重なる月

志生帆 海

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第3章

君の声 7

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 バイクに跨り夜道を走り抜ける。風を斬り真っすぐな道をひたすらに走り抜けると、頬にあたる夏の終わりの涼風が心地良かった。

 遠くにはピカピカと雷が光っているのが見える。そろそろ一雨来るな。早く戻ろう。

 いつものテラスハウスに俺は帰って来た。オレンジ色の明かりが心も体も温めてくれるよ。玄関を開けると飛び込んでくるのは、ほら……丈の優しい眼差しだ。

「洋お帰り、遅かったな。雨に降られなかったか?」
「あぁ、ギリギリセーフ!少し仕事がトラブって遅くなってごめん」
「お疲れ、こっちにおいで」
「夕食は何?」
「ふっ食いしん坊だな、毎度その台詞だ」
「ふふっ。丈が作ってくれるなら何でも美味しいよ」
「やっぱり少し太ったんじゃないか」
「またっ!そうやってからかうな!着替えて来るから少し待っていて」

 俺は部屋に着替えに行く。良かった……すべて部屋は元通りになっている。スーツを脱ごうとネクタイに手を添えると、背後に丈がやってきた。

「丈……どうした?」
「洋、帰ってきてくれたんだな」
「?」
「待っていたよ。いつものように過ごして、いつも君の帰りを」

 少し目が赤くなっている丈を不思議に思う。

「俺いつものようにここに戻ってきただけだよ? 一体どうした?」
「洋……だって君はしばらく帰って来なかったから」

 丈が愛おしそうに見つめてくる。

「馬鹿だな、丈は。俺がどこへ行くと思った? 俺の居場所はここしかないのに」
「分かっているが……」

 丈の手がネクタイを外そうと伸びてくる。

「んっ」

 ネクタイをするりと抜かれ、ワイシャツの襟に手が近づく。

「自分で出来るよ」
「今すぐに抱きたい」
「夕食は?腹減ったのに……」
「洋を食べてからじゃ駄目か」

 ストレートに丈が甘えてくるから、俺も思わず赤面してしまう。

「そっそうか」

 丈に優しくベッドに押し倒されて、ワイシャツのボタンをゆっくりとはずされていく。丈の優しい手が俺の躰を隈なく撫でていく。撫でてもらった場所がポカポカと温かく感じる。

「可愛いな」
「また……可愛いって、言うな、いつもいつも」

 俺の髪を梳くように、ゆっくり優しく撫でてくれる。そして口づけされる。角度を変えながら、啄むような優しい触れ合い。徐々にお互いの息が荒くなり、やがて求めあっていく深い口づけに変化していく。

「んっ……」

 丈の口づけが首筋を辿り降りてくる。

 鎖骨に沿って、チュッときつく吸われると肌が赤く色づいていく。あぁ丈が印をつけてくれている。

「丈だけの俺だから、いくらでもつけていいよ」

 平らな胸の小さな突起も丈が触れるとピンと上を向いて立ち上がり、丈に摘まれれば固くなっていく。乳首を丈がじゅっと音が立つほど激しく吸ってくると、躰の奥が疼きだす。

 男なのに……こんなところで感じるなんてといつも不思議に思う。

 丈が好きだ。俺に優しく触れてくれる丈が好きだ。

「あっ……んっ」

 快楽の波が途端にやってきて、俺のものも苦しくなってくる。気が付くとズボンも下着ごと降ろされ、シャツも大きく開かれ、ほとんど裸の状態でベッドで

丈にしがみつき、腰を揺らしている。

「丈っ……もっときつく……」
「洋、もう何処にもいくな」
「どうして? ずっと此処にいるのに……今日の丈は少し変だよ。俺いつも傍にいただろう?」
「洋……不安だ。何があった?」
「えっ! 一体何を言う?」

 何故か泣きそうな顔で、丈が俺の頬を撫でる。

「どうした? 俺はちゃんといるから大丈夫だ」

 丈の指が俺に入り込み一定のリズムで動かされると、俺の腰もゆらゆらと勝手に揺れ出してしまう。もう指だけじゃ物足りなくなって、早く挿れて欲しくて堪らなくなる。

「丈……焦らさないで……俺」
「洋は何をして欲しい?言ってみろ」
「えっ……言えない……」

 自分から誘うなんて恥ずかしいのに。今日に限って丈が焦らして焦らしてなかなか挿れてくれない。

「洋……今日は聴きたい。洋が誘う声を」
「丈、お前って奴は……」
「なっ今日だけだから」
「……」

 いつもの丈らしくない甘え方に不安になる。でも丈になら何でもしてあげたい。そして何でもして欲しい。だから俺は意を決して脚を震えながら左右に控えめに開き、丈を誘う。

「丈……いいよ。来て……ここに……」

 覆い被さって来る丈の熱いものがズンっと入り込んでくる。丈のもので俺の中が満ちていく。一瞬きつい圧迫感を感じるが、すぐに満たされている温かい気持ちになっていく。

「くっ」

 奥へ奥へ突き上げられる。躰が優しく揺さぶれるたびに、俺の喉から甘い声が漏れていく。

「あっ……んっ……あっ」
「洋よかった。戻ってきてくれて」
「丈が……丈が好きだ。丈だけしか知らなかった……なのに……」

 なのに?

 その言葉を呟いた途端、何故か悲しみが堪え切れずに涙が頬を伝い、零れ落ちた。

 その涙はきらりと光り、俺の胸の月輪のネックレスをすり抜けていく。

 いつかみた光景だ。

 俺の月輪のネックレスは何故か欠けていた。

***

「はっ…」

 夢だとは分かっていた。

「夢だったのか」

 丈に抱かれる夢を見ていることは、夢の中の俺も気づいていた。それでも夜中に目覚めた俺は、本当に躰だけは丈のもとに行っていたのではないかと思うほど、興奮し熱く火照てり幸せで満たされた気持ちになっていた。

 月輪のネックレス。お前が俺を丈のもとへと誘ってくれたのか。夢でいいから会いたいと願ったからなのか。

 丈……

 もうあんな風に抱かれることはないと分かっていても、丈にあんな風に抱かれる夢を見ることが出来て、嬉しい気持ちの方が勝るよ。諦められない……溢れる想いを持て余している。

 今、俺はただ……ただ、丈が恋しい。

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