重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
99 / 1,657
第3章

道は閉ざされた 5

しおりを挟む
「洋、お帰り」

 期待に満ちて玄関のドアを開ける。だが、その期待は一瞬にして冷めていった。何故ならそこには洋の親父さんが立っていたから。

「あっすいません間違えて」
「随分仲が良いんだね、息子と」
「ええまぁ……それは一応、同居人ですから」
「洋は来ないよ」
「えっ?」

 後ろには引っ越し屋の制服を着た作業員が2人立っていた。

「洋の部屋はどこかね?上がらせてもらうよ」

 有無を言わせない威圧的な態度で、ずかずかとテラスハウスに足を踏み入れてくる。この人は本当に洋の親父さんなのかと疑問すら抱く高圧的な態度に驚いた。

「ここですが……」
「洋はここから引っ越させるので、あの子の荷物は引き取らせてもらう」
「えっ……何故ですか?」
「全く、あの子も帰国して部屋が空いていなかったのなら、すぐに私に連絡すればよいものを。もう……きちんとした部屋を借りたので、君は口出ししなくて良い」

 つまり、もうこれ以上親子の話に口を挟むなと圧力をかけているのだ。

「あの、洋はどこに?」
「あぁ洋はまだ寝てるよ。酷く疲れていたようだからホテルに置いて来た」
「洋はそれでいいと言ってるのですか」
「はぁ?当たり前じゃなないか。窮屈なシェアハウスよりも一人で過ごす方があの子は好きだからな」
「そんな……」

「さっ早く荷物を梱包してくれ、急ぐから」

 それ以上は私と話す気はないらしく、引っ越し屋に指図して、あっという間に洋の荷物を箱に詰め、共に去って行ってしまった。

 一体どうなっているのだ。これはどういうことなのか。

 急に穴が開いたように洋の存在だけが消えたシェアハウス。あまりに急な展開で、頭が追い付かない。

 洋に電話しなくては。

 震える手でかけるが、電話の契約も変更されていた。どうしてこんなに急に。
昨日までの温泉旅行で私に身をゆだねて幸せそうな顔をしていた洋なのに。

 一体何があった?

 洋の父親は何者だ。
 洋は今どこにいるのか。
 洋がこれを望んでいるのか、本当に?

 私は何一つ探す術を持ち合わせていないことに気が付いて唖然とした。

 会社……会社はやめないよな?
 夏休みが終わるまであと二日。
 二日後には会社でちゃんと会えるよな?

 その時、ちゃんと理由を聞かせてもらえるよな?

 いつも淡々と日々の仕事をこなし、感情の起伏もなく過ごしていた私だが、洋のこととなると、こんなにも感情が脆く、焦り、動揺している。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

処理中です...