重なる月

志生帆 海

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第3章

星降る宿 2

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 恐る恐る電話に出た。緊張で手が震える。

「父さん?どうしたの?」
「洋か」
「……はい」
「日本での生活はどうだ?慣れたか」
「はい」
「どうして連絡をしない?それから今日から夏休みなのに何故帰国しない?」
「……すいません」

「まだ飛行機のチケット取れるだろう、すぐに帰って来なさい」
「えっそれは無理です」

「夏休みだ、約束通り戻って来なさい」
「無理だ。そんな急に……」

「洋……お前は約束を破る気か」
「今年は帰国したばかりだし、次の長期休暇には必ず一度戻るから、だから夏休みは無理だから。もう予定入れてしまったし……ごめんなさい。電話切ります」

「洋!」

 電話を切っても、心臓の鼓動と冷や汗は収まらない。父さんは確実に怒っていた。



****

 通話する洋の顔がみるみる青ざめてくるのを不審に思ってしまった。なんで父親と話すのに、そんなに怯える必要があるのだろう。不思議に思っていると、洋は話の途中で無理矢理、電話を切ってしまった。

 おいおい物騒な。一体どうした?

「もしかして親父さんと上手くいってないのか」
「いや……そんなことないよ」

 途端に暗い影を落とす洋が心配になる。

「何かあるのか」
「いや、なんでもない。夏休みに帰って来いって言われて……それで」

 そわそわとする洋に何か隠している素振りが見え隠れするが、それ以上のことを聞くのは酷な気がして、やめてしまった。


「丈、それで何時ごろ出かける?早く出かけよう!ここには居たくない」
「あぁわかった。朝ごはん食べたら車で行こう」
「うん、そうして」

 何故か逃げるように出かけたがる洋に違和感を覚えるが、いつもの温泉宿に行くのは私も楽しみだったので、その時はそれ程気にしなかった。

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