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第3章
※番外編※ 星降る小高い丘にて4
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風呂から上がりバスローブを纏っただけの洋の濡れた髪を、ドライヤーで乾かしてやる。
細く折れそうな首筋は白く儚げだ。少しくせ毛の黒髪が熱風に揺れ、ふわふわと弾んでいる。
「よし、だいたい乾いたぞ」
その首筋にちゅっとキスをする。
「あっ……ありがとう。」
本当ならこの魅惑的なバスローブ姿の洋を、ここで今すぐ押し倒したいところだが……流石にベッドでなくテーブルの上で抱いて、洋の躰に負担がかかったと思う私は、そのまま解放してやることにした。それにしても私も本当に馬鹿な男だ。こんなにも一人の人に溺れるなんて……でももう洋以外の人は目に入らない。
「洋、これに着替えて」
事前に購入して宅急便で送っておいた肌着や部屋着一式を渡してやると、かぁぁっと音を立てるように洋が真っ赤になったので、逆に驚いた。おいおいこの程度のことで?
「えっ?これ丈が用意してくれたの?俺のために」
「そうだが、気に入らないか」
「違う!俺……誰かに洋服を用意してもらうなんて久しぶりで」
あぁそうか、洋のお母さんは洋が十三歳の時亡くなったと聞いたから、それから十年以上、自分のことは全部自分でやってきたんだと思うと、チクリと胸が痛んだ。
「わぁ、この部屋着!綺麗な紺色でいいな。あっ……もしかして丈とお揃いなのか」
「あぁ」
「そうか、嬉しいよ」
途端に花のようににっこりと笑って着替え始める。その様子を眺めながらほくそ笑んでしまう。バスローブ姿もいいが、私とおそろいの部屋着というのも貴重だろう。
二人で天窓から星が降り注ぐベッドへ潜り込むが、3月といっても軽井沢はまだ真冬の寒さなので、布団が冷たく感じた。
「洋、こっちにおいで、もう何もしないから。独りで寝るには寒いな。この部屋」
「あぁ」
素直に私のベッドに入ってくる洋の細い肩を抱き寄せ、一緒に天窓を見上げてみた。部屋の電気を消したせいで、星が降ってくるように鮮明に見え、月明かりが幻想的に射し込んでくる。
(コラージュ 志生帆 海)
「綺麗だ……」
洋がうっとりした声で呟くが、月明かりに照らされた洋の横顔の方がもっと美しいと思った。
「丈……」
「なんだ?」
「ガラス越しじゃ物足りないな。もっと近くにいきたい。外に見に行きたい」
「今から?それは駄目だ」
「なんで?」
「洋が風邪をひくから。風呂上りに外に出るなんて駄目だ」
いや違う。それは嘘だ。外に洋を出したら、そのままこの美しい星空に吸い込まれそうで消えてしまいそうで怖いんだ。洋を見ると愛おしく大切でしょうがないのに、時折不安になる。得体のしれない悲しみが押し寄せてくる何故なのか。
遠い昔の私達はどんな風に抱き合って過ごしたのだろうか。
遠い昔の私達はいつまで共に過ごせたのか。ずっと一緒にいれたよな…?
洋が何処にも行かないように、行けないように、横向きになって眠ってしまった洋を背後から抱きしめた。
月明りを浴びる洋は、白く儚げで怖くなる。今は隣りで健やかな寝息を立てる洋なのに。
──流れる星に願うことは唯一つ──
いつまでも共にいて欲しい。
『了』
細く折れそうな首筋は白く儚げだ。少しくせ毛の黒髪が熱風に揺れ、ふわふわと弾んでいる。
「よし、だいたい乾いたぞ」
その首筋にちゅっとキスをする。
「あっ……ありがとう。」
本当ならこの魅惑的なバスローブ姿の洋を、ここで今すぐ押し倒したいところだが……流石にベッドでなくテーブルの上で抱いて、洋の躰に負担がかかったと思う私は、そのまま解放してやることにした。それにしても私も本当に馬鹿な男だ。こんなにも一人の人に溺れるなんて……でももう洋以外の人は目に入らない。
「洋、これに着替えて」
事前に購入して宅急便で送っておいた肌着や部屋着一式を渡してやると、かぁぁっと音を立てるように洋が真っ赤になったので、逆に驚いた。おいおいこの程度のことで?
「えっ?これ丈が用意してくれたの?俺のために」
「そうだが、気に入らないか」
「違う!俺……誰かに洋服を用意してもらうなんて久しぶりで」
あぁそうか、洋のお母さんは洋が十三歳の時亡くなったと聞いたから、それから十年以上、自分のことは全部自分でやってきたんだと思うと、チクリと胸が痛んだ。
「わぁ、この部屋着!綺麗な紺色でいいな。あっ……もしかして丈とお揃いなのか」
「あぁ」
「そうか、嬉しいよ」
途端に花のようににっこりと笑って着替え始める。その様子を眺めながらほくそ笑んでしまう。バスローブ姿もいいが、私とおそろいの部屋着というのも貴重だろう。
二人で天窓から星が降り注ぐベッドへ潜り込むが、3月といっても軽井沢はまだ真冬の寒さなので、布団が冷たく感じた。
「洋、こっちにおいで、もう何もしないから。独りで寝るには寒いな。この部屋」
「あぁ」
素直に私のベッドに入ってくる洋の細い肩を抱き寄せ、一緒に天窓を見上げてみた。部屋の電気を消したせいで、星が降ってくるように鮮明に見え、月明かりが幻想的に射し込んでくる。
(コラージュ 志生帆 海)
「綺麗だ……」
洋がうっとりした声で呟くが、月明かりに照らされた洋の横顔の方がもっと美しいと思った。
「丈……」
「なんだ?」
「ガラス越しじゃ物足りないな。もっと近くにいきたい。外に見に行きたい」
「今から?それは駄目だ」
「なんで?」
「洋が風邪をひくから。風呂上りに外に出るなんて駄目だ」
いや違う。それは嘘だ。外に洋を出したら、そのままこの美しい星空に吸い込まれそうで消えてしまいそうで怖いんだ。洋を見ると愛おしく大切でしょうがないのに、時折不安になる。得体のしれない悲しみが押し寄せてくる何故なのか。
遠い昔の私達はどんな風に抱き合って過ごしたのだろうか。
遠い昔の私達はいつまで共に過ごせたのか。ずっと一緒にいれたよな…?
洋が何処にも行かないように、行けないように、横向きになって眠ってしまった洋を背後から抱きしめた。
月明りを浴びる洋は、白く儚げで怖くなる。今は隣りで健やかな寝息を立てる洋なのに。
──流れる星に願うことは唯一つ──
いつまでも共にいて欲しい。
『了』
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