着していないようだ。
雨で霞む視界に目を凝らすと、雨で波打つ湖の湖岸に白いものが見える。
慌てて近寄ってみると、びっしょり濡れた白い着物を身に纏い、意識なく横たわった人だった。
「おい!しっかりしろ!」
長い髪が濡れて顔にまとわりついて表情が見えない。
溺れた人だ。
すぐに分かった。
応急処置を施さねば。
脈をとると、微かに感じた。
さらにその濡れた髪を払って人工呼吸しようとした時、驚きで飛び退きそうになった。
「えっ……洋っ?」
これは……洋と瓜二つの顔をしているこの青年は誰だ? いや今は深く考えない方がいい。
一刻を争う事態だ。
まずは救ってやりたい。
顎を上に持ち上げ首を後ろに反らせ気道を確保し、心肺蘇生法を開始した。
助かってくれ!
彼と唇を合わせたとき私の心に込み上げて来た、この熱い感情はなんだ?
私は彼を知っている。
私がずっと探し求めていた人だ……
そんな不思議な感覚に一瞬にして陥った。
いつだか分からない日、私は湖に浮かぶ月輪をこの手に掬い取って、二つの月輪を胸に抱き嗚咽した。いなくなってしまった愛する人に再び逢いたくて、むせび泣いたことがある……?
頭の中では次々と不思議な情景が浮かぶが、己の躰は条件反射の如く必死に救命救護を続けていた。
人工呼吸と心臓マッサージを行っていくうちに、指先が微かにピクリと動くと同時に彼は咳き込んだ。
ゴホッ……ゴホッ……
少量の水を吐いたので横を向かせて、それからまた人工呼吸を繰り返していくと、切なげに苦し気に顔を歪めた、彼がうっすらと目を開いた。
はっとした。
洋とそっくりな顔だが、洋ではない。洋よりも色白でずっと儚い、今すぐにでも折れてしまいそうな躰。
その涼やかな品を湛えた麗しい眼は驚きに満ち、涙が溢れていた。そして私に向かって細い手を伸ばしてきた。
その震える手を、そっと握んでやると、彼の口がゆっくりと動いた。
「君は……丈の中将なのか……もう一度……逢いたかった」
そう呟いた後、再び意識を失ってしまった。
「おいっしっかりしろ!」
ゆさゆさと躰を揺さぶるが反応がない。その時、背後に車が停まった。
「丈っ!」
「洋か」
「助かる?」
「分からない、今すぐ温めてやらねばっ」
「乗って!」
kaiが運転する車のドアが開いたので、私のその青年を横抱きにして車に乗り込んだ。
洋が手際よく彼の白い着物を脱がし躰をタオルで拭き、さらに毛布で覆ってくれた。そして顔をまじまじとのぞき込み、神妙な顔をした。
「洋……一体この青年は誰だ?」
「さっき夢でみた彼だよ。きっと過去の俺の一人……」
「何だって?」
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