重なる月

志生帆 海

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第2章

月輪の約束 13

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  丈は俺の首に月輪のネックレスを掛け、それから自分の胸にもつけて穏やかに微笑んだ。

「遠い昔にも……こんなことを?」

 そう丈に聞かれて朧げな記憶を辿ると、月輪のネックレスはいつも胸元に揺れ、抱かれる時も外さなかったような気がして、俺は小さく頷いた。

「……そうかも知れない」

「洋……このまま抱いていいか」

 向かい合っていた俺達が更にきつく抱き合うと、月輪が重なった。

 カラン──

 それは透き通る音を奏でた。今から共に抱いて抱かれる合図のように、厳かに響いた。

 丈の手が俺のシャツに伸びてきて、ボタンをひとつ、また一つと外していく。徐々にはだけていく……俺の肩が少し見え始めると丈は首筋に顔を埋め、鎖骨から肩のラインに沿って唇を這わせ、時に吸い、時に舐め、俺にお前の痕を残していく。さらに胸元へと下がり赤く熱を持った俺の小さな突起を口に含んで、甘噛みしてくる。

「はうっ……!」

 ゾクゾクと駆け巡る心地良さに身震いする。突起を指で押し潰すように触られ摘まれ……撫でられると、痛い程の快楽が下半身へつながっていくのを感じた。

「あっ……んっ……そこは駄目だ」

 更にボタンをまたひとつ外し、その間から手が優しく滑りこみ、シャツをすべて脱がされると、丈の温かい肌と俺の肌が密接に磁石のようにくっつき合った。

 丈の温もりが直に届き、冷えた躰はどんどん熱を持っていく。

「んあっ! あっ……」

 あの男もこうやって愛する人に抱かれていたのか。

「洋の躰は……綺麗で穢れていない」

 丈がいつも言ってくれるその言葉が俺を包み込んでいくと、今日は悲しくて涙が込み上げてくる。
 何故だろう。遠い昔の俺はそうではなかった気がするのは。
 俺が必死に守ってきた貞操。

 何が何でも守りたかったのは何故なのか。そんなにしてまで守りたかったものを、丈には無条件に差し出せた。
 丈のために守ってきたのかもしれない。

 これはもしかしたら……遠い昔の俺の切なる願いなのか。

「どうした?」
「……何でもない」

 もうこれ以上のことは思い出さない方がいい。あまり良くない事が潜んでいるような不安を感じるから。
 丈の律動と共に揺れ動くのは、胸元の月輪のネックレス。俺のものと重なり、優しい音楽を奏でている。

 遠い昔の俺と今の俺。
 二人の想いもしっかりと重なっていくようだ。

 今この瞬間に、遥か彼方からの月輪の約束が叶ったのだ。
 まだ分からないこと、不思議なことばかりだが……

 今はこれでいい。
 このままでいい。

 丈と一つになれるこの瞬間が、最高に幸せだから。

第2章 月輪の約束・完

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