重なる月

志生帆 海

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第2章

月輪の約束 3

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 乳白色の指輪──



  
 手に取ってみると、それは吸い付くように肌に馴染み、柔らかい曲線を描き、しっとりとした月光のような控えめな輝きを放っていた。

 不思議なことに、どこか懐かしい輝きだ。これを私は以前何処かで見たことがあるような気がする。なんとも言えない懐かしさがこみ上げ押し黙っていると、店主に声をかけられた。

「お客さん、それ気に入ったのかい?」

「あっ……ああ」

「へへっ!そういえばこれ確かペアリングでしたぜ!」

「そうなのか」

「確かこっちの山にあったかな」

「見せてくれ」

 店主は山積になっている宝飾品を掻き分けて、探してくれた。ペアリングなんて、妙に心惹かれるものだ。洋に買ってやろうかと、最初は少し気楽に考えていた。

「ほら!ありましたぜ。良かったですなぁ。別々に売れなくて」

 ポンっと手のひらに載せられた指輪は、今自分の手に握りしめているものと全く同じ大きさだった。

 途端に ードクンー また心臓が騒ぎだす。 

 さっきの故宮で感じたのと同じ響きだった。これは私のものだと実感していた。何故だ?この指輪を手にした記憶はないのに、自分のものだと確信できるなんておかしい。

 指輪にはよく見ると大きな傷がついていた。何故こんな傷が……何故だか嫌な予感と、また出逢えて嬉しい気持ちが交差して混乱してくる。とにかくこの指輪は私が持ち帰らなくてはいけないという気持ちで一杯になっていた。

「この二つの指輪をいただこう」

「へぇ!ありがとうございます」

「それと何か紐はないか?この指輪を胸にかけたいのだが」

「それなら革紐がよろしいのでは?」

「あぁ」

「それならあっちの店に」

「ありがとう。」

 男の指には恥ずかしいのでネックレスにしようと思いつき、案内された別の露店で指輪を通すのに丁度良い革紐を買い、宿泊先のホテルに急ぎ戻った。

 

 机の上に二つの指輪を並べ、目を閉じた。

 いつだ?この指輪を手にしていたのは……いくら考えても分からない。でも確かにこの指輪は、私が以前買い求めたものだ。

 そういえば洋と知り合ってから、私はたまに不思議な夢を見るようになった。

 遠い昔のような世界に私であって私でない人物がいた。彼は白い白衣を着て長い廊下を歩ている。その夢の中の男の胸元で揺れていたネックレス。そこに付いていた指輪にそっくりではないか。その先の夢も見たのに思い出そうとすると、頭が割れるように痛くなってしまう。はっきりとしない記憶に歯がゆい気持ちが募り、時間も忘れ……物思いに耽ってしまった。

 ふと気づくと辺りはすっかり暗くなり、手元の指輪だけが白く輝いていた。

「しまった……今、何時だ?」

 はっと時計を見ると洋を迎えに行く時間をとっくに過ぎていた。指輪は取り合えず机の中にしまい、慌ててタクシーに乗り空港へ向かった。

 まずいな、かなり遅れてしまった。

 洋が不安がらないといいが……

****

「遅い!丈の奴!」

 異国の空港は聞き慣れない言葉が交差して、どうにも居心地が悪い。

 会社が終わった途端に飛び出した。たった2日会わないだけでこの様になってしまう自分に、本当に丈が好きでしょうがないんだなと苦笑してしまった。

「早く会いたいよ、君に……」

 飛行機の中でも、ただそれしか考えられない自分に驚いた。俺たちは離れていてはいけない気持ちになるんだ。お前がいないと不安が募ってしまう。

 なのに到着ロビーに君が待っていてくれると思ったのに、居なかった。

 丈……どうして遅れている?

 スマホを確認しても連絡は入ってない。

「心配なんだ。丈の姿が見えないのは……」

 俺は夜空に飛び立つ飛行機を見上げては、何処までも暗いため息をついた。



****

輪廻転生物語らしくなってきました。
この「月のリング」のアイテムは『悲しい月』にも登場します。
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