重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
70 / 1,657
第2章

月輪の約束 4

しおりを挟む
 空港の到着ロビーで丈を、ずっと待っている。俺の前を一体何人の人が通り過ぎて行ったのだろう。

「Hey!Do you mind if I join you?」
「Would you like to have dinner together?」
「Do you want to have some coffee? There’s a cafe over there.」

 さっきから通りすがりの外人に、声を掛けられてばかりだ。しかも相変わらず同性ばかり。ニヤニヤとした視線に背筋が凍る。何で俺はこうも同性からいやらしい目で見られ、声を掛けられてしまうのか。そんなに寂しそうな誘って欲しい顔でもしているのかと思うと嫌になってくるし、恥ずかしい。

 そのうち通りすがりに躰をタッチしてくる奴まで出てきて不快な気分が増し、待ち合わせ場所にそのまま立っているのがままならず、場所を移動することにした。

 空港の屋上にある展望台にやって来た。

「ここは静かだ」

 人気のない夜の展望台に俺は今一人佇んでいる。

 俺の頭上の夜空には幾千もの夏の星が瞬いている。見上げる空はどこまでも高く澄んでいて、深呼吸するとイライラした心も少しは落ち着いてくる。だが綺麗な夜空も、丈が隣にいないのでは寂しいものだ。

 俺はまだ一人。
 空を見上げているだけで、昔と何も変わってない。

 次々と飛び立つ飛行機の灯りが流れ星のように、夜空の向こうへと消えていく。

 遠い昔、俺の傍から消えてしまった人を想い、来る日も来る日もこうやって空を見上げていた。遠い空の向こうにその人がいて、その人も俺のことを探している。そんなことがあるのかも、あったかも……そんな夢物語に想いを巡らせていると、背後からあの人の香りがふっと漂ってきた。

 その香りは徐々に俺に近づいて……そして俺の肩に触れた。

 もう振り返らなくても分かるよ。
 俺の知ってる大好きな優しい手だから。
 その手に俺の手を重ねる。

「洋、悪い。すまなかった。探したよ」
「遅いよ!」

素直に胸に飛び込みたかったが、つい拗ねてしまう。

「悪かった」
「俺がどれだけ待ったと思っている?」
「そうだな。ここにいるんじゃないかと思った」

「なんで分かった?」
「洋は人混みが苦手だろう」

「ん……」
「それにここは人がいないから、すぐに私にキスしてもらえるからだろう」
「なっ!そんなこと考えてない!」

「ふふっそうか。私はだからここに洋がいるんだと思ったのだが」
「丈はずるい奴だ!俺を待たせた上に揶揄って!」

 くるりと丈の方を向くと、その彫りの深い端正な顔が、すぐ近くにあってドキドキと胸が高鳴った。

「キスしていいか」

 息がかかる位近くで丈に囁かれるだけで、クラクラしてくる。

「でもここは外だし、人が見てるいるかも……」
「強情だな、そんなに寂しそうな眼をしている癖に」

 丈の影が俺と重なった途端に、腰をキュッと引き寄せられ、温かい口づけを浴びた。
 途端に大好きな温もりが伝わってきた。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

処理中です...