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第3章
明けない夜はない 12
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シャワーを浴びて少しさっぱりした表情で、洋が俺の部屋に戻ってきた。
「なぁ……洋の好きだった音楽でもかけようか」
「……あぁ」
どこか上の空で、洋が答える。何か頼みたさそうなな表情を、さっきから浮かべては消しての繰り返しだ。そして俺はそれに気づいていながら、見ないふりをしていた。
丈に会いに行きたいのか。
俺はその背中を押さないといけないのに滑稽だ。友達でいいから傍にいたいとさっき誓ったばかりなのに背中を押せないなんて。いい加減、決断しないと、洋に残された時間は少ない。
俺にはやらなくてはいけないことがある。
「洋……嫌だろうけど答えてくれないか」
「何?」
不安そうな顔に途端になる。
「お前の今の家……教えて。今日なら洋のお父さんは油断しているから監視が緩いはずだ」
「……何のこと?」
「洋の部屋に盗聴器や隠しカメラが仕掛けられているんじゃないか」
「あっ……」
洋の顔は恥ずかしさから赤くなる。それが答えだって言っているようなものだ。
「俺は警備会社に勤めているって話したよな」
「うん、制服着てたな。安志はATMとかの警備みたいなのをしているのか」
「まぁ表向きはな」
「どういうこと?」
「実は内勤では、セキュリティ関係の仕事をしているんだよ」
「セキュリティ?」
「あぁ例えば盗聴器を見つけたり隠しカメラを探したり、その画像や音声を差し替えたりも出来る。洋の部屋にも仕掛けられているだろう、その……お義父さんによって」
「……ふっ何でもお見通しだな。あぁ……そうみたいだ。でも俺も探してみたが、何処にあるのか分からなかった」
「素人じゃ無理だ。鍵を貸せよ。今から俺が行って見てきてやるから」
「でっでも、安志にそんな危険なことは……頼めない」
「大丈夫だよ。俺はプロだから。それに洋は行きたい所があるんじゃないのか」
「……ないよ。此処にいる」
悲し気に目を伏せる洋がいじらしい。本当は今すぐにでも、あいつの所へ飛んで行きたいのだろう。
「洋、これ俺のバイクのキーだ。俺が洋のマンションに行っている間、少し気晴らしに乗ってこいよ」
「……安志……でも……悪いよ」
「いいんだよ。洋が行きたいところへ、会いたい人にとにかく会って来い。そうすれば洋もこれからすることに勇気が持てるかも。このままでいたくないなら勇気を出せ!」
「安志……それは無理だ」
「何故?」
泣きそうで辛そうな表情を浮かべた洋が、悔しそうに呟く。
「もう……躰が汚れて……どんなに洗っても洗っても、汚れが落ちないんだ」
そんなことない! そんなに自分を責めるなよ! お前が悪いんじゃないのに。
「しっかりしろよ。洋自身が汚れたんじゃない。確かに躰を汚されたのかもしれないが、洋は汚れてない。洋の心は汚れてないんだよ。だから自信持てよ!」
「安志……」
「さぁ住所教えてくれ。洋の部屋を調べてくるから」
「……うん」
「さぁこれがバイクのキーだ。後悔するようなことするな。チャンスは今日だけだ」
躊躇う洋の手に無理やりキーを握らせ、俺は出掛けた。
これでいいんだ。これで……
そう自分自身を納得させるように、呟きながら。
「なぁ……洋の好きだった音楽でもかけようか」
「……あぁ」
どこか上の空で、洋が答える。何か頼みたさそうなな表情を、さっきから浮かべては消しての繰り返しだ。そして俺はそれに気づいていながら、見ないふりをしていた。
丈に会いに行きたいのか。
俺はその背中を押さないといけないのに滑稽だ。友達でいいから傍にいたいとさっき誓ったばかりなのに背中を押せないなんて。いい加減、決断しないと、洋に残された時間は少ない。
俺にはやらなくてはいけないことがある。
「洋……嫌だろうけど答えてくれないか」
「何?」
不安そうな顔に途端になる。
「お前の今の家……教えて。今日なら洋のお父さんは油断しているから監視が緩いはずだ」
「……何のこと?」
「洋の部屋に盗聴器や隠しカメラが仕掛けられているんじゃないか」
「あっ……」
洋の顔は恥ずかしさから赤くなる。それが答えだって言っているようなものだ。
「俺は警備会社に勤めているって話したよな」
「うん、制服着てたな。安志はATMとかの警備みたいなのをしているのか」
「まぁ表向きはな」
「どういうこと?」
「実は内勤では、セキュリティ関係の仕事をしているんだよ」
「セキュリティ?」
「あぁ例えば盗聴器を見つけたり隠しカメラを探したり、その画像や音声を差し替えたりも出来る。洋の部屋にも仕掛けられているだろう、その……お義父さんによって」
「……ふっ何でもお見通しだな。あぁ……そうみたいだ。でも俺も探してみたが、何処にあるのか分からなかった」
「素人じゃ無理だ。鍵を貸せよ。今から俺が行って見てきてやるから」
「でっでも、安志にそんな危険なことは……頼めない」
「大丈夫だよ。俺はプロだから。それに洋は行きたい所があるんじゃないのか」
「……ないよ。此処にいる」
悲し気に目を伏せる洋がいじらしい。本当は今すぐにでも、あいつの所へ飛んで行きたいのだろう。
「洋、これ俺のバイクのキーだ。俺が洋のマンションに行っている間、少し気晴らしに乗ってこいよ」
「……安志……でも……悪いよ」
「いいんだよ。洋が行きたいところへ、会いたい人にとにかく会って来い。そうすれば洋もこれからすることに勇気が持てるかも。このままでいたくないなら勇気を出せ!」
「安志……それは無理だ」
「何故?」
泣きそうで辛そうな表情を浮かべた洋が、悔しそうに呟く。
「もう……躰が汚れて……どんなに洗っても洗っても、汚れが落ちないんだ」
そんなことない! そんなに自分を責めるなよ! お前が悪いんじゃないのに。
「しっかりしろよ。洋自身が汚れたんじゃない。確かに躰を汚されたのかもしれないが、洋は汚れてない。洋の心は汚れてないんだよ。だから自信持てよ!」
「安志……」
「さぁ住所教えてくれ。洋の部屋を調べてくるから」
「……うん」
「さぁこれがバイクのキーだ。後悔するようなことするな。チャンスは今日だけだ」
躊躇う洋の手に無理やりキーを握らせ、俺は出掛けた。
これでいいんだ。これで……
そう自分自身を納得させるように、呟きながら。
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