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第3章
※安志編※ 面影 8
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船が風を切って前進するたびに、爽やかな海風を運んでくれた。そののどかな光景が、涼の口を幾ばくか軽くしたようだ。
涼と俺が船の客席に腰かけると、木造の座席はひんやりと冷たく感じた。外は晴天なのに船内の日の当たらない場所は随分と陰湿な雰囲気だ。そんな場所で……涼は言葉を選びながら慎重に語り出した。
「僕が探している人とはこのフェリーで偶然出会ったんです。もう七年ほど前になるかな」
「それって涼がまだずいぶん小さい頃だな」
「えっと、僕がまだ小学生……十歳の頃です」
「一体どんな人だったんだ?」
涼は横を向き俺の顔をじっと見つめた。目鼻立ちが上品に整った涼し気な顔は清らかな美しさで満ちて、その少しはにかんだような、潤んだ目元は本当に洋と似ている。
「その人は……今の僕とすごく似た顔をしていて」
「えっ! 君と?」
「うん……僕はまだ小さくて両親とフェリーに乗っていて、彼は独りでフェリーの日の当たらないベンチに気怠そうに座っていて……そうあの辺りに。帽子で顔を隠して俯いていた」
「そっそれで?」
なんだかモヤモヤとした気持ちが止まらない。
「出航して暫くすると右側に自由の女神が正面から見えてくるので、乗船している人のほぼ全員がそちらを見るのが普通なのに、彼だけは頑なに拒んでいるかのように身じろぎ一つしないので不思議に思って、具合でも悪いのかなって近寄って……」
涼は過去の記憶に想いを馳せるかのように瞼を閉じた。恐らくその人と邂逅した日のことを思い出しているのだろう。
****
「あの……お兄さん、日本人? どこか具合でも悪いの?」
ずっと気になっていたお兄さんに、思い切って声をかけてみた。こんな風に知らない人に話しかけてはいけないってママから言われてるけれども、どうしても心配になったから。
「えっ……」
小さく呟くその声は優しく落ち着いていて、ほっとした。綺麗な声を出すんだな。男の人なのに……
「お兄さん?」
「ごめん。俺、ちょっとぼんやりしていて。あれ?君……まだ小さいのに、こんな所に一人じゃ危ないよ?」
「大丈夫。パパとママはすぐそこにいるから」
「そうなんだ」
その人は目深にかぶっていた帽子を外し、優しい笑顔を浮かべて俺を見つめた。
その時、お互い声があがった!
「あれ?」
「お兄さん……誰?」
「君こそ……誰?」
僕と同じ顔だ! もちろん年齢が全然違う大人の顔なんだけど、凄く似てる!お兄さんの方も驚いたような表情で固まっている。
「君、どうして……俺と同じ顔をしてるの? まるで俺の子供の頃を見ているみたいだよ。信じられない」
お互い困惑して動揺してしまった。その時ママが戻って来た。
「涼、どうしたの?どなたとおしゃべりしているの?」
「あっママ!びっくりしたんだ。このお兄さん僕と同じ顔をしてるから」
「えっ」
ママはそのお兄さんの顔を覗き込んで、びくっと躰を揺らした。
「えっ……あなた、まさか……もっもしかして……」
涼と俺が船の客席に腰かけると、木造の座席はひんやりと冷たく感じた。外は晴天なのに船内の日の当たらない場所は随分と陰湿な雰囲気だ。そんな場所で……涼は言葉を選びながら慎重に語り出した。
「僕が探している人とはこのフェリーで偶然出会ったんです。もう七年ほど前になるかな」
「それって涼がまだずいぶん小さい頃だな」
「えっと、僕がまだ小学生……十歳の頃です」
「一体どんな人だったんだ?」
涼は横を向き俺の顔をじっと見つめた。目鼻立ちが上品に整った涼し気な顔は清らかな美しさで満ちて、その少しはにかんだような、潤んだ目元は本当に洋と似ている。
「その人は……今の僕とすごく似た顔をしていて」
「えっ! 君と?」
「うん……僕はまだ小さくて両親とフェリーに乗っていて、彼は独りでフェリーの日の当たらないベンチに気怠そうに座っていて……そうあの辺りに。帽子で顔を隠して俯いていた」
「そっそれで?」
なんだかモヤモヤとした気持ちが止まらない。
「出航して暫くすると右側に自由の女神が正面から見えてくるので、乗船している人のほぼ全員がそちらを見るのが普通なのに、彼だけは頑なに拒んでいるかのように身じろぎ一つしないので不思議に思って、具合でも悪いのかなって近寄って……」
涼は過去の記憶に想いを馳せるかのように瞼を閉じた。恐らくその人と邂逅した日のことを思い出しているのだろう。
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「あの……お兄さん、日本人? どこか具合でも悪いの?」
ずっと気になっていたお兄さんに、思い切って声をかけてみた。こんな風に知らない人に話しかけてはいけないってママから言われてるけれども、どうしても心配になったから。
「えっ……」
小さく呟くその声は優しく落ち着いていて、ほっとした。綺麗な声を出すんだな。男の人なのに……
「お兄さん?」
「ごめん。俺、ちょっとぼんやりしていて。あれ?君……まだ小さいのに、こんな所に一人じゃ危ないよ?」
「大丈夫。パパとママはすぐそこにいるから」
「そうなんだ」
その人は目深にかぶっていた帽子を外し、優しい笑顔を浮かべて俺を見つめた。
その時、お互い声があがった!
「あれ?」
「お兄さん……誰?」
「君こそ……誰?」
僕と同じ顔だ! もちろん年齢が全然違う大人の顔なんだけど、凄く似てる!お兄さんの方も驚いたような表情で固まっている。
「君、どうして……俺と同じ顔をしてるの? まるで俺の子供の頃を見ているみたいだよ。信じられない」
お互い困惑して動揺してしまった。その時ママが戻って来た。
「涼、どうしたの?どなたとおしゃべりしているの?」
「あっママ!びっくりしたんだ。このお兄さん僕と同じ顔をしてるから」
「えっ」
ママはそのお兄さんの顔を覗き込んで、びくっと躰を揺らした。
「えっ……あなた、まさか……もっもしかして……」
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