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第3章
※安志編※ 面影 7
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涼を途中まで見送ってホテルの部屋に戻ってから、俺の顔はずっとニヤけていたかもしれない。
最初は洋の面影を感じる涼の顔に興味を持っただけだったのに、涼を見れば見るほど、知れば知るほど、洋とは違う魅力に振り回され、惹かれていくような不思議な気持ちになっていく。
洋はお母さんを亡くした頃から雰囲気が一気に暗くなり、儚げで倒れそうで……いつも我慢して耐えて泣いていた。それでも最後は自分でやっと立ち上がり、お義父さんと決別し、丈と手を取り合って旅立っていったのだ。
涼は洋と面差しが似た顔のせいか、やはり男性から好色な目で見られることも多かったようだが、それに打ち勝とうと自分を鍛えて前向きに生きていた。
でも洋とはまた違って……なんていうか強がっている、強いふりをしている、そんな心の奥底が見えてしまった。涼が強がれば強がるほど、守ってやりたい気持ちが沸いてくる。
洋に抱いていたあの疼くような気持ち……今は涼のことを考える時に起きてくる。
これって一体……参ったな。
****
「安志さん!」
ロビーで待っていると、約束の十時少し前に涼がやって来た。走って来たのか、息を切らせて頬を紅潮させているのが可愛い。若いな、やっぱりさすが十七歳だ。健康的に輝く汗すらも、綺麗だと思った。
「待ちました?」
「いや、今来たところだ」
「あの、昨夜はありがとうございました。あのTシャツ……まだ乾かなくて、その……」
「いいよ!やるよ!あんなのでよければ」
「あっ、じゃあ僕に何か代わりのもの買わせてください」
「いいよ。十歳も年下の子に」
涼のその必死な様子が可愛かったが、流石に十も年下の男の子に、それもなぁとやんわり断った。
「……年下だって馬鹿にしないでください」
悔しそうに唇をきゅっと噛みしめた涼の横顔は十七歳とは思えない程、艶めいて俺はトキメキを少なからず覚えた。
「分かった分かった。じゃあお願いするよ。さぁ案内して」
「あの……僕のおすすめの場所でもいいですか」
「いいよ、どこ?」
「※サウス・フェリーに乗ってスタテン島まで往復しようかと。船から眺めるマンハッタンの街並みが一望できて、最高ですよ!僕はその船が好きだから」
「いいね。涼のおすすめならどこでも行くよ」
※サウス・フェリー
マンハッタンとスタテンアイランドを結ぶフェリーのこと。オープンデッキから、ロウアー・マンハッタンのビル群やブルックリン、そして自由の女神を一望できることから、観光客にも大人気のフェリーです。走行時間は約25分で、ゆっくりと眺めを楽しむことができます。
****
「いい眺めだな」
船のオープンデッキから遠くにマンハッタンの高層ビル群を眺めていると、ここ最近の仕事の疲れや悩みも小さなことに思えてくる。
海風を浴びながら、ほっと一息つきながら、涼のことをちらっと横目で見る。
隣に立っている涼の栗毛色の髪の毛が風でふわりと揺れて、栗毛色の毛は太陽の光を浴びると更に透明感を増し、キラキラと輝いている。色白の端正な涼の横顔が長めの髪によって、見えたり見えなくなったり……その瞬間瞬間に心が躍るような心地で見入ってしまった。
「安志さん。実はここは僕にとって大事な場所なのです」
「大事?」
「あの……探している人の話って、覚えていますか」
「あぁ……そういえば……君にとってどんな人? もしかして大事な人?」
ずっと心に引っかかっていた。涼にとって誰か大事な人の存在……俺の知らない誰かの存在を。それは俺にとって洋のような存在なのだろうか。聞きたい様な聞きたくないような。それでもやっぱり涼のことをもっと知りたいので、思い切って尋ねてみた。
「もしよかったら俺に話してくれないか」
「はい……安志さん聞いてもらえますか。でもその代わり安志さんが僕を通して見ている人のことも話してもらえませんか」
「えっ」
動揺してしまった。涼を通して洋を想い出していたことがばれていたのか。じっと涼の髪の毛と同じ茶色の瞳の中を覗き込むと、涼は少し寂しそうに見つめ返してきた。
「僕も……安志さんのことをもっと知りたいから」
最初は洋の面影を感じる涼の顔に興味を持っただけだったのに、涼を見れば見るほど、知れば知るほど、洋とは違う魅力に振り回され、惹かれていくような不思議な気持ちになっていく。
洋はお母さんを亡くした頃から雰囲気が一気に暗くなり、儚げで倒れそうで……いつも我慢して耐えて泣いていた。それでも最後は自分でやっと立ち上がり、お義父さんと決別し、丈と手を取り合って旅立っていったのだ。
涼は洋と面差しが似た顔のせいか、やはり男性から好色な目で見られることも多かったようだが、それに打ち勝とうと自分を鍛えて前向きに生きていた。
でも洋とはまた違って……なんていうか強がっている、強いふりをしている、そんな心の奥底が見えてしまった。涼が強がれば強がるほど、守ってやりたい気持ちが沸いてくる。
洋に抱いていたあの疼くような気持ち……今は涼のことを考える時に起きてくる。
これって一体……参ったな。
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「安志さん!」
ロビーで待っていると、約束の十時少し前に涼がやって来た。走って来たのか、息を切らせて頬を紅潮させているのが可愛い。若いな、やっぱりさすが十七歳だ。健康的に輝く汗すらも、綺麗だと思った。
「待ちました?」
「いや、今来たところだ」
「あの、昨夜はありがとうございました。あのTシャツ……まだ乾かなくて、その……」
「いいよ!やるよ!あんなのでよければ」
「あっ、じゃあ僕に何か代わりのもの買わせてください」
「いいよ。十歳も年下の子に」
涼のその必死な様子が可愛かったが、流石に十も年下の男の子に、それもなぁとやんわり断った。
「……年下だって馬鹿にしないでください」
悔しそうに唇をきゅっと噛みしめた涼の横顔は十七歳とは思えない程、艶めいて俺はトキメキを少なからず覚えた。
「分かった分かった。じゃあお願いするよ。さぁ案内して」
「あの……僕のおすすめの場所でもいいですか」
「いいよ、どこ?」
「※サウス・フェリーに乗ってスタテン島まで往復しようかと。船から眺めるマンハッタンの街並みが一望できて、最高ですよ!僕はその船が好きだから」
「いいね。涼のおすすめならどこでも行くよ」
※サウス・フェリー
マンハッタンとスタテンアイランドを結ぶフェリーのこと。オープンデッキから、ロウアー・マンハッタンのビル群やブルックリン、そして自由の女神を一望できることから、観光客にも大人気のフェリーです。走行時間は約25分で、ゆっくりと眺めを楽しむことができます。
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「いい眺めだな」
船のオープンデッキから遠くにマンハッタンの高層ビル群を眺めていると、ここ最近の仕事の疲れや悩みも小さなことに思えてくる。
海風を浴びながら、ほっと一息つきながら、涼のことをちらっと横目で見る。
隣に立っている涼の栗毛色の髪の毛が風でふわりと揺れて、栗毛色の毛は太陽の光を浴びると更に透明感を増し、キラキラと輝いている。色白の端正な涼の横顔が長めの髪によって、見えたり見えなくなったり……その瞬間瞬間に心が躍るような心地で見入ってしまった。
「安志さん。実はここは僕にとって大事な場所なのです」
「大事?」
「あの……探している人の話って、覚えていますか」
「あぁ……そういえば……君にとってどんな人? もしかして大事な人?」
ずっと心に引っかかっていた。涼にとって誰か大事な人の存在……俺の知らない誰かの存在を。それは俺にとって洋のような存在なのだろうか。聞きたい様な聞きたくないような。それでもやっぱり涼のことをもっと知りたいので、思い切って尋ねてみた。
「もしよかったら俺に話してくれないか」
「はい……安志さん聞いてもらえますか。でもその代わり安志さんが僕を通して見ている人のことも話してもらえませんか」
「えっ」
動揺してしまった。涼を通して洋を想い出していたことがばれていたのか。じっと涼の髪の毛と同じ茶色の瞳の中を覗き込むと、涼は少し寂しそうに見つめ返してきた。
「僕も……安志さんのことをもっと知りたいから」
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