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第3章
※安志編※ 面影 4
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「あの角を曲がればセントラルパークですよ」
「ありがとう。助かったよ」
「あの……今日はお仕事じゃないんですか」
「なんで?」
「えっと、飛行機の時はスーツだったから」
あれ? 結構俺のこと見てくれていたのかと思うと、途端に嬉しくなるぞ。
「あぁ今日はオフなんだ」
「聞いてもいいですか。どんなお仕事でここへ?」
「研修だよ」
「研修?」
「うん、俺は警備会社で働いていてさ」
「ふぅん……警備員さん?」
年若い彼にはまだ社会人の仕事内容がスムーズに掴めないようだった。意外そうな顔で俺のことを見つめてくるので、つい少し詳しい話をしてしまった。いつもなら初対面の相手に普通ここまで話さないのに、不思議だな。
「はは……警備員といってもただ警備するだけでなく、ボディガードみたいなのをしたり、調べたり、まぁいろいろやってるから便利屋みたいなものかな」
噛み砕いて話してやると、彼はピクッと反応を示した。
「あのそれって……もしかして人探しも出来ますか」
「人探し? 君、誰か探してるのか」
意外な質問だった。洋にそっくりな少年が逆に誰かを探しているなんて。
「あっ……いやっいいんです。すいません、さぁ公園です。じゃっ僕はこれで」
「あっありがとう。あの君の名前は?」
何でだろう。余計なことを言ってしまったという後悔を感じさせる表情をし慌てて話を終わらせたのが胸にひっかかったし、この少年との縁がこれで終わりなのが名残惜しくて、つい名前を聞いてしまった。
「ふっ、なんだかナンパみたいですね。でもあなたはやっぱりとても真面目そうだから違いますね。僕は涼(りょう)っていいます。あなたは?」
「鷹野安志(たかのあんじ)だ。本当に助かったよ。あ……これ俺の会社の名刺。よかったら……」
俺が差し出した名刺を見て、涼と名乗る少年は目を丸く見開いて、その後くすっと可愛い笑みを浮かべた。
「ふふっ、やっぱりナンパだ」
「違うっ! そのさっき話していた人探し、俺でよかったら少しは役立つかもって思ったから」
途端に彼はくすぐったい笑みから、すぐにすっと真面目な凛とした表情に戻っていった。あぁこの感じ、いいな。清々しい。
「そうですね。えっと安志さんでしたよね、本当にありがとうございます。じゃあ僕行きますね。でもその前に」
「えっ!」
びっくりした。一陣の爽やかな風が俺を吹き抜け、突然ふわっとハグされた!それは一瞬だったが、俺の顎をかすめるように、栗毛色の柔らかい髪の毛が触れた。
途端に高校時代、電車の中で洋の髪の毛が触れた日の出来事が思い出してしまい、胸にズキンと堪えた。ちょっと切ない顔をしてしまったかなと思い、慌てて取り繕い見下ろすと、少年の方は、ほんの僅か頬を染めていた。
「安志さんも探している人がいそうですね。見つかるといいですね!これはアメリカ式の挨拶ですよ!安志さんはなんだか……辛そうだから。じゃあ!」
くるりと背を向けて真っすぐに駆け出していく後姿には、穢れなき羽が生えているようだった。細身のジーンズに白いシャツが涼のスタイルの良さを引き立てている。シャツの袖を無造作に捲って細い手首を出したラフな着こなしだ。
洋によく似た美しい少年の名は「涼」
また会うことになるかもしれない。
そんな予感がした。
洋──
君に似た面影の人に会ったよ。
洋は今、何処にいるのか。
何をしているのか。
「ありがとう。助かったよ」
「あの……今日はお仕事じゃないんですか」
「なんで?」
「えっと、飛行機の時はスーツだったから」
あれ? 結構俺のこと見てくれていたのかと思うと、途端に嬉しくなるぞ。
「あぁ今日はオフなんだ」
「聞いてもいいですか。どんなお仕事でここへ?」
「研修だよ」
「研修?」
「うん、俺は警備会社で働いていてさ」
「ふぅん……警備員さん?」
年若い彼にはまだ社会人の仕事内容がスムーズに掴めないようだった。意外そうな顔で俺のことを見つめてくるので、つい少し詳しい話をしてしまった。いつもなら初対面の相手に普通ここまで話さないのに、不思議だな。
「はは……警備員といってもただ警備するだけでなく、ボディガードみたいなのをしたり、調べたり、まぁいろいろやってるから便利屋みたいなものかな」
噛み砕いて話してやると、彼はピクッと反応を示した。
「あのそれって……もしかして人探しも出来ますか」
「人探し? 君、誰か探してるのか」
意外な質問だった。洋にそっくりな少年が逆に誰かを探しているなんて。
「あっ……いやっいいんです。すいません、さぁ公園です。じゃっ僕はこれで」
「あっありがとう。あの君の名前は?」
何でだろう。余計なことを言ってしまったという後悔を感じさせる表情をし慌てて話を終わらせたのが胸にひっかかったし、この少年との縁がこれで終わりなのが名残惜しくて、つい名前を聞いてしまった。
「ふっ、なんだかナンパみたいですね。でもあなたはやっぱりとても真面目そうだから違いますね。僕は涼(りょう)っていいます。あなたは?」
「鷹野安志(たかのあんじ)だ。本当に助かったよ。あ……これ俺の会社の名刺。よかったら……」
俺が差し出した名刺を見て、涼と名乗る少年は目を丸く見開いて、その後くすっと可愛い笑みを浮かべた。
「ふふっ、やっぱりナンパだ」
「違うっ! そのさっき話していた人探し、俺でよかったら少しは役立つかもって思ったから」
途端に彼はくすぐったい笑みから、すぐにすっと真面目な凛とした表情に戻っていった。あぁこの感じ、いいな。清々しい。
「そうですね。えっと安志さんでしたよね、本当にありがとうございます。じゃあ僕行きますね。でもその前に」
「えっ!」
びっくりした。一陣の爽やかな風が俺を吹き抜け、突然ふわっとハグされた!それは一瞬だったが、俺の顎をかすめるように、栗毛色の柔らかい髪の毛が触れた。
途端に高校時代、電車の中で洋の髪の毛が触れた日の出来事が思い出してしまい、胸にズキンと堪えた。ちょっと切ない顔をしてしまったかなと思い、慌てて取り繕い見下ろすと、少年の方は、ほんの僅か頬を染めていた。
「安志さんも探している人がいそうですね。見つかるといいですね!これはアメリカ式の挨拶ですよ!安志さんはなんだか……辛そうだから。じゃあ!」
くるりと背を向けて真っすぐに駆け出していく後姿には、穢れなき羽が生えているようだった。細身のジーンズに白いシャツが涼のスタイルの良さを引き立てている。シャツの袖を無造作に捲って細い手首を出したラフな着こなしだ。
洋によく似た美しい少年の名は「涼」
また会うことになるかもしれない。
そんな予感がした。
洋──
君に似た面影の人に会ったよ。
洋は今、何処にいるのか。
何をしているのか。
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