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第3章
星降る宿 9
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「洋、まだ寝ては駄目だ」
部屋に戻った途端、心地よい疲労感に襲われて畳の上でウトウトしだした。
「う……ん、少しだけ。あんなに泳いだのは久しぶりで疲れたよ」
「全くしょうがないな。少し寝ろ」
丈の声が遠くから聞こえてくる。
まどろみながら、俺は夢を見る。
いつもの恐ろしい夢じゃない、悲しい夢でもない。
さっきプールで見たオレンジ色の暖かい光で包まれた幸せな夢だ。
この前会ったあいつが幸せそうに座って、屋敷の窓際に座って夕日を眺めている。
あんな悲しい眼じゃなくて、穏やかな優しい眼をしている。そしてその後ろには丈にそっくりな人が壁にもたれて、こちらを見ている。
あいつはその相手に微笑む。そうすると丈にそっくりな人も優しく微笑み返してくれた。
二人の間に言葉はなくても、信頼しあっているのが伝わるよ。
あぁ、穏やかな二人の時間なのか。
君達は、今幸せそうだ。
良かった……そういう時間も持てたのか。
****
「洋、もういい加減に起きないと」
肩を揺すられて目が覚める。
「んっ……あっ、今何時?」
「夕食の時間だ。ほら部屋食だから起きて食べろ」
「えっ!もうそんな時間」
慌てて目をパチパチさせると、部屋の和室にずらりとご馳走が並んでいた。
「わぁ!ふふっ……どこかの国の王子の気分だ」
「洋っ、馬鹿言ってないで早く食べろ」
「ごめんな。寝ちゃって……丈は何してた?」
「ふっ……洋を見ていたよ」
俺はこの丈の穏やかな静かな眼差しが好きだ。でもそんなこと素直に言えなくて、つい悪態をついてしまう。
「はっ?よっぽど暇なんだな」
「くくっそれは嘘だよ。仕事のメールが入っていてな」
「忙しいのに大丈夫なのか。その……こんなところで俺といてもいいのか」
「もちろんだ。私がそうしたいんだ。さぁ早く食べないと。この後、展望風呂に行こう」
「そうだ、星が綺麗に見えるのか」
「洋は星が好きなのか」
「うん……ひとりでよく見上げていたから」
「月も星も好きなんて、洋はずいぶんとromanticな男だな」
「なっ馬鹿にするなよ!」
食事をしながらたわいもない話をした。
こんな風に旅先で誰かと向かい合い会話をしながら食事をするのは、久しぶり過ぎて落ち着かないな。
母が亡くなった後、ほとんどひとりで食べていたから……父は毎日遅かったし、あまり会いたくなかった。二人になるのは気まずかった。何故って……血がつながっていないからだ。本当の父は俺が小学生の時に亡くなっていて、再婚相手だった。
このことは、まだ丈に話せていない。
血のつながった母を失い、血のつながらない他人の父と暮らすのは非常に気まずかった。
なんで母は再婚したのか。あの人の俺を見る視線が怖くなってきたのは、アメリカに行ってから。俺の向こうに亡くなった母を見るような、身震いがするような視線を感じた。
だが……そんな父と二人で渡米したのは俺の意志だった。日本に残ることもできたのに俺が選んだ道だった。日本での事件が苦しくて、アメリカに誘われるままについて行った。
「どうした、ぼんやりして」
「んっ……いや、なんでもない。そろそろ星を見に行こうか」
駄目だ。今は父のことは忘れよう。
せっかくの丈とゆっくり過ごせる、二人きりの大切な時間だから。
部屋に戻った途端、心地よい疲労感に襲われて畳の上でウトウトしだした。
「う……ん、少しだけ。あんなに泳いだのは久しぶりで疲れたよ」
「全くしょうがないな。少し寝ろ」
丈の声が遠くから聞こえてくる。
まどろみながら、俺は夢を見る。
いつもの恐ろしい夢じゃない、悲しい夢でもない。
さっきプールで見たオレンジ色の暖かい光で包まれた幸せな夢だ。
この前会ったあいつが幸せそうに座って、屋敷の窓際に座って夕日を眺めている。
あんな悲しい眼じゃなくて、穏やかな優しい眼をしている。そしてその後ろには丈にそっくりな人が壁にもたれて、こちらを見ている。
あいつはその相手に微笑む。そうすると丈にそっくりな人も優しく微笑み返してくれた。
二人の間に言葉はなくても、信頼しあっているのが伝わるよ。
あぁ、穏やかな二人の時間なのか。
君達は、今幸せそうだ。
良かった……そういう時間も持てたのか。
****
「洋、もういい加減に起きないと」
肩を揺すられて目が覚める。
「んっ……あっ、今何時?」
「夕食の時間だ。ほら部屋食だから起きて食べろ」
「えっ!もうそんな時間」
慌てて目をパチパチさせると、部屋の和室にずらりとご馳走が並んでいた。
「わぁ!ふふっ……どこかの国の王子の気分だ」
「洋っ、馬鹿言ってないで早く食べろ」
「ごめんな。寝ちゃって……丈は何してた?」
「ふっ……洋を見ていたよ」
俺はこの丈の穏やかな静かな眼差しが好きだ。でもそんなこと素直に言えなくて、つい悪態をついてしまう。
「はっ?よっぽど暇なんだな」
「くくっそれは嘘だよ。仕事のメールが入っていてな」
「忙しいのに大丈夫なのか。その……こんなところで俺といてもいいのか」
「もちろんだ。私がそうしたいんだ。さぁ早く食べないと。この後、展望風呂に行こう」
「そうだ、星が綺麗に見えるのか」
「洋は星が好きなのか」
「うん……ひとりでよく見上げていたから」
「月も星も好きなんて、洋はずいぶんとromanticな男だな」
「なっ馬鹿にするなよ!」
食事をしながらたわいもない話をした。
こんな風に旅先で誰かと向かい合い会話をしながら食事をするのは、久しぶり過ぎて落ち着かないな。
母が亡くなった後、ほとんどひとりで食べていたから……父は毎日遅かったし、あまり会いたくなかった。二人になるのは気まずかった。何故って……血がつながっていないからだ。本当の父は俺が小学生の時に亡くなっていて、再婚相手だった。
このことは、まだ丈に話せていない。
血のつながった母を失い、血のつながらない他人の父と暮らすのは非常に気まずかった。
なんで母は再婚したのか。あの人の俺を見る視線が怖くなってきたのは、アメリカに行ってから。俺の向こうに亡くなった母を見るような、身震いがするような視線を感じた。
だが……そんな父と二人で渡米したのは俺の意志だった。日本に残ることもできたのに俺が選んだ道だった。日本での事件が苦しくて、アメリカに誘われるままについて行った。
「どうした、ぼんやりして」
「んっ……いや、なんでもない。そろそろ星を見に行こうか」
駄目だ。今は父のことは忘れよう。
せっかくの丈とゆっくり過ごせる、二人きりの大切な時間だから。
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