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第4章
逃避行 1
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「間に合ったな」
「あぁ何とか」
空港にバイクを乗り捨て、予定していた飛行機に飛び乗った。座席に着いても、まだガクガクと躰の震えが止まらない。
「お客様、どこかお加減でも? 」
心配そうに声を掛けられたので、慌てて否定した。
「いえ大丈夫です。あの毛布をお願いします」
俺は今、飛行機の座席に丈と並んで座っている。あんなに傍に戻りたいと願っていた丈が隣にいることが、未だに信じられない。飛行機の窓から遠ざかる街並みを見下ろすと、悪縁から解き放たれたような気分になる。
──俺は行くよ。義父さん、あなたにはもう捕まらない──
「洋、大丈夫か」
丈がそっと心配そうに撫でるのは俺の首筋。そこはさっき義父に首を絞められたところだ。
「……黒くなってしまったな」
「えっ」
自分の喉元に手を当てると、そこはズキンと鈍く痛んだ。
「丈……俺、怖かった。殺されるかと思った。もう二度と会いたくない」
「洋……」
膝にかけた毛布の下で、丈が俺の震える手をぎゅっと握ってくれた。
「もう大丈夫だから少し眠れ。疲れただろう」
「あぁそうさせてもらうよ」
丈の温かい手に、やっとこうやって丈と普通に隣り合って座ることが出来、自由に触れ合えるのだと実感する。そのことが俺を安堵させたのか、一気に疲れが出て瞼が急に重くなり、丈の肩に頭を預けると同時に眠りに落ちてしまった。
これから何処へ行くのだろうか。
全て丈と安志に手配を任せていたので、俺は何も知らない。
でもそれでいい。
丈が傍にいてくれる。
今の俺には、それだけでいい。
****
やっと戻ってきてくれた私だけの洋。
何があっても何をされたとしても、洋は洋だ。
早めに空港に着いていた私は、安志くんから洋の義父の急な帰国の連絡を受けた。すぐに慌ててタクシーに飛び乗り、教えてもらった洋の高層マンションに着き、安志くんから渡された鍵でドアをこじ開け、そこで見たものは……首をしめられ、息も絶え絶えに悶え苦しんでいる洋の姿だった。
洋のはだけた着衣にカッとなった。濡れた胸元にも……信じられなかった。あの時見た温和そうな紳士が、鬼の形相で洋の首を絞めていたのだから。
「洋を離せっ!」
殴って滅茶苦茶にしてやりたかったが、洋を連れ出すのが先だった。逃げるように洋の手を引いて飛び乗ったエレベーター。降りた途端に雷が落ちて停電になり時間を稼げた。
あの激しい雷光を、私は遥か遠い昔に見たような気がする。
今から向かう地に二人の過去からの縁の謎が解ける何かがある。そう確信している。だから私たちは、そこへ向かう。
洋、私と一緒に行こう。
私も君と一緒なら、何も怖くない。
何もかも捨てる勇気をもらえる。
「あぁ何とか」
空港にバイクを乗り捨て、予定していた飛行機に飛び乗った。座席に着いても、まだガクガクと躰の震えが止まらない。
「お客様、どこかお加減でも? 」
心配そうに声を掛けられたので、慌てて否定した。
「いえ大丈夫です。あの毛布をお願いします」
俺は今、飛行機の座席に丈と並んで座っている。あんなに傍に戻りたいと願っていた丈が隣にいることが、未だに信じられない。飛行機の窓から遠ざかる街並みを見下ろすと、悪縁から解き放たれたような気分になる。
──俺は行くよ。義父さん、あなたにはもう捕まらない──
「洋、大丈夫か」
丈がそっと心配そうに撫でるのは俺の首筋。そこはさっき義父に首を絞められたところだ。
「……黒くなってしまったな」
「えっ」
自分の喉元に手を当てると、そこはズキンと鈍く痛んだ。
「丈……俺、怖かった。殺されるかと思った。もう二度と会いたくない」
「洋……」
膝にかけた毛布の下で、丈が俺の震える手をぎゅっと握ってくれた。
「もう大丈夫だから少し眠れ。疲れただろう」
「あぁそうさせてもらうよ」
丈の温かい手に、やっとこうやって丈と普通に隣り合って座ることが出来、自由に触れ合えるのだと実感する。そのことが俺を安堵させたのか、一気に疲れが出て瞼が急に重くなり、丈の肩に頭を預けると同時に眠りに落ちてしまった。
これから何処へ行くのだろうか。
全て丈と安志に手配を任せていたので、俺は何も知らない。
でもそれでいい。
丈が傍にいてくれる。
今の俺には、それだけでいい。
****
やっと戻ってきてくれた私だけの洋。
何があっても何をされたとしても、洋は洋だ。
早めに空港に着いていた私は、安志くんから洋の義父の急な帰国の連絡を受けた。すぐに慌ててタクシーに飛び乗り、教えてもらった洋の高層マンションに着き、安志くんから渡された鍵でドアをこじ開け、そこで見たものは……首をしめられ、息も絶え絶えに悶え苦しんでいる洋の姿だった。
洋のはだけた着衣にカッとなった。濡れた胸元にも……信じられなかった。あの時見た温和そうな紳士が、鬼の形相で洋の首を絞めていたのだから。
「洋を離せっ!」
殴って滅茶苦茶にしてやりたかったが、洋を連れ出すのが先だった。逃げるように洋の手を引いて飛び乗ったエレベーター。降りた途端に雷が落ちて停電になり時間を稼げた。
あの激しい雷光を、私は遥か遠い昔に見たような気がする。
今から向かう地に二人の過去からの縁の謎が解ける何かがある。そう確信している。だから私たちは、そこへ向かう。
洋、私と一緒に行こう。
私も君と一緒なら、何も怖くない。
何もかも捨てる勇気をもらえる。
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