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第4章
逃避行 5
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「洋……洋……大丈夫か」
「んっここは?」
ぼんやりとした視界に目を凝らすと、丈が俺のことを心配そうに覗き込んでいた。
あっそうだ……シャワールームで丈に激しく求められ、俺もそれに応じ、そのまま最奥に放たれた後、頭の中が閃光が走ったように白くチカチカして倒れ込んでしまったのだ。あんなに乱れてしまって、恥ずかしい。
「よし、さぁ水を飲め」
丈も俺もバスローブ姿で、丈の広い胸に背中を預け、もたれさせてもらっていた。
「……美味しい」
「良かった。すまなかったな、躰がきついだろう」
「いや……大丈夫だ。その……またこうやって一緒にいられるのも嬉しいし」
「あぁそうだ。今日からはずっと一緒だ」
「丈……本当にいいのだろうか」
どうしても丈に聞いておかなくてはいけないことがある。
本当にすまないと思っているから……
「なんだ?」
「俺は、丈の人生を台無しにしてしまったな」
「何を言うんだ。私がこの道を選んだのだ」
「でも日本で医師としての仕事があったのに……俺は所詮、義父さんの息がかかった職場だったけれども、丈にとっては違っただろう?」
「私が選んだ道だ。それにこの国には以前学会で来ただろう。その時知り合った教授から誘いがあって、ちゃんと職もある。だから安心しろ」
「そうなのか……それなら良かった」
「洋にもやることがあるからな」
「何?」
「語学留学生ということでビザを申請した。だから明日から語学学校へ通ってもらうよ」
「えっ! そうなの。知らなかった。この国の言葉を学ぶのか」
「そうだ。この国の言葉は特殊だから、洋にきちんと学んで欲しい」
「あぁそうだね。俺にはまだやらないといけないことがある」
「二人であの不思議な過去からの因縁を解き明かしたい。そのために最初の逃避先にこの地を選んだんだ」
「分かっている。俺はもう逃げない」
丈の胸にもたれた俺は、体重を丈に更に預けた。丈はその逞しい腕を俺の胸の前にまわし、きつく抱きしめてくれる。
「洋……もう離さない。ずっとこの日を待っていた」
「俺もだ」
丈のことを見上げるように振り返れば、優しく唇を合わせてくれる。
悪夢はもう見ない。
前を見て歩く。
ふたりの逃避行 ── それは二人で歩みだしたという現実だ。
俺はもう二度と逃げず、あきらめず、歩んでいくだけだ。
『逃避行』了
「んっここは?」
ぼんやりとした視界に目を凝らすと、丈が俺のことを心配そうに覗き込んでいた。
あっそうだ……シャワールームで丈に激しく求められ、俺もそれに応じ、そのまま最奥に放たれた後、頭の中が閃光が走ったように白くチカチカして倒れ込んでしまったのだ。あんなに乱れてしまって、恥ずかしい。
「よし、さぁ水を飲め」
丈も俺もバスローブ姿で、丈の広い胸に背中を預け、もたれさせてもらっていた。
「……美味しい」
「良かった。すまなかったな、躰がきついだろう」
「いや……大丈夫だ。その……またこうやって一緒にいられるのも嬉しいし」
「あぁそうだ。今日からはずっと一緒だ」
「丈……本当にいいのだろうか」
どうしても丈に聞いておかなくてはいけないことがある。
本当にすまないと思っているから……
「なんだ?」
「俺は、丈の人生を台無しにしてしまったな」
「何を言うんだ。私がこの道を選んだのだ」
「でも日本で医師としての仕事があったのに……俺は所詮、義父さんの息がかかった職場だったけれども、丈にとっては違っただろう?」
「私が選んだ道だ。それにこの国には以前学会で来ただろう。その時知り合った教授から誘いがあって、ちゃんと職もある。だから安心しろ」
「そうなのか……それなら良かった」
「洋にもやることがあるからな」
「何?」
「語学留学生ということでビザを申請した。だから明日から語学学校へ通ってもらうよ」
「えっ! そうなの。知らなかった。この国の言葉を学ぶのか」
「そうだ。この国の言葉は特殊だから、洋にきちんと学んで欲しい」
「あぁそうだね。俺にはまだやらないといけないことがある」
「二人であの不思議な過去からの因縁を解き明かしたい。そのために最初の逃避先にこの地を選んだんだ」
「分かっている。俺はもう逃げない」
丈の胸にもたれた俺は、体重を丈に更に預けた。丈はその逞しい腕を俺の胸の前にまわし、きつく抱きしめてくれる。
「洋……もう離さない。ずっとこの日を待っていた」
「俺もだ」
丈のことを見上げるように振り返れば、優しく唇を合わせてくれる。
悪夢はもう見ない。
前を見て歩く。
ふたりの逃避行 ── それは二人で歩みだしたという現実だ。
俺はもう二度と逃げず、あきらめず、歩んでいくだけだ。
『逃避行』了
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