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第3章
君の声 3
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昼休みになったら、洋の部署へ行ってみよう。だが親父さんがまだいたら、気まずいな。洋にメールをしたくても何故か電話もメールも届かなくなってしまっていた。何故だ? それは何を意味するのか。本当にこの二日間であまりにいろいろなことがあり過ぎて、まだ心が整理出来ていない。
昼休みのチャイムが鳴った途端、声を掛けられた。
「張矢センセ、少しいい?」
振り返ると私の助手をしている日野 暁香が立っていた。
「何だ?」
「午後は急遽会議で外出になったわよ」
「えっそんな予定入っていたか」
「さっき本部長が来て言っていたわよ。それから明日から研究課題があるので、あなたはしばらく自宅勤務だそうよ。医務室のことはお気になさらず。代わりの先生を手配済みですって」
「何だ? 急に……そんな話は聞いていないぞ」
「ふぅん……あなた何か仕出かした?まさか下手な女に手を出したとか」
暁香はクスっと不敵な笑みを浮かべ去って行った。
洋に会えないようにするつもりか。でも一体誰が。まさか洋の親父さんがそこまで?やはり私との関係がバレて怒っているのか、それならますます洋に会わないと。
「フフっ、いずれにせよ午後は丈と一緒に出掛けられるのね。本部長が外であなたとランチしてから行くようにってランチチケットもくれたのよ。さっ早く行きましょう!」
「おっおい」
半ば引きずられるように暁香に連れて行かれる。昼休みになったら洋に会いに行こうと思っていたのに。
****
それとなく医務室に行ってみよう。昼休みなら目立たないだろう。そう思うと胸が小さく高鳴った。こんなに汚れた躰になってしまっても、こんな境遇になっても……まだ丈に会いたい。その気持ちだけは変わらない。不思議なものだな。俺と丈の繋がりは、こんなことで途絶えないような気がするのは。
昼休みのチャイムが鳴った途端に俺は部署を飛び出し、丈がいる医務室へ向かうために上りのエスカレーターに乗った。会いたいよ。少しでいいから……
「あっ……丈だ」
ちょうど上りと下りのエスカレーターが交差する場所で丈とすれ違ったので声を掛けようと思ったが、喉からは声が少しも出なかった。
だって……丈は部署のあの女性と一緒だったから。彼女はあの雨の日に、車の中で丈とキスしていた美しい人だ。
ズキンっ──
心臓がギュッと掴まれたように痛む。何故このタイミングでこんな風にすれ違うのか。それはまるで俺と丈の行く末を暗示しているようだ。それでもすぐに引き返そうと思って駆け出そうとしたとき、後ろから肩を叩かれた。
「崔加くん、随分と急いで何処へ行くのかね?」
本部長が立っていた。
「あっ……」
「君のお父上から頼まれたんだよ。勝手な行動をしないようにとね。まぁ賢い君のことだ。言ってる意味分かるよね?」
「……」
エスカレーターで
丈は下へ……
俺は上へ……
近いようで遠い。
丈との距離がどんどん離れていってしまう。
このままじゃ駄目だ。心が握りつぶされそうになる。
俺は俯き握りしめた手に力を込めて、つらい気持ちをぐっと呑み込んだ。
諦めない。
負けない。
そう思っていた気持ちが、グラグラと足元から崩れ落ちていくのを感じた。
昼休みのチャイムが鳴った途端、声を掛けられた。
「張矢センセ、少しいい?」
振り返ると私の助手をしている日野 暁香が立っていた。
「何だ?」
「午後は急遽会議で外出になったわよ」
「えっそんな予定入っていたか」
「さっき本部長が来て言っていたわよ。それから明日から研究課題があるので、あなたはしばらく自宅勤務だそうよ。医務室のことはお気になさらず。代わりの先生を手配済みですって」
「何だ? 急に……そんな話は聞いていないぞ」
「ふぅん……あなた何か仕出かした?まさか下手な女に手を出したとか」
暁香はクスっと不敵な笑みを浮かべ去って行った。
洋に会えないようにするつもりか。でも一体誰が。まさか洋の親父さんがそこまで?やはり私との関係がバレて怒っているのか、それならますます洋に会わないと。
「フフっ、いずれにせよ午後は丈と一緒に出掛けられるのね。本部長が外であなたとランチしてから行くようにってランチチケットもくれたのよ。さっ早く行きましょう!」
「おっおい」
半ば引きずられるように暁香に連れて行かれる。昼休みになったら洋に会いに行こうと思っていたのに。
****
それとなく医務室に行ってみよう。昼休みなら目立たないだろう。そう思うと胸が小さく高鳴った。こんなに汚れた躰になってしまっても、こんな境遇になっても……まだ丈に会いたい。その気持ちだけは変わらない。不思議なものだな。俺と丈の繋がりは、こんなことで途絶えないような気がするのは。
昼休みのチャイムが鳴った途端に俺は部署を飛び出し、丈がいる医務室へ向かうために上りのエスカレーターに乗った。会いたいよ。少しでいいから……
「あっ……丈だ」
ちょうど上りと下りのエスカレーターが交差する場所で丈とすれ違ったので声を掛けようと思ったが、喉からは声が少しも出なかった。
だって……丈は部署のあの女性と一緒だったから。彼女はあの雨の日に、車の中で丈とキスしていた美しい人だ。
ズキンっ──
心臓がギュッと掴まれたように痛む。何故このタイミングでこんな風にすれ違うのか。それはまるで俺と丈の行く末を暗示しているようだ。それでもすぐに引き返そうと思って駆け出そうとしたとき、後ろから肩を叩かれた。
「崔加くん、随分と急いで何処へ行くのかね?」
本部長が立っていた。
「あっ……」
「君のお父上から頼まれたんだよ。勝手な行動をしないようにとね。まぁ賢い君のことだ。言ってる意味分かるよね?」
「……」
エスカレーターで
丈は下へ……
俺は上へ……
近いようで遠い。
丈との距離がどんどん離れていってしまう。
このままじゃ駄目だ。心が握りつぶされそうになる。
俺は俯き握りしめた手に力を込めて、つらい気持ちをぐっと呑み込んだ。
諦めない。
負けない。
そう思っていた気持ちが、グラグラと足元から崩れ落ちていくのを感じた。
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