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第4章
すれ違う 2
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ドンっと誰かの胸元にぶつかったので、慌てて顔をあげるとkaiだった。ホテルの制服をビシっと着こなし、髪を整髪料で整えた凛々しい姿だ。
「kai……」
「どうした? 洋、そんなに慌てて」
「あっすまない」
丈とのことで気が動転していた俺はなんだか気まずくて、それ以上のことを話せない。
「今から部屋に戻るのか」
「ああ」
「大丈夫なのか」
「えっ何が? 」
「いやなんだか……顔色が悪いから」
「……大丈夫だ」
kaiが客室のあるフロアのボタンを押してくれた。そっと見守ってくれるその視線が温かい。それに加えて丈の奴酷いじゃないか。誰だよっ、あの女の人。ふつふつと沸き起こる嫉妬と怒り……きっと些細な行き違いだって分かっているのに、今日の俺は本当に駄目だ。
「洋、疲れているみたいだな。夕食まだなのか」
「あっ……そうだ」
「もしかして、それ食べるつもりだった?」
手に握りしめたサンドイッチを見つめて、kaiが尋ねてくる。
「あぁ」
「俺さ、もうすぐ仕事終わるんだ。ちょっと待っていて、外に食べに行こうよ。温かいものを食べれば落ち着くから、なっ行こうよ」
正直……迷った。
丈がどう思うか分からない。まだkaiのことをきちんと話せてないから。でも今俺は冷静に丈と顔を合わせられない。
「……行くよ」
「了解!すぐに着替えてくるから下のロビーで待っていて」
「あぁ」
客室の扉の前でkaiと別れた。その時ふと廊下の曲がり角に丈が立っていることに気が付いた。そして去っていくkaiと、こちらへ足早に向かってくる丈とがすれ違った。kaiは一瞬立ち止まったが、丈は俺めがけて真っすぐ歩いてくる。
「洋!さっきどうして逃げた?」
「逃げてなんかない、部屋に戻ろうと思っただけだよ」
「話を聞け! 」
「嫌だ」
一体俺は何でこんなにイライラしているのか。今、丈と話すと喧嘩になってしまいそうで、逃げだしたくなる。
「……俺、ちょっと出かけてくる」
「何処へ行く? こんな時間に」
「外に食事に行く」
「洋、さっきのは……」
言いかける丈の言葉を遮り、俺はその場を離れようと後ろに一歩下がった。
「丈、悪い。今日はちょっと駄目みたいだ。少し外で気分転換してくるから」
そう伝えると丈が怪訝な顔をした。
「洋、さっきの男と一緒に行くのか。ずいぶん仲良さそうだな。ホテルマンといつの間にそんなに仲良くなったのだか。まったく隅に置けないな」
俺の態度にむっとした丈も、俺に対して変な言いがかりをつけてくる。
「何だっていいだろ! 丈だって女と一緒だったくせに、俺にだって一緒に食事する友達位いる!」
kaiとの不思議な縁を、丈にいち早く伝えたくて……丈に甘えたくて帰って来たのに。連絡も寄こさず女の人と食事をしているなんてひどいじゃないか。こんな嫉妬は女々しいと思いながら、このことがひかかって素直になれない。
丈は参ったなという顔をして、大きく溜息をついた。
「あれは職場の同僚だよ。偶然このホテルで今日はセミナーがあって、その後流れで食事をしただけだよ。他にも人がいただろう。私の歓迎会でもあったので抜け出せなかっただけだ」
「あっそう!言い訳はいいよ。それならそうと連絡くらい寄こせよ! 」
「何をそんなに怒ってる? 連絡はしたじゃないか。メモを部屋に残していたはずだが」
「……さっき……俺のこと見て、しまったっていう表情になった」
「洋、それはお前の思い込みだ。こうやって心配で部屋まで見に来ているのに」
「……」
メモなんて見てないし、そんなの知らないし、もう、どうでもいい。とにかく俺はこのもやもやした感じを素直に認められず、幼い子供のように機嫌をすぐになおすことが出来ず、丈を横を通り抜け廊下を走った。
「洋、待てよ」
後ろから丈の呼ぶ声が聞こえたが、そのまま振り返らなかった。
くそっ!こんなんじゃ駄目だ。
こんな喧嘩をしている場合じゃない。
頭ではちゃんと理解しているのに、素直になれない自分が嫌になる。
「kai……」
「どうした? 洋、そんなに慌てて」
「あっすまない」
丈とのことで気が動転していた俺はなんだか気まずくて、それ以上のことを話せない。
「今から部屋に戻るのか」
「ああ」
「大丈夫なのか」
「えっ何が? 」
「いやなんだか……顔色が悪いから」
「……大丈夫だ」
kaiが客室のあるフロアのボタンを押してくれた。そっと見守ってくれるその視線が温かい。それに加えて丈の奴酷いじゃないか。誰だよっ、あの女の人。ふつふつと沸き起こる嫉妬と怒り……きっと些細な行き違いだって分かっているのに、今日の俺は本当に駄目だ。
「洋、疲れているみたいだな。夕食まだなのか」
「あっ……そうだ」
「もしかして、それ食べるつもりだった?」
手に握りしめたサンドイッチを見つめて、kaiが尋ねてくる。
「あぁ」
「俺さ、もうすぐ仕事終わるんだ。ちょっと待っていて、外に食べに行こうよ。温かいものを食べれば落ち着くから、なっ行こうよ」
正直……迷った。
丈がどう思うか分からない。まだkaiのことをきちんと話せてないから。でも今俺は冷静に丈と顔を合わせられない。
「……行くよ」
「了解!すぐに着替えてくるから下のロビーで待っていて」
「あぁ」
客室の扉の前でkaiと別れた。その時ふと廊下の曲がり角に丈が立っていることに気が付いた。そして去っていくkaiと、こちらへ足早に向かってくる丈とがすれ違った。kaiは一瞬立ち止まったが、丈は俺めがけて真っすぐ歩いてくる。
「洋!さっきどうして逃げた?」
「逃げてなんかない、部屋に戻ろうと思っただけだよ」
「話を聞け! 」
「嫌だ」
一体俺は何でこんなにイライラしているのか。今、丈と話すと喧嘩になってしまいそうで、逃げだしたくなる。
「……俺、ちょっと出かけてくる」
「何処へ行く? こんな時間に」
「外に食事に行く」
「洋、さっきのは……」
言いかける丈の言葉を遮り、俺はその場を離れようと後ろに一歩下がった。
「丈、悪い。今日はちょっと駄目みたいだ。少し外で気分転換してくるから」
そう伝えると丈が怪訝な顔をした。
「洋、さっきの男と一緒に行くのか。ずいぶん仲良さそうだな。ホテルマンといつの間にそんなに仲良くなったのだか。まったく隅に置けないな」
俺の態度にむっとした丈も、俺に対して変な言いがかりをつけてくる。
「何だっていいだろ! 丈だって女と一緒だったくせに、俺にだって一緒に食事する友達位いる!」
kaiとの不思議な縁を、丈にいち早く伝えたくて……丈に甘えたくて帰って来たのに。連絡も寄こさず女の人と食事をしているなんてひどいじゃないか。こんな嫉妬は女々しいと思いながら、このことがひかかって素直になれない。
丈は参ったなという顔をして、大きく溜息をついた。
「あれは職場の同僚だよ。偶然このホテルで今日はセミナーがあって、その後流れで食事をしただけだよ。他にも人がいただろう。私の歓迎会でもあったので抜け出せなかっただけだ」
「あっそう!言い訳はいいよ。それならそうと連絡くらい寄こせよ! 」
「何をそんなに怒ってる? 連絡はしたじゃないか。メモを部屋に残していたはずだが」
「……さっき……俺のこと見て、しまったっていう表情になった」
「洋、それはお前の思い込みだ。こうやって心配で部屋まで見に来ているのに」
「……」
メモなんて見てないし、そんなの知らないし、もう、どうでもいい。とにかく俺はこのもやもやした感じを素直に認められず、幼い子供のように機嫌をすぐになおすことが出来ず、丈を横を通り抜け廊下を走った。
「洋、待てよ」
後ろから丈の呼ぶ声が聞こえたが、そのまま振り返らなかった。
くそっ!こんなんじゃ駄目だ。
こんな喧嘩をしている場合じゃない。
頭ではちゃんと理解しているのに、素直になれない自分が嫌になる。
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