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第3章
道は閉ざされた 4
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洋……随分遅いな。今日はもう帰って来ないつもりなのか。親父さんと一緒に過ごすのだろうか。それにしても連絡ぐらい寄越せばいいのに。
楽しかった二人きりの温泉旅行から帰ってくるなり、いきなりの訪問者。それが洋の親父さんでは、何も出来なかった。やましいのは私だ。
洋と親父さんの関係については良く分からない。いつも不在がちだったとしか聞いてないしな。温泉に行く前に、そういえば電話で揉めていたな。
洋の躰の隅々まで知ることは出来ても、まだまだ知らないことが多すぎる。
洋は何故父親を煙たがっているのか。そもそもどうやって今まで生きてきたのか。心の奥底まで見えてはいないことを痛感した。
温泉から帰ってくるなり消えてしまった洋の姿がいつまでも見えないと不安になってくる。まさか私達の関係がばれて怒られているとか。いや、そんなにすぐにわかるはずはないか。きっと久しぶりに会ったから親子水入らずで楽しい時を過ごしているのだろう。
不安な心を静めるように、良いことを考えるように努めながら眠りに落ちた。昨日までは、洋を抱いて眠っていたのに、一人で寝るのは夏なのに寒いものだ。
洋を愛して抱いて、その温もりが当たり前のことのように思ってしまっていたが、今日は隙間風が吹くように寒い。洋も今頃そう思っているのだろうか。
****
夢を見る
昔の私の夢を……
私の胸に顔を埋め泣きじゃくる洋にそっくりの彼が、何かを必死に告白している。
洋よりも引き締まった躰だ。
よく鍛えられているな。
手には剣を持ち、武将のような姿をしている。
そんな強そうな外見と裏腹に、儚げな洋のように何故か私の胸に顔を埋め激しく泣いている。
彼の涙が、痛いほど私に突き刺さる。
一体どうした?
何故そんなに泣く?
****
目覚めると朝だった。洋にそっくりな彼の悲し気な涙で、心までぐっしょりと濡れたような気分だ。
「……帰っているのか」
洋の部屋を覗くが、ベッドは冷たいままだった。スマホを確認するが、なんの連絡も入っていない。こんなことは珍しいな。いくら親父さんと会ったからといっても、連絡くらい出来るだろう。
洋、今どこにいる……いつ帰る?
さすがに私から連絡してみようとスマホを握りしめた途端、玄関のチャイムが鳴った。
「洋か」
そう思うと、ほっとした。
楽しかった二人きりの温泉旅行から帰ってくるなり、いきなりの訪問者。それが洋の親父さんでは、何も出来なかった。やましいのは私だ。
洋と親父さんの関係については良く分からない。いつも不在がちだったとしか聞いてないしな。温泉に行く前に、そういえば電話で揉めていたな。
洋の躰の隅々まで知ることは出来ても、まだまだ知らないことが多すぎる。
洋は何故父親を煙たがっているのか。そもそもどうやって今まで生きてきたのか。心の奥底まで見えてはいないことを痛感した。
温泉から帰ってくるなり消えてしまった洋の姿がいつまでも見えないと不安になってくる。まさか私達の関係がばれて怒られているとか。いや、そんなにすぐにわかるはずはないか。きっと久しぶりに会ったから親子水入らずで楽しい時を過ごしているのだろう。
不安な心を静めるように、良いことを考えるように努めながら眠りに落ちた。昨日までは、洋を抱いて眠っていたのに、一人で寝るのは夏なのに寒いものだ。
洋を愛して抱いて、その温もりが当たり前のことのように思ってしまっていたが、今日は隙間風が吹くように寒い。洋も今頃そう思っているのだろうか。
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夢を見る
昔の私の夢を……
私の胸に顔を埋め泣きじゃくる洋にそっくりの彼が、何かを必死に告白している。
洋よりも引き締まった躰だ。
よく鍛えられているな。
手には剣を持ち、武将のような姿をしている。
そんな強そうな外見と裏腹に、儚げな洋のように何故か私の胸に顔を埋め激しく泣いている。
彼の涙が、痛いほど私に突き刺さる。
一体どうした?
何故そんなに泣く?
****
目覚めると朝だった。洋にそっくりな彼の悲し気な涙で、心までぐっしょりと濡れたような気分だ。
「……帰っているのか」
洋の部屋を覗くが、ベッドは冷たいままだった。スマホを確認するが、なんの連絡も入っていない。こんなことは珍しいな。いくら親父さんと会ったからといっても、連絡くらい出来るだろう。
洋、今どこにいる……いつ帰る?
さすがに私から連絡してみようとスマホを握りしめた途端、玄関のチャイムが鳴った。
「洋か」
そう思うと、ほっとした。
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