重なる月

志生帆 海

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第3章

君の声 5

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放課後、教室で一人パパの迎えの時間まで待つ。

午後の授業も真面目に受けたが、全く解らなかった私はかなり焦っていた。
なにも解らない。
何が解らないのかも解らない。

 ・・・・・・とりあえず、教科書だ。
教科書には全ての正解が詰まってると聞いたことがある。
教科書のみでいい大学に入ったと語る青年をテレビで見たこともある。

そんなことを思いだしつつ教科書を開き、
今日の授業の内容のページを読んでみる。
解らない。
前のページを読んでみる。
解らなかった。
折り皺ひとつない教科書のページを遡っても遡っても、なにひとつ解らなかった。

ダメだこりゃ。
一年まで、いや、中学まで遡らないと無理じゃない?

はぁぁぁと深いため息をついて、現実逃避するかように窓の外を見つめた。

校庭のあちこちに植えてある、せんだんや銀杏の葉が青々と光り、その生命力の眩しさに目がくらみそうだ。
目をそらすことすら許されないほどの眩しさ。
こんなに健全で、明るい光景を眺めたのはいつぶりだろう。

ふいに泣きたくなった。

グラウンドでは野球部の子達が大きな掛け声でランニングをしている。
隣のコートに目を移すとテニス部の子達がラケットを振っていた。

私は一体何をしていたんだろう。

みんな普段はチャラチャラと遊んでいるように見えて、ちゃんと青春を謳歌している。
お洒落や恋愛、部活に勉強。
三宅冬馬も、誰に何を言われても全くぶれることなく、自分という人間を貫いている。
みんな頑張ってる。

教科書に目を戻すと、辛い現実が突き刺さった。
ダメだ。これは、泣く・・・・・・

カタン、と音がして人の気配にあわてて顔を上げると三宅冬馬がそこにいた。

みみみ三宅冬馬! 
何でここに三宅冬馬がいるの?!
放課後はいつも一人、図書室で勉強してるはずでしょ!
涙も引っ込んだわ!
というはずもなくポロっと落ちてしまった。

あわわ、メイクが溶ける。
かぎりなくすっぴんに見せているとはいえ、アイラインはしっかり引いている。
黒い涙なんか好きな人にみせる訳にはいかない!
あわててハンカチで抑えた。

「なにか、あったのか?」
三宅冬馬が聞いてきた。

入学式で新入生代表の挨拶をする三宅冬馬の姿に一目惚れしてから卒業まで、いや今の時点では二年とちょっと、私と三宅冬馬は一度も会話をしたことがない。

「あ、えと、べ、別に何でも・・・・・・」

今、初めての会話。

何でもないよ。と言いかけて、あわてて
「何でも・・・・・・ない、こともなくて・・・・・・」
と頭の悪いことを口走る。

だって、せっかくの初めての会話だもん。
ちょっとでも長く続けたいじゃない。

勇気を出すんだ、頑張れ私。


──────────
15~俺が、恋?
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