148 / 1,657
第3章
※安志編※ 面影 14
しおりを挟む
日陰の土の湿った匂いのする大地。爽やかな初夏の風が、木立の間を吹き抜けていく。
涼の栗毛色の髪の毛は、風にそよそよと揺れ、長めの前髪から見え隠れする澄んだ眼差しは少し潤んでいる。
ふたりの間にはもう隠すことはない。洋が好きだったこともきちんと話せた。ほっとした気持ちと自分が新しいスタートを切る気持ちが交差していく。
俺は涼と公園の大木の幹に隠れるようにして、向かい合って立っている。
俺がその細い顎を掬いあげると、涼は俺のことを真っすぐ見上げ、それから長い睫毛を小さく震わせながらそっと目を閉じた。
洋と別れる時の哀しみで濡れた口づけを一瞬思い出す。だが今は嬉し涙が出そうだ。そっと顔を近づけて唇を重ねてみると、涼の形の良い唇はふっくらと温かい。角度を変えて啄むようにちゅっちゅっと口づけを落としていく。
涼はこんなこと初めてなのだろう。慣れたふりして強がっているのだ。緊張して歯がカタカタと震えているのが愛おしい。
「ふっ……涼、ファーストキスなのか? ちゃんと心を込めてするの……初めてなのか? 」
「んっ……そっそんなことない」
「ふふっわかるよ、それなら嬉しい」
そっと舌先で涼の唇をノックし、薄く開かせた隙間から潜り込んでいく。涼の口腔を俺の舌で丁寧に舐め、逃げていく舌に絡める。
「あっ……んっ……」
熱を帯びて来たのだろう。涼が時々小さな声をあげて喉の奥から色っぽい声を出して鳴く。その小さな声に反応した俺は、下半身が熱くなり、思わず噛みつくような深いキスを涼にしてしまった。
「あっ……」
まだ十七歳の涼にいきなりやり過ぎたか。一度口づけを離し、涼の顔色を確かめてみる。
「涼……俺のこと好きって言ってくれたけれども、俺の好きは、こういうことも、この先もってことなんだよ。本当に大丈夫なのか」
「うん……こういうことだって知ってる」
「ふっ口だけは達者だな。こんなに震えているのに」
「あっ」
しまったというような苦い顔を一瞬浮かべ、涼は震える躰を自分で抱きしめ落ちつかせようとしている。そんないじらしい涼を俺はふわっと優しく包むように抱きしめ、背中を優しくさすってやる。
「無理しなくてもいい。ゆっくりでいい……さぁそろそろ帰ろう」
「えっ……嫌だ!」
「何言って……?」
「だって安志さん明日いなくなっちゃうから」
「可愛いこと言うんだな。日本で待ってるよ。あと一ヶ月もしないうちに会えるのだろう。心配しなくても、俺は変わらず涼を待っているよ」
「約束だよ」
「あぁゆっくりでいいんだ。一度に全部手に入れたらつまらないだろう? 」
「安志さんありがとう! 凄く大人のキスだった……その……素敵だった」
ほっと安堵の表情を浮かべた涼が清々しい香りを纏いながら、ふわっと俺に抱き付いてくれる。
「おいおい、まだまだこんなもんじゃないよ」
「えっ! そ、そうなの? 」
赤面し、しどろもどろになっていく涼が、可愛らしくて思わず目を細めてしまう。俺と対等に付き合おうと背伸びしている涼の、時々見せる年相応の幼い仕草が、なんともツボにはまる。
あー俺、大丈夫か。
我慢できるだろうか。
「さぁ帰るぞ」
「うっ……うん」
俺と涼、十歳も歳の差はあるが、心はぴったりと寄り添っている。そんなことを想うと心がぽかぽかと温かくなっていく。
「一緒に帰ろう」
握りしめた涼の手は滑らかで若々しく、しっとりしていた。
俺たちはゆっくりとセントラル・パークを後にした。
二人が並ぶ影が夕日にあたり長く伸び、影は楽しそうに揺れ、重なったりしながら、何処までもついてくる。
ニューヨークでの生活もおしまいだ。そして涼との日々が日本でもうすぐ始まる。幸せな予感だけが、俺を占めている。
今まで我慢してきた、悲しいことや辛いことがすべて帳消しになるほど、今俺は幸せで満ちている。
それは涼のおかげだ。俺のことを一途に慕ってくれる涼のおかげだ。
※安志編※面影 了
****
明日以降は第4章に入ります♪
安志の日本編はまた後日!
涼の栗毛色の髪の毛は、風にそよそよと揺れ、長めの前髪から見え隠れする澄んだ眼差しは少し潤んでいる。
ふたりの間にはもう隠すことはない。洋が好きだったこともきちんと話せた。ほっとした気持ちと自分が新しいスタートを切る気持ちが交差していく。
俺は涼と公園の大木の幹に隠れるようにして、向かい合って立っている。
俺がその細い顎を掬いあげると、涼は俺のことを真っすぐ見上げ、それから長い睫毛を小さく震わせながらそっと目を閉じた。
洋と別れる時の哀しみで濡れた口づけを一瞬思い出す。だが今は嬉し涙が出そうだ。そっと顔を近づけて唇を重ねてみると、涼の形の良い唇はふっくらと温かい。角度を変えて啄むようにちゅっちゅっと口づけを落としていく。
涼はこんなこと初めてなのだろう。慣れたふりして強がっているのだ。緊張して歯がカタカタと震えているのが愛おしい。
「ふっ……涼、ファーストキスなのか? ちゃんと心を込めてするの……初めてなのか? 」
「んっ……そっそんなことない」
「ふふっわかるよ、それなら嬉しい」
そっと舌先で涼の唇をノックし、薄く開かせた隙間から潜り込んでいく。涼の口腔を俺の舌で丁寧に舐め、逃げていく舌に絡める。
「あっ……んっ……」
熱を帯びて来たのだろう。涼が時々小さな声をあげて喉の奥から色っぽい声を出して鳴く。その小さな声に反応した俺は、下半身が熱くなり、思わず噛みつくような深いキスを涼にしてしまった。
「あっ……」
まだ十七歳の涼にいきなりやり過ぎたか。一度口づけを離し、涼の顔色を確かめてみる。
「涼……俺のこと好きって言ってくれたけれども、俺の好きは、こういうことも、この先もってことなんだよ。本当に大丈夫なのか」
「うん……こういうことだって知ってる」
「ふっ口だけは達者だな。こんなに震えているのに」
「あっ」
しまったというような苦い顔を一瞬浮かべ、涼は震える躰を自分で抱きしめ落ちつかせようとしている。そんないじらしい涼を俺はふわっと優しく包むように抱きしめ、背中を優しくさすってやる。
「無理しなくてもいい。ゆっくりでいい……さぁそろそろ帰ろう」
「えっ……嫌だ!」
「何言って……?」
「だって安志さん明日いなくなっちゃうから」
「可愛いこと言うんだな。日本で待ってるよ。あと一ヶ月もしないうちに会えるのだろう。心配しなくても、俺は変わらず涼を待っているよ」
「約束だよ」
「あぁゆっくりでいいんだ。一度に全部手に入れたらつまらないだろう? 」
「安志さんありがとう! 凄く大人のキスだった……その……素敵だった」
ほっと安堵の表情を浮かべた涼が清々しい香りを纏いながら、ふわっと俺に抱き付いてくれる。
「おいおい、まだまだこんなもんじゃないよ」
「えっ! そ、そうなの? 」
赤面し、しどろもどろになっていく涼が、可愛らしくて思わず目を細めてしまう。俺と対等に付き合おうと背伸びしている涼の、時々見せる年相応の幼い仕草が、なんともツボにはまる。
あー俺、大丈夫か。
我慢できるだろうか。
「さぁ帰るぞ」
「うっ……うん」
俺と涼、十歳も歳の差はあるが、心はぴったりと寄り添っている。そんなことを想うと心がぽかぽかと温かくなっていく。
「一緒に帰ろう」
握りしめた涼の手は滑らかで若々しく、しっとりしていた。
俺たちはゆっくりとセントラル・パークを後にした。
二人が並ぶ影が夕日にあたり長く伸び、影は楽しそうに揺れ、重なったりしながら、何処までもついてくる。
ニューヨークでの生活もおしまいだ。そして涼との日々が日本でもうすぐ始まる。幸せな予感だけが、俺を占めている。
今まで我慢してきた、悲しいことや辛いことがすべて帳消しになるほど、今俺は幸せで満ちている。
それは涼のおかげだ。俺のことを一途に慕ってくれる涼のおかげだ。
※安志編※面影 了
****
明日以降は第4章に入ります♪
安志の日本編はまた後日!
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる