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第3章
※安志編※ 面影 2
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「えっ洋?なんでこんな所に洋がいるんだ?」
心臓が止まると思った。それくらい驚いた。だが目を凝らしじっと見れば、やはり洋ではなかった。よく見れば、洋よりずっと若い、まだ高校生位の少年だった。何より決定的な違いはその雰囲気だ。彼は洋のように儚げで寂し気な印象ではなかった。差し出されたジュースを受け取り、明るく太陽のような笑顔で微笑みながらお礼を言う姿が眩しかった。
違う……洋はあんな風には笑わなかった。
それにしても似てる。何というか……全体的な雰囲気が似ているのだ。美しい横顔、切れ長の憂いを含んだ美しい瞳が特に似ていて、それから襟足で揺れる長めの柔らかそうな髪も洋みたいだ。
でもやっぱりよく見ると違う。
洋の髪の毛は漆黒だったのに、彼は栗毛色をしている。明るい雰囲気の輝くような笑顔は、月のようにひっそりとしていた洋とはまるで正反対だ。
頭の中が混乱してしまった。
座席に戻ったあとも瞼の奥に、先ほど見かけた青年の顔が浮かび不覚にもドキドキしてしまう。一体何なんだ。他人の空似にしては、似すぎているよな。はぁ……せっかく洋のことを忘れてきていたのに、これじゃまた振り出しだ。
しっかりしないと、忘れないと。そのまま飛行機の狭い座席にもたれ、無理やり目を瞑って眠ろうと心掛けた。
****
「まもなく着陸です。シートベルトをお締めになり座席の背もたれを元の位置に……」
機内アナウンスの声で目が覚めた。あれ? 俺いつの間にぐっすり寝ていたのか。でもやっぱりさっきの洋によく似た少年が気になって、ちらっと後方に目をやると、まだぐっすり眠っているようだ。そのあどけない寝顔にまたドキッとする。彼の寝顔……あの日、俺の部屋でほっとした表情で眠りに着いた洋にそっくりだ。
一体どこの誰なんだ? 話しかけたい、この場限りにしたくない。そんな欲求に負けそうになるが、ぐっと我慢してやり過ごした。
何故なら、彼は洋ではないのだから。
到着ゲートを出て、俺は研修先の出迎えを受けた。その時、洋によく似た少年が俺の横を通り過ぎ一瞬肩がぶつかった。彼ははっとこちらを見て軽く会釈して「すみません」と日本語で囁いて、そのまま通り過ぎていった。
その温もりに雷に打たれたように立ち尽くしてしまった。眠っていたあの感覚が疼き出してくる。まずい……
「鷹野さんどうしました?」
通訳の人に声を掛けられ我に返ったので、名残惜しいが彼の背中を見送った。これきりになるだろう。
「いや……よく似た人がいたもので、さぁ行きましょう」
****
研修は過酷なスケジュールだ。三週間という時間で、アメリカのSPの仕事を学ぶのだから、遊ぶ時間なんてない。まして余計なことを考える時間もない。やっと一週間が経って取れた半日だけの休み。俺はせっかくニューヨークに来たのだからと、観光をしてみることにした。オフィスでPCに向かうことが多かったので、今日は広い公園に行って躰を動かしたい。
「ええっと※セントラル・パークはどっちだ?」
※セントラル・パーク
セントラル・パークは、アメリカ合衆国ニューヨーク市のマンハッタンにある都市公園で、南北4km、東西0.8kmの広大な敷地で、周囲の摩天楼で働き暮らすマンハッタンの人々のオアシスです。
あてもなくホテルから出て、道の方隅で地図を広げていると、突然ドンっと人が躰にぶつかった衝撃でよろめいてしまった。
「sorry!」
そういって通り過ぎる二人組を目で追いながら、何気なくポケットに手をやると、財布がないことにすぐに気が付いた。
やられた!
「スリだ!くそっ!警備の仕事を舐めるなよっ!待て!」
俺はその男を全速力で追いかけた。なかなか早い逃げ足の男だが、絶対に捕まえて見せる。
「えっ?」
その時、俺の横にもう一つの影が過り、一気に通り過ぎて行った。
「だっ誰だ?」
心臓が止まると思った。それくらい驚いた。だが目を凝らしじっと見れば、やはり洋ではなかった。よく見れば、洋よりずっと若い、まだ高校生位の少年だった。何より決定的な違いはその雰囲気だ。彼は洋のように儚げで寂し気な印象ではなかった。差し出されたジュースを受け取り、明るく太陽のような笑顔で微笑みながらお礼を言う姿が眩しかった。
違う……洋はあんな風には笑わなかった。
それにしても似てる。何というか……全体的な雰囲気が似ているのだ。美しい横顔、切れ長の憂いを含んだ美しい瞳が特に似ていて、それから襟足で揺れる長めの柔らかそうな髪も洋みたいだ。
でもやっぱりよく見ると違う。
洋の髪の毛は漆黒だったのに、彼は栗毛色をしている。明るい雰囲気の輝くような笑顔は、月のようにひっそりとしていた洋とはまるで正反対だ。
頭の中が混乱してしまった。
座席に戻ったあとも瞼の奥に、先ほど見かけた青年の顔が浮かび不覚にもドキドキしてしまう。一体何なんだ。他人の空似にしては、似すぎているよな。はぁ……せっかく洋のことを忘れてきていたのに、これじゃまた振り出しだ。
しっかりしないと、忘れないと。そのまま飛行機の狭い座席にもたれ、無理やり目を瞑って眠ろうと心掛けた。
****
「まもなく着陸です。シートベルトをお締めになり座席の背もたれを元の位置に……」
機内アナウンスの声で目が覚めた。あれ? 俺いつの間にぐっすり寝ていたのか。でもやっぱりさっきの洋によく似た少年が気になって、ちらっと後方に目をやると、まだぐっすり眠っているようだ。そのあどけない寝顔にまたドキッとする。彼の寝顔……あの日、俺の部屋でほっとした表情で眠りに着いた洋にそっくりだ。
一体どこの誰なんだ? 話しかけたい、この場限りにしたくない。そんな欲求に負けそうになるが、ぐっと我慢してやり過ごした。
何故なら、彼は洋ではないのだから。
到着ゲートを出て、俺は研修先の出迎えを受けた。その時、洋によく似た少年が俺の横を通り過ぎ一瞬肩がぶつかった。彼ははっとこちらを見て軽く会釈して「すみません」と日本語で囁いて、そのまま通り過ぎていった。
その温もりに雷に打たれたように立ち尽くしてしまった。眠っていたあの感覚が疼き出してくる。まずい……
「鷹野さんどうしました?」
通訳の人に声を掛けられ我に返ったので、名残惜しいが彼の背中を見送った。これきりになるだろう。
「いや……よく似た人がいたもので、さぁ行きましょう」
****
研修は過酷なスケジュールだ。三週間という時間で、アメリカのSPの仕事を学ぶのだから、遊ぶ時間なんてない。まして余計なことを考える時間もない。やっと一週間が経って取れた半日だけの休み。俺はせっかくニューヨークに来たのだからと、観光をしてみることにした。オフィスでPCに向かうことが多かったので、今日は広い公園に行って躰を動かしたい。
「ええっと※セントラル・パークはどっちだ?」
※セントラル・パーク
セントラル・パークは、アメリカ合衆国ニューヨーク市のマンハッタンにある都市公園で、南北4km、東西0.8kmの広大な敷地で、周囲の摩天楼で働き暮らすマンハッタンの人々のオアシスです。
あてもなくホテルから出て、道の方隅で地図を広げていると、突然ドンっと人が躰にぶつかった衝撃でよろめいてしまった。
「sorry!」
そういって通り過ぎる二人組を目で追いながら、何気なくポケットに手をやると、財布がないことにすぐに気が付いた。
やられた!
「スリだ!くそっ!警備の仕事を舐めるなよっ!待て!」
俺はその男を全速力で追いかけた。なかなか早い逃げ足の男だが、絶対に捕まえて見せる。
「えっ?」
その時、俺の横にもう一つの影が過り、一気に通り過ぎて行った。
「だっ誰だ?」
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