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第4章
君を待つ家 3
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「洋まだ寝ないのか」
「ごめん。まだ課題が終わらなくて」
「そうか」
「まだ当分かかりそうだから、先に寝ていていいよ」
ベッドサイドで必死に勉強している俺に、丈が少し寂し気に話かけてくる。俺も早く丈のもとへ行きたいが、語学学校からの提出課題が山ほどあって泣きたい位だ。でも早くこの国の言葉をマスターしたいという気持ちに後押しされ……頑張っていた。
「そうか……しょうがないな。じゃあ……おやすみ」
「うん。ごめんな」
それから数時間かなり集中して勉強した。
「ふぅ、やっと終わった」
大きく伸びをして丈のベッドを見ると、寝息を立てぐっすりと休んでいた。丈、ごめん、俺……ずるずると丈に抱かれて溺れてしまうと、俺もどんどん欲望のまま淫らになって、次の日は躰が軋む程で後悔してしまうから。
どうか、もう少しだけ待って欲しい。
来週には、あの小高い丘の上への引っ越しが決まっている。あそこへ移り住む前に、今のうちにある程度の勉強を進めておきたい。早くこの国の言葉を読み書き出来るようになりたい。どうしてこんなに焦るのか分からない。
ただ分かるのは、もうすぐだということ。
何かがやってくる時が満ちる。
それは俺にとって良いものなのか分からない。
『準備は出来ているか…』
あの日見た夢の、過去の君からのメッセージに従っているのかもしれない。
****
「洋、今日は随分と早く出かけるな」
「うん、今日は午前中に日本語を教える日だから」
「あぁそうか……そういえば生徒さんはどんな人だった? 」
「えっ……あぁ若い男性だよ、同い年だったよ」
少し動揺してしまう。今まで聞かれないから言わなかっただけなのだが、いざとなるとなんとなく濁してしまった。
「同い年の男? 」
少し丈が怪訝な表情を浮かべた。
「洋……何もないよな? 」
「当たり前だよ。大丈夫だよ」
「そうか……ならよいが、何かあったらちゃんと話せよ」
「あぁ分かった」
どうしようと思った。ちゃんと話すべきか否か。俺が日本語を教えているkaiがこのホテルのルームサービス係の人間だって知ったら、丈は怒るだろうか。あの日丈と抱き合っている最中に部屋に入ってきたあのルームサービス係だと、きちんと話した方がいいかな。でも何だか気恥ずかしくて……あんな場面を見られている相手に、マンツーマンで日本語を教えているなんてさ。
それにkaiはプロのホテルマンらしく、最初の日以外は全くの初対面の生徒として真面目に取り組んでくれている。俺も丈にいらぬ心配をかけたくない。そんな想いもあって、つい話せなかった。ただそれだけなんだが、どうも心にひっかかる。この判断は間違えていないのだろうか。
****
教室に入ると、いつもは先に来て本を読んでいるkaiがまだ来ていなかった。椅子に座り手持無沙汰だったので、スマホであの王の墓の写真を眺めることにした。しかしこの文字……まだちゃんと読めないな。読み方が分かっても、その単語の意味が分からない。拡大したり辞書を片手に調べるが、分からない文字が多すぎる。ふぅ……こんな調子で間に合うのだろうか。
「先生遅れてごめん。あれ? 先生、溜息なんてついてどうしたの? 何を見ているの? 」
その時、後ろからkaiが突然話しかけて来た。
「うわ!」
慌ててスマホの画像を閉じようと思ったら、kaiの手がそれを制したので驚いた。
「なっ何? 」
「先生っ……この写真どうして?」
kaiの声が深刻そうに、真剣に響いた。
****
こんにちは、志生帆 海です。
いつもこのような拙い話を、読んでくださってありがとうございます。
第4章は『悲しい月』『月夜の湖』という別途連載しているお話しとリンクしていきます。
今後……読んでいないと分からない部分が多少なりとも出てきてしまうと思われますので、その点をどうかご了承ください。
「ごめん。まだ課題が終わらなくて」
「そうか」
「まだ当分かかりそうだから、先に寝ていていいよ」
ベッドサイドで必死に勉強している俺に、丈が少し寂し気に話かけてくる。俺も早く丈のもとへ行きたいが、語学学校からの提出課題が山ほどあって泣きたい位だ。でも早くこの国の言葉をマスターしたいという気持ちに後押しされ……頑張っていた。
「そうか……しょうがないな。じゃあ……おやすみ」
「うん。ごめんな」
それから数時間かなり集中して勉強した。
「ふぅ、やっと終わった」
大きく伸びをして丈のベッドを見ると、寝息を立てぐっすりと休んでいた。丈、ごめん、俺……ずるずると丈に抱かれて溺れてしまうと、俺もどんどん欲望のまま淫らになって、次の日は躰が軋む程で後悔してしまうから。
どうか、もう少しだけ待って欲しい。
来週には、あの小高い丘の上への引っ越しが決まっている。あそこへ移り住む前に、今のうちにある程度の勉強を進めておきたい。早くこの国の言葉を読み書き出来るようになりたい。どうしてこんなに焦るのか分からない。
ただ分かるのは、もうすぐだということ。
何かがやってくる時が満ちる。
それは俺にとって良いものなのか分からない。
『準備は出来ているか…』
あの日見た夢の、過去の君からのメッセージに従っているのかもしれない。
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「洋、今日は随分と早く出かけるな」
「うん、今日は午前中に日本語を教える日だから」
「あぁそうか……そういえば生徒さんはどんな人だった? 」
「えっ……あぁ若い男性だよ、同い年だったよ」
少し動揺してしまう。今まで聞かれないから言わなかっただけなのだが、いざとなるとなんとなく濁してしまった。
「同い年の男? 」
少し丈が怪訝な表情を浮かべた。
「洋……何もないよな? 」
「当たり前だよ。大丈夫だよ」
「そうか……ならよいが、何かあったらちゃんと話せよ」
「あぁ分かった」
どうしようと思った。ちゃんと話すべきか否か。俺が日本語を教えているkaiがこのホテルのルームサービス係の人間だって知ったら、丈は怒るだろうか。あの日丈と抱き合っている最中に部屋に入ってきたあのルームサービス係だと、きちんと話した方がいいかな。でも何だか気恥ずかしくて……あんな場面を見られている相手に、マンツーマンで日本語を教えているなんてさ。
それにkaiはプロのホテルマンらしく、最初の日以外は全くの初対面の生徒として真面目に取り組んでくれている。俺も丈にいらぬ心配をかけたくない。そんな想いもあって、つい話せなかった。ただそれだけなんだが、どうも心にひっかかる。この判断は間違えていないのだろうか。
****
教室に入ると、いつもは先に来て本を読んでいるkaiがまだ来ていなかった。椅子に座り手持無沙汰だったので、スマホであの王の墓の写真を眺めることにした。しかしこの文字……まだちゃんと読めないな。読み方が分かっても、その単語の意味が分からない。拡大したり辞書を片手に調べるが、分からない文字が多すぎる。ふぅ……こんな調子で間に合うのだろうか。
「先生遅れてごめん。あれ? 先生、溜息なんてついてどうしたの? 何を見ているの? 」
その時、後ろからkaiが突然話しかけて来た。
「うわ!」
慌ててスマホの画像を閉じようと思ったら、kaiの手がそれを制したので驚いた。
「なっ何? 」
「先生っ……この写真どうして?」
kaiの声が深刻そうに、真剣に響いた。
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こんにちは、志生帆 海です。
いつもこのような拙い話を、読んでくださってありがとうございます。
第4章は『悲しい月』『月夜の湖』という別途連載しているお話しとリンクしていきます。
今後……読んでいないと分からない部分が多少なりとも出てきてしまうと思われますので、その点をどうかご了承ください。
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