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第4章
すれ違う 6
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我を忘れてとは……今日のようなことを言うのだろう。
全く私としたことが信じれれない暴挙に出てしまった。
ここ数日、洋が語学学校の課題に追われていたことは知っていた。来週引っ越す家での生活を楽しみにしているあまり、早く課題を終わらせたくて焦っていたのも、ちゃんと理解していた。だからベッドに誘っても……のって来ないのも理解出来、洋の負担にならないように先に休んだりしていた。
なのに全く駄目だな。
メモを残していたはずなのに、洋が捨てられた猫のような悲壮な顔で、レストランにいる私を見つめているのに気が付いた時は焦った。
もしかしてメモに気が付かず、一人でこんな時間まで私の帰りを待っていたのか。
そんな洋をフォローしたくて追いかけたのに、いつの間にホテルマンとあんなに親し気になっているなんて、思ってもみなかった。
****
あのホテルマン……何処かで?
遠目でははっきりしなかったが、廊下で横をすれ違った時に分かった。あの日洋を抱いている最中にルームサービスを運んで来た男だ。あの時部屋にいたのが洋だってことに気が付いたのだろうか。また変なことにならないといいが。
心配で客室の扉の前で立ち尽くす洋に話しかけるが、話せば話すほど会話がこじれていく。そんな状態で、よりによってホテルマンと食事に行くなんて、酷いではないか。
メモに気付かず部屋でいじけていたにせよ、私へのあてつけか。そう思うと私も気分が悪くなり、大人げなくむっとしてしまった。そうこうしているうちに洋は幼い子供のように怒りながら横を通り抜けて去って行った。
「洋、待てよ」
そう声をかけたのに、洋は無視して行ってしまった。
「やれやれ……」
洋の奴、たかが今日数時間一人だったからって。私だって、ここ数日待ちぼうけばかりで面白くなかったのに。
酔いも手伝ってか、洋に対して珍しく怒りがこみあげて、こんな風にきつく思ってしまう。こうなったら今日はもうしょうがない。明日になったらきちんと洋と話そう。
一旦レストランへ戻ろうと思いロビーに降りると、洋があのホテルマンとホテルの玄関を出て行く所だった。
私はそうはいっても気になって二人の後をつけた。親し気にホテルマンと話す洋の顔は、いつものように警戒した顔ではなく信頼している表情だ。一体いつの間にホテルマンとそんなに親しくなったのか。モヤモヤとした気持ちがとまらない。
次の瞬間路地に連れ込まれて行くのを見て、私も焦って近寄ってみたが、一瞬顎を掬われたようだが、すぐに開放されてまた笑顔で会話をし出している。
「一体何なんだ、そいつは? 今一瞬……洋にキスしようとしたのか。なんで洋も逃げずにまた笑っていられる?」
私は見つからないように路地の影に隠れ様子を伺ったが、それ以上のことが起こる気配もないので、急に自分の行動が馬鹿馬鹿しくなり、レストランに足早に戻った。そうだ歓迎会の主役がいつまでも席を外すわけにいかない。だがあのホテルマンを見る洋の顔が親し気でそればかりが気になって、心の中で渦を巻いていた。
「遅かったですね~丈先生」
「さぁもっと飲みましょうよ!」
レストランに戻った私は、もやもやした気持ちを打ち消したくて、誘われるがままに浴びるように酒を飲んだ。
これは、嫉妬なのか。
洋の勉強に……新しい人間関係に。
──嫉妬──
それは今までの私には関係のない感情だった。
ひとり気ままに生きて来て人付き合いも最低限にしていた私に、そんな感情は不要だったのだ。慣れない感情が心に芽生え心を占めていくことに、どう対処したらよいのか分からない。
爆発しそうな気持を抱え、部屋に深夜遅くに戻った。
酔いが手伝い、感情が上手くコントロールできない。
このまま洋に会っても理性を保てるのだろうか。
自信がない。
全く私としたことが信じれれない暴挙に出てしまった。
ここ数日、洋が語学学校の課題に追われていたことは知っていた。来週引っ越す家での生活を楽しみにしているあまり、早く課題を終わらせたくて焦っていたのも、ちゃんと理解していた。だからベッドに誘っても……のって来ないのも理解出来、洋の負担にならないように先に休んだりしていた。
なのに全く駄目だな。
メモを残していたはずなのに、洋が捨てられた猫のような悲壮な顔で、レストランにいる私を見つめているのに気が付いた時は焦った。
もしかしてメモに気が付かず、一人でこんな時間まで私の帰りを待っていたのか。
そんな洋をフォローしたくて追いかけたのに、いつの間にホテルマンとあんなに親し気になっているなんて、思ってもみなかった。
****
あのホテルマン……何処かで?
遠目でははっきりしなかったが、廊下で横をすれ違った時に分かった。あの日洋を抱いている最中にルームサービスを運んで来た男だ。あの時部屋にいたのが洋だってことに気が付いたのだろうか。また変なことにならないといいが。
心配で客室の扉の前で立ち尽くす洋に話しかけるが、話せば話すほど会話がこじれていく。そんな状態で、よりによってホテルマンと食事に行くなんて、酷いではないか。
メモに気付かず部屋でいじけていたにせよ、私へのあてつけか。そう思うと私も気分が悪くなり、大人げなくむっとしてしまった。そうこうしているうちに洋は幼い子供のように怒りながら横を通り抜けて去って行った。
「洋、待てよ」
そう声をかけたのに、洋は無視して行ってしまった。
「やれやれ……」
洋の奴、たかが今日数時間一人だったからって。私だって、ここ数日待ちぼうけばかりで面白くなかったのに。
酔いも手伝ってか、洋に対して珍しく怒りがこみあげて、こんな風にきつく思ってしまう。こうなったら今日はもうしょうがない。明日になったらきちんと洋と話そう。
一旦レストランへ戻ろうと思いロビーに降りると、洋があのホテルマンとホテルの玄関を出て行く所だった。
私はそうはいっても気になって二人の後をつけた。親し気にホテルマンと話す洋の顔は、いつものように警戒した顔ではなく信頼している表情だ。一体いつの間にホテルマンとそんなに親しくなったのか。モヤモヤとした気持ちがとまらない。
次の瞬間路地に連れ込まれて行くのを見て、私も焦って近寄ってみたが、一瞬顎を掬われたようだが、すぐに開放されてまた笑顔で会話をし出している。
「一体何なんだ、そいつは? 今一瞬……洋にキスしようとしたのか。なんで洋も逃げずにまた笑っていられる?」
私は見つからないように路地の影に隠れ様子を伺ったが、それ以上のことが起こる気配もないので、急に自分の行動が馬鹿馬鹿しくなり、レストランに足早に戻った。そうだ歓迎会の主役がいつまでも席を外すわけにいかない。だがあのホテルマンを見る洋の顔が親し気でそればかりが気になって、心の中で渦を巻いていた。
「遅かったですね~丈先生」
「さぁもっと飲みましょうよ!」
レストランに戻った私は、もやもやした気持ちを打ち消したくて、誘われるがままに浴びるように酒を飲んだ。
これは、嫉妬なのか。
洋の勉強に……新しい人間関係に。
──嫉妬──
それは今までの私には関係のない感情だった。
ひとり気ままに生きて来て人付き合いも最低限にしていた私に、そんな感情は不要だったのだ。慣れない感情が心に芽生え心を占めていくことに、どう対処したらよいのか分からない。
爆発しそうな気持を抱え、部屋に深夜遅くに戻った。
酔いが手伝い、感情が上手くコントロールできない。
このまま洋に会っても理性を保てるのだろうか。
自信がない。
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