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第2章
月輪の約束 6
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「洋、疲れただろう。明日は朝から連れて行きたい所があるからもう寝ろ」
「えっ……」
どうも丈の様子がさっきから変だ。空港で、異国では俺たちのことを知っている奴なんていない、そんな話をした辺りから。
「もしかして誰か知り合いでもいたのか。それで俺といるのが気まずかったのか。それなら俺は違うホテルへ行くよ」
俺は丈との関係が周りにバレるくらいなら、幾らでも隠し通す道を選べるよ。だから思い切って言ってほしい。
「違うんだ。知り合いに会ったわけじゃないんだが……」
「じゃあ誰に会ったんだよ?さっき不思議なことがあったって言ってたよな?それって何?」
なんともいつもの丈らしくない。こんな中途半端な言い方をするなんて。
「そうだ、明日そこに一緒に行ってみよう。すまないな」
****
昼間の故宮に一人紛れた武将の墓と骨董市で見つけたネックレス。この二つが一体どう結びつくのか、まだ分からない。
だが嫌な胸騒ぎがして仕方がない。せっかく洋が来てくれたのに、このモヤモヤした気持ちが邪魔してしまう。一体、私としたことがどうしたのか。とにかく明日、洋と一緒にあの場所へ行ってみよう。ネックレスの話はそれからだ。心配そうな顔で洋が近づいてくる。少し首を傾け、そっと様子を伺う仕草が愛おしい。
「丈、大丈夫か。顔色が悪いな、何か心配ごとがあるのか。俺には相談できないこと?」
「いや……大丈夫だ。すまない」
「そうだ!いいものがある。ちょっと待って」
洋は優しい微笑みを浮かべながら、部屋に運び込んだスーツケースから何か取り出してきた。
「何を持ってきた?」
「これ……」
洋の手には少し錆びた銀の手鏡が握られていた。
「その鏡がどうした?」
「丈、笑わないで聞けよ。これ……実は母の形見の鏡だが、持っているだけで落ち着くんだよ。俺はいつも具合が悪い時や嫌なことを思い出しそうになる時、この鏡を覗き込むんだ。そうするとすっと頭がクリアになっていくから」
「ふっ……医師にそんな迷信を?」
「なっ!笑うことないだろ!ほら見てみろよ!」
ソファに腰かけてる私のもとに洋が鏡を持ってやってくる。疲れているだの散々言ったくせに、いざ洋が近くまで来ると、いつもの洋の優しい花のような香りが鼻をかすめ、下半身が元気になってしまう自分に苦笑した。
「参ったな」
「ん?何が?」
「いや、ここに座って一緒に見よう」
「う……うん」
私の脚の間に洋を座らせると、ほっそりとした首元の綺麗なうなじを後ろから見下ろす感じになり、ゾクゾクしてくる。柔らかな黒髪を少し掻き分けて、その首元にちゅっとリップ音を立ててキスをする。
「なっ!」
途端に洋の首が赤く染まり、色っぽさが出てくる。
「洋……見せて」
「う……うん。何を見ようか。そうだあの浮かぶ月を映してみよう」
「月?」
「俺は月明かりが大好きだ。心が落ち着く……」
見上げるとホテルの客室の大きなガラス窓から、厳かな満月が見えていた。
高層階の窓から見上げた月は、地上で見るよりも遥かに大きく、まるで手に取れるように近く感じた。
****
本日UP分は、『悲しい月』の「春の虹 ~俺の部屋・俺の自由~」と重なる話になっています。
「えっ……」
どうも丈の様子がさっきから変だ。空港で、異国では俺たちのことを知っている奴なんていない、そんな話をした辺りから。
「もしかして誰か知り合いでもいたのか。それで俺といるのが気まずかったのか。それなら俺は違うホテルへ行くよ」
俺は丈との関係が周りにバレるくらいなら、幾らでも隠し通す道を選べるよ。だから思い切って言ってほしい。
「違うんだ。知り合いに会ったわけじゃないんだが……」
「じゃあ誰に会ったんだよ?さっき不思議なことがあったって言ってたよな?それって何?」
なんともいつもの丈らしくない。こんな中途半端な言い方をするなんて。
「そうだ、明日そこに一緒に行ってみよう。すまないな」
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昼間の故宮に一人紛れた武将の墓と骨董市で見つけたネックレス。この二つが一体どう結びつくのか、まだ分からない。
だが嫌な胸騒ぎがして仕方がない。せっかく洋が来てくれたのに、このモヤモヤした気持ちが邪魔してしまう。一体、私としたことがどうしたのか。とにかく明日、洋と一緒にあの場所へ行ってみよう。ネックレスの話はそれからだ。心配そうな顔で洋が近づいてくる。少し首を傾け、そっと様子を伺う仕草が愛おしい。
「丈、大丈夫か。顔色が悪いな、何か心配ごとがあるのか。俺には相談できないこと?」
「いや……大丈夫だ。すまない」
「そうだ!いいものがある。ちょっと待って」
洋は優しい微笑みを浮かべながら、部屋に運び込んだスーツケースから何か取り出してきた。
「何を持ってきた?」
「これ……」
洋の手には少し錆びた銀の手鏡が握られていた。
「その鏡がどうした?」
「丈、笑わないで聞けよ。これ……実は母の形見の鏡だが、持っているだけで落ち着くんだよ。俺はいつも具合が悪い時や嫌なことを思い出しそうになる時、この鏡を覗き込むんだ。そうするとすっと頭がクリアになっていくから」
「ふっ……医師にそんな迷信を?」
「なっ!笑うことないだろ!ほら見てみろよ!」
ソファに腰かけてる私のもとに洋が鏡を持ってやってくる。疲れているだの散々言ったくせに、いざ洋が近くまで来ると、いつもの洋の優しい花のような香りが鼻をかすめ、下半身が元気になってしまう自分に苦笑した。
「参ったな」
「ん?何が?」
「いや、ここに座って一緒に見よう」
「う……うん」
私の脚の間に洋を座らせると、ほっそりとした首元の綺麗なうなじを後ろから見下ろす感じになり、ゾクゾクしてくる。柔らかな黒髪を少し掻き分けて、その首元にちゅっとリップ音を立ててキスをする。
「なっ!」
途端に洋の首が赤く染まり、色っぽさが出てくる。
「洋……見せて」
「う……うん。何を見ようか。そうだあの浮かぶ月を映してみよう」
「月?」
「俺は月明かりが大好きだ。心が落ち着く……」
見上げるとホテルの客室の大きなガラス窓から、厳かな満月が見えていた。
高層階の窓から見上げた月は、地上で見るよりも遥かに大きく、まるで手に取れるように近く感じた。
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本日UP分は、『悲しい月』の「春の虹 ~俺の部屋・俺の自由~」と重なる話になっています。
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