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第4章
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「よくもまぁこんなに……子供じゃあるまいし」
届けられたルームサービスを見て、思わず苦笑してしまった。オムレツにハンバーグ・パンにフルーツの盛り合わせが色鮮やかに並んでいる。
「朝からこんなに俺に食べろと?」
だが同時に、丈には本当に沢山の心配をかけたと心が痛んでしまった。あの温泉宿から帰宅してすぐ父に連れ去られ、ホテルで無理矢理、抱かれてしまった。躰だけでなく、考える心、生きようとする心、自由……いろいろなものを一気に奪われた。そのショックでほぼ1週間ろくに食べられない生活をしてしまった。その後も監視される日々で、生きた心地がしなかった。
結局安志に助けられるあの瞬間まで、俺は自分が陥った境遇から逃れたくて、死を選んでしまうかもというほどに精神が不安定になり、後ろ向きだった。もしもあの時安志に助けられなかったら、安志が協力してくれなかったら、今の俺はない。それだけは強く分かっている。
安志は命の恩人だ。俺が今こうして丈と共にいられるのは、安志の尽力のお陰だ。
安志は今どうしているだろうか。あの日、情愛を分かち合った最後の口づけを思い出す。
何処までもお人好しで優しい幼馴染だ。
安志とは離れていても連絡がとれなくても、これからも俺の一番大事な友だ。
だから安志の幸せを願わずにいられない。
俺がもしもこの世にもう一人いたら、安志のことを好きになっていたのではなどと、どうしようもないことまで考えてしまった。
全く俺は馬鹿だ。こんな考えは、誰も報われないのに、偽善者だ。
遅い朝食を更にゆっくりと時間をかけて、客室の窓辺の椅子に腰かけて食べ続けた。
今は外の世界がとても眩しく感じる。俺も今日から普通に生きても良いのだろうか。
食事を取りながら、あれこれと想いを巡らせ耽っているとドアが開いて、丈が戻って来た。
手には紙袋や書類を抱えていたので忙しい1日だったことが窺えた。丈の姿を見た途端、心に火が灯るように温かい気持ちになれた。俺は本当に丈が好きだ。
「丈、お帰り」
「ただいま洋、大人しくしていたか」
「お前っやめろよ。その言い方。俺は籠の中の鳥じゃない」
「ふっ知ってるよ。今日だけだ。今日だけは私の中に閉じ込めておいてもいいだろう」
「馬鹿」
「明日から忙しくなるぞ。これ洋の学校のパンフレットだよ」
「えっ、俺こんなに学費払えないよ。そんなに生活費を持ってこれなかった」
「大丈夫だ。この学校は面白くてな。洋が日本語を教える代わりに、この国の言葉を教えてもらえるのだ」
「へぇそんなシステムなのか」
「あぁだから学費はほぼかからないので安心しろ。洋は英語も達者だし喜ばれるよ」
「丈……ありがとう。助かるよ」
「これも全部安志くんと相談したことだ」
「安志と……」
「今回のことでは本当に世話になったな」
「あぁ本当にそうだな」
「機会を作ってまた会おう」
「そうだね」
「午後は洋の洋服を揃えに行こう。それから俺達の家も決めないとな」
頼もしい丈。
今はお前に頼ってばかりだが、俺も丈に負けないように、早く独り立ちしたい。
明日から何かが変わるのか……変われるのか。こんな俺でも──
届けられたルームサービスを見て、思わず苦笑してしまった。オムレツにハンバーグ・パンにフルーツの盛り合わせが色鮮やかに並んでいる。
「朝からこんなに俺に食べろと?」
だが同時に、丈には本当に沢山の心配をかけたと心が痛んでしまった。あの温泉宿から帰宅してすぐ父に連れ去られ、ホテルで無理矢理、抱かれてしまった。躰だけでなく、考える心、生きようとする心、自由……いろいろなものを一気に奪われた。そのショックでほぼ1週間ろくに食べられない生活をしてしまった。その後も監視される日々で、生きた心地がしなかった。
結局安志に助けられるあの瞬間まで、俺は自分が陥った境遇から逃れたくて、死を選んでしまうかもというほどに精神が不安定になり、後ろ向きだった。もしもあの時安志に助けられなかったら、安志が協力してくれなかったら、今の俺はない。それだけは強く分かっている。
安志は命の恩人だ。俺が今こうして丈と共にいられるのは、安志の尽力のお陰だ。
安志は今どうしているだろうか。あの日、情愛を分かち合った最後の口づけを思い出す。
何処までもお人好しで優しい幼馴染だ。
安志とは離れていても連絡がとれなくても、これからも俺の一番大事な友だ。
だから安志の幸せを願わずにいられない。
俺がもしもこの世にもう一人いたら、安志のことを好きになっていたのではなどと、どうしようもないことまで考えてしまった。
全く俺は馬鹿だ。こんな考えは、誰も報われないのに、偽善者だ。
遅い朝食を更にゆっくりと時間をかけて、客室の窓辺の椅子に腰かけて食べ続けた。
今は外の世界がとても眩しく感じる。俺も今日から普通に生きても良いのだろうか。
食事を取りながら、あれこれと想いを巡らせ耽っているとドアが開いて、丈が戻って来た。
手には紙袋や書類を抱えていたので忙しい1日だったことが窺えた。丈の姿を見た途端、心に火が灯るように温かい気持ちになれた。俺は本当に丈が好きだ。
「丈、お帰り」
「ただいま洋、大人しくしていたか」
「お前っやめろよ。その言い方。俺は籠の中の鳥じゃない」
「ふっ知ってるよ。今日だけだ。今日だけは私の中に閉じ込めておいてもいいだろう」
「馬鹿」
「明日から忙しくなるぞ。これ洋の学校のパンフレットだよ」
「えっ、俺こんなに学費払えないよ。そんなに生活費を持ってこれなかった」
「大丈夫だ。この学校は面白くてな。洋が日本語を教える代わりに、この国の言葉を教えてもらえるのだ」
「へぇそんなシステムなのか」
「あぁだから学費はほぼかからないので安心しろ。洋は英語も達者だし喜ばれるよ」
「丈……ありがとう。助かるよ」
「これも全部安志くんと相談したことだ」
「安志と……」
「今回のことでは本当に世話になったな」
「あぁ本当にそうだな」
「機会を作ってまた会おう」
「そうだね」
「午後は洋の洋服を揃えに行こう。それから俺達の家も決めないとな」
頼もしい丈。
今はお前に頼ってばかりだが、俺も丈に負けないように、早く独り立ちしたい。
明日から何かが変わるのか……変われるのか。こんな俺でも──
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