重なる月

志生帆 海

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第2章

月輪の約束 9

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「洋こっちだ」

 あれからベッドで深く抱き合い余韻に浸っていたのに、ずいぶん早い時間に起こされ、引きずられるように連れて来られた。

 一体ここはどこだ?

 石畳が敷き詰めらた広大な敷地に、いくつもの墓が点在している。

「どこへ行くつもりだ?」
「ここは、この国の歴代の王と王妃の位牌を祀った墓だ。つまり昔の王宮があった場所だ」

「そうか。でも何故こんなに朝早くから?」
「洋にどうしても見せたいものがあるんだ」

 王の墓らしい立派な陵が幾つも並んでいる。そして石碑には一つ一つ数字と王の名前らしきものが刻まれていた。異国の文字は読めないが、この王朝がずいぶんと長く続いていたことが分かる。

「なんだ?ここの空気は重いな……」

 こういう所は普段近寄らないので、どんどん足取りが重くなっていく。一体、丈はなんで朝っぱらからこんな所に散歩を?

 少し前を歩いていた丈が振り返って手招きした。

 その表情は深刻そうに見える。
 一体どうしたんだよ。

「洋、こっちへ……ここなんだ」
「誰の墓?」

「字が読めないが、恐らく王を護った功臣の墓だと思う。ここに石碑があるのだが、洋は読めないよな?」

  石碑にはこの国の独特な文字が書かれている。あいにく俺たちはこの国の独特な文字が全く読めない。所々に使われている漢字で、王の功臣だったであろう武将の墓ということが分かる程度だ。

「この文字はこの武将の名前なのか。何て書いてあるのか」

 石碑に切り刻まれた二つの文字。その深く掘られた溝に手をあてて指でなぞってみる。

 その途端……いきなりぶわっと俺の躰に電流が走り抜けた!

「あっ!」

ビクッビクビクッ

 躰から魂だけが抜け、そのまま一気に時代というものをすり抜けたような感覚に陥った。

「洋!洋どうしたんだ!おい!」

 遠くから丈が必死に呼ぶ声が聞こえたが、俺は過去に吸い込まれるように意識を遥か彼方へ飛ばされてしまった。丈の手を取ることが出来ず、そのまま地面に倒れこんだ。


****

 俺は気が付くと満開の藤棚の脇に立っていた。

 一人の男が藤棚の下で、力なく石壁にもたれている。男の周りでは、満開の藤の花が風と共にゆらゆらと揺れて儚げだ。

 あれは誰だ?

 目を凝らしてよく見る。

 えっ……俺?
 顔が似ている。

 でも歴史ドラマにでも出てきそうな見慣れぬ衣に鎧までつけているのは何故だ? 

 その男は俯いているので表情がよく見えないが、肩を小刻みに震わせていた。

 泣いているのか。
 君はどうして泣いている?
 そんなにも悲しみ色に染まって……



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