重なる月

志生帆 海

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第3章

明けない夜はない 9

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 再び眠りにつく洋を俺はずっと見つめていた。洋にこんなことをしでかしたのは一体誰だ。誰かに何かをされたことは明白なのに、何故言わない?もしかして……言えないような相手なのか。

「安志、早くご飯食べちゃいなさいよー」

 階下から母さんが呼んでる。

****

「洋くん着替えさせてあげた?」
「あっ……うん」

 まだ母さんには黙っておこう。洋に何かあったにせよ、俺達は社会人だ。もう子供じゃない。出来る所までは洋と二人で頑張ってみよう。洋のためにそうしたかった。

「安志、それで躰の方には何もなかった?」
「あっ?う……うん。大丈夫だったよ」
「なら良かったわ。でもあの首の痣は?洋くん何て言っていたの?」
「あぁ、ちょっとはめ外して友人とふざけたみたいだよ。恥ずかしそうに言ってた」
「なんだ、そうなのね。母さん心配しちゃった。実はあの人から何度も電話がきていたから」
「あの人って?」
「ほら洋くんの新しいお父さん……崔加さんのことよ」
「あぁあの人か」
「洋くんが寝ている間も、何度も電話あるし、今洋くんが何処にいるのかしつこいくらい聞いていたから、母さん電話で説明する羽目になったわよ」
「へぇ……アメリカからわざわざ?」
「そうなのよ、変でしょ。もともとあの人は少し変わっているから、洋くんのお母さんの夕も苦労していたもの。疑い深いし束縛したがるでしょ。あっこんなこと安志に言っても、もう仕方がないことなのよね。肝心の夕がもうこの世にいないのに……」

 母さんはそこまで話して、悲し気に口を閉じた。洋のお母さんが再婚した頃、俺はまだ小学生だった。何も分からない子供だった。

「……だよな」

****

「洋くんに少し食べなさいって伝えてね、あと水分もね、明日も泊まっていいからね」
「分かった」

 夕食を久しぶりに両親と食べた後、母さんが作ってくれたお粥を持って二階へ上がった。洋はまだ眠っているのか、ドアを開けても身動ぎ一つしなかった。

 寝汗かいているし、何だよ……結局着替えてないじゃん。起こそうと思い、洋の顔を覗き込むと、携帯が枕元に置かれていた。

 そういえば携帯番号を変えたとか言っていたな。なんで急に?訝し気に携帯を見ていると、メールの着信があったようでチカチカと点滅している。

 少し経つとまた届く。何度も何度も新着メールが届いているようだ。この定期的に送り付けられてくる大量のメールは一体誰からだろう?

 丈っていう人は、わざわざ俺に連絡するくらいだから、洋の連絡先を知らないだろうし、こんな状態の洋にしつこくメールしてくるのは誰なのか。

 俺は洋には悪いと思ったが、そっと洋の携帯を手に取ってみた。

 見ても良いだろうか。もしかしたらこの先に洋が隠すものがあるのかもしれない。何かが分かるかもしれない。洋が自分から言えないのなら、俺が調べないといけない。

 迷った末に、緊急事態だと自分に言い聞かせ、思い切ってメールを開いてみた。

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