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第4章
邂逅 6
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「丈っどうした?」
「あっ……ああ」
「何か考え事か」
「考えごとというか、最近なんだかこう頭の中というか心臓というか重苦しくて、モヤモヤしてしまう」
そう答えると、途端に洋は心配そうに顔を曇らせた。
「全く医者のくせに……心配させんなよ」
「病気ではないよ」
「そう? ならいいけど……何か心配事でも? 」
「いや、それが良く分からない」
「……」
実はこの丘の上の家に引っ越してきてから、記憶の彼方からなのか心が潰されるような悲しみが押し寄せて来る。これはヨウの持っている近衛隊長と医官の記憶とは少し違うようで、戸惑っている。
「丈っ……あのさ、引っ越しも無事に済んだし、今日は休みだよな? 少しこの家の周りを散歩してみないか」
依然として暗い表情を浮かべたままの私の気分を変えようと思ったのか、洋が自分から珍しく提案してくる。
「そうだな。まだ周りに何があるのか確認してないしな。やっと荷物も片付いたし、行ってみるか」
「あぁ!じゃあ仕度してくるよ」
私が見つけた丘の上の一軒家に引っ越して来て一週間が過ぎた。洋はこの家に越してきてから、寛いだ表情で穏やかに過ごしている。そんな洋の横にいられることが嬉しい。
なのにここ数日、何とも言えない悲しみに胸が押しつぶされそうになるのは何故だ。
****
小高い丘の上の一軒家。
家のすぐ前の原っぱには一本の樹がある。
この樹はきっと私たちに縁があると思う。
この樹の下に立つと、いつも甘酸っぱい気持ちが胸に蘇るから。
「丈、この樹の木陰は気持ちがいいな。これから秋が深まれば紅葉し、また夏には緑の葉をつけるのだろう」
そんなことを言いながら眩しそうに秋の空を見上げる洋の髪は今風に舞い、柔らかく透けている。そんな洋の髪を撫でてやると、気持ち良さそうに長い睫毛を伏せた。そんな洋の表情を隣で見ていると、堪らなく口づけしたくなるじゃないか。
「気に入ったか」
「あぁ。俺はここが好きだ。ずっとこうやって丈といたい」
洋の綺麗な曲線を描く顎をクイっと掴んで上を向かせると、はっとした表情を浮かべた後、すぐに目を伏せてくれた。私はもう片方の手を樹の幹について、洋にちゅっと軽いキスを落とした。
すると洋は物足りなそうに唇を動かすので、もう少し深いキスをしてやる。次第に洋の唇が私を誘うように薄く開かれていく。その間に舌をさしいれて彼の口腔内をまさぐるように動かしてやると、洋からはうっとりしたような吐息があがってくる。
いつもの儀式のような甘い口づけだ。
「ふっ……洋はやっぱり甘いキスが好きだな」
「なっ!」
言葉で弄られるのは照れるらしく、途端に顔を赤く染め、そっぽを向いてしまう。
「違うっ!好きなのは丈の方だ」
そんな洋が可愛くて可愛くて、その細い腰を今度は私に密着するように深く抱き、同時にもっと深い口づけを落としていく。周りを気にして洋がそわそわとし出すのも可愛い。
「あっ……ここ外だ。誰か来たらまずい」
そんな風に言いながらも、深まる快楽に震える洋が愛おしくて、抱く力にも力が入ってしまう。その時突風が吹き、芝生に置いていた洋のキャップが風に大きく舞った。
「あっ!」
洋が慌てて手を伸ばすが、高い木の枝にひかかってしまって届かない。
「洋の背じゃ無理だよ」
「なっ俺はそんなに小さくない」
確かに170cm以上はあって小さくないが、180cmを超える私から見れば頭一つ小さく感じてしまう。私は手を伸ばし木の枝にひっかかったキャップを取ってやった。
その瞬間、電流が走ったようにデジャブを再び感じ、二人で顔を見合わせ微笑みあった。
「こういうことがあったな。遠い昔のヨウとジョウの間にも」
「んっ……丈も感じた? 俺もそう思うよ」
幸せな気持ちでいっぱいの今なのだろう。
きっと過去からの切なる想いが届くのは……
この世で洋と固く結ばれた絆はもう解けない。
この固い絆をもって、どんな困難にも立ち向かうつもりだ。
「この奥は森になっているね。その向こうには何があるのか……行ってみようよ」
「そうだな」
洋と手を繋いで歩く。
一歩また一歩と……
洋と並んで歩む道は、今までの人生の中で一番確かな足取だと思った。
「あっ……ああ」
「何か考え事か」
「考えごとというか、最近なんだかこう頭の中というか心臓というか重苦しくて、モヤモヤしてしまう」
そう答えると、途端に洋は心配そうに顔を曇らせた。
「全く医者のくせに……心配させんなよ」
「病気ではないよ」
「そう? ならいいけど……何か心配事でも? 」
「いや、それが良く分からない」
「……」
実はこの丘の上の家に引っ越してきてから、記憶の彼方からなのか心が潰されるような悲しみが押し寄せて来る。これはヨウの持っている近衛隊長と医官の記憶とは少し違うようで、戸惑っている。
「丈っ……あのさ、引っ越しも無事に済んだし、今日は休みだよな? 少しこの家の周りを散歩してみないか」
依然として暗い表情を浮かべたままの私の気分を変えようと思ったのか、洋が自分から珍しく提案してくる。
「そうだな。まだ周りに何があるのか確認してないしな。やっと荷物も片付いたし、行ってみるか」
「あぁ!じゃあ仕度してくるよ」
私が見つけた丘の上の一軒家に引っ越して来て一週間が過ぎた。洋はこの家に越してきてから、寛いだ表情で穏やかに過ごしている。そんな洋の横にいられることが嬉しい。
なのにここ数日、何とも言えない悲しみに胸が押しつぶされそうになるのは何故だ。
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小高い丘の上の一軒家。
家のすぐ前の原っぱには一本の樹がある。
この樹はきっと私たちに縁があると思う。
この樹の下に立つと、いつも甘酸っぱい気持ちが胸に蘇るから。
「丈、この樹の木陰は気持ちがいいな。これから秋が深まれば紅葉し、また夏には緑の葉をつけるのだろう」
そんなことを言いながら眩しそうに秋の空を見上げる洋の髪は今風に舞い、柔らかく透けている。そんな洋の髪を撫でてやると、気持ち良さそうに長い睫毛を伏せた。そんな洋の表情を隣で見ていると、堪らなく口づけしたくなるじゃないか。
「気に入ったか」
「あぁ。俺はここが好きだ。ずっとこうやって丈といたい」
洋の綺麗な曲線を描く顎をクイっと掴んで上を向かせると、はっとした表情を浮かべた後、すぐに目を伏せてくれた。私はもう片方の手を樹の幹について、洋にちゅっと軽いキスを落とした。
すると洋は物足りなそうに唇を動かすので、もう少し深いキスをしてやる。次第に洋の唇が私を誘うように薄く開かれていく。その間に舌をさしいれて彼の口腔内をまさぐるように動かしてやると、洋からはうっとりしたような吐息があがってくる。
いつもの儀式のような甘い口づけだ。
「ふっ……洋はやっぱり甘いキスが好きだな」
「なっ!」
言葉で弄られるのは照れるらしく、途端に顔を赤く染め、そっぽを向いてしまう。
「違うっ!好きなのは丈の方だ」
そんな洋が可愛くて可愛くて、その細い腰を今度は私に密着するように深く抱き、同時にもっと深い口づけを落としていく。周りを気にして洋がそわそわとし出すのも可愛い。
「あっ……ここ外だ。誰か来たらまずい」
そんな風に言いながらも、深まる快楽に震える洋が愛おしくて、抱く力にも力が入ってしまう。その時突風が吹き、芝生に置いていた洋のキャップが風に大きく舞った。
「あっ!」
洋が慌てて手を伸ばすが、高い木の枝にひかかってしまって届かない。
「洋の背じゃ無理だよ」
「なっ俺はそんなに小さくない」
確かに170cm以上はあって小さくないが、180cmを超える私から見れば頭一つ小さく感じてしまう。私は手を伸ばし木の枝にひっかかったキャップを取ってやった。
その瞬間、電流が走ったようにデジャブを再び感じ、二人で顔を見合わせ微笑みあった。
「こういうことがあったな。遠い昔のヨウとジョウの間にも」
「んっ……丈も感じた? 俺もそう思うよ」
幸せな気持ちでいっぱいの今なのだろう。
きっと過去からの切なる想いが届くのは……
この世で洋と固く結ばれた絆はもう解けない。
この固い絆をもって、どんな困難にも立ち向かうつもりだ。
「この奥は森になっているね。その向こうには何があるのか……行ってみようよ」
「そうだな」
洋と手を繋いで歩く。
一歩また一歩と……
洋と並んで歩む道は、今までの人生の中で一番確かな足取だと思った。
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