重なる月

志生帆 海

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第2章

月輪の約束 11

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「丈!その手に持っている物……どこで手に入れた?どうして、それを……」

 丈は急に興奮した口調で話す俺のことを、不思議そうに見つめた。

「洋?一体どうした?何故そんなに驚いている?」

「だって……それは」

「あぁこの指輪か。昨日故宮を見学した後、近くで開かれていた骨董市で偶然見つけたものだよ」

「骨董市?」

「実はこれはペアリングでな」

「どうしてこれを選んだ?」

「ふっ……昨日不思議なことがあったと話しただろ?その一つさ」

「どんなことだった?」

 あまりに驚いて思考がパンクしそうだが、確かめないといけない。これは大事なことだから。

「まずさっき洋が倒れてしまったあの武将の墓の前で妙な胸騒ぎがして、その後骨董市で、吸い付けられるようにこの指輪を手に取ったのだ」

「吸い付けられるように?」

「そうだ。何故だか無性に懐かしいような、変な話だが遠い昔、私がこれを買い求めたような気がして。ははっ馬鹿だろ。それでつい購入してしまったのさ」

「そうだったのか」

「実はペアリングだから洋と分かち合えたらと思ったのだが、もしかしてそういうのは嫌か」

 そうか……丈がこの指輪を買ってくれたのか。あの男が胸元から下げていた指輪、涙がすり抜けたあの指輪を。

 あいつが探していた相手の胸元にも、同じ指輪がきっと揺れていたのだろう。

「嫌なはずがない……うっ……う」

 

 俺は眼から涙を溢れさせ、嗚咽をあげ咽び泣いた。

 これは自分の感情でない。夢のあの男の感情が乗り移ったのではと思える程、次から次へと涙が込み上げ溢れだした。

 大粒の涙をぽろぽろと零し泣き崩れた。

 止められない。自分で制御できないような……また出逢えた嬉しさの感情の渦に巻きこまれていく。

「どうした?何故そんなに泣く?まだ具合が悪いのか。念のため病院へ行くか。私が診察したところ特に異常はなく貧血だったようだが」

 心配そうに覗き込む丈の顔を見ると、もう我慢できなくてガバッと抱き付いた。

「おっおい!洋!」

 そして丈の頭を後ろから抑え、口づけをした。俺の方から熱い熱い口づけを何度も何度も角度を変えて求めた。

 それは長く熱いキスだった。はぁはぁと息を切らせながら、丈に話す。

「丈……君は、俺が……あいつが探していた人だった……間違いないよ」

「えっ?」

 そのまま丈を自分が寝ていたベッドへ押し倒す。

「一体どういう事だ?」

 状況が掴めない丈が不思議そうに尋ねるが、説明のしようがないよ!こんなこと。でもあの夢の男は確かに昔の俺で、あいつはずっと探していたんだ。

 時代を超えて探していた!

 丈……君のことを!

 丈の暖かい胸に、俺は思いっきり飛び込んだ。
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