重なる月

志生帆 海

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第2章

月輪の約束 2

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「じゃあ洋、現地で会おう。空港まで迎えに行くから、ちゃんと来られるな?」
「あぁ大丈夫だよ。子供じゃあるまいし心配するな」

 水曜日の朝、丈は先に現地へ向かうため俺より早く家を出た。飛行機でニ時間弱の海外だが、俺は丈のことを送り出す時、玄関先で少し寂しい気分になっていた。

チュッ…

 そんな気持ちを察してか、俺の額に暖かなキスをしてくれる。

「洋……向こうで会えるのを、楽しみにしているよ。気兼ねなく二人で街を歩こう」
「そうだな。俺も楽しみだ」

 今度は俺の方から丈の唇に重さね求めていく。少しだけのつもりが深まっていく口づけ。丈の手が俺の背中に周り、きゅっと抱きしめてくれる。

「洋……寂しいのか」
「そ、そんなことない。たった数日だ」
「やっぱり寂しいんだな」
「……違うから!」

 またからかわれてしまった。最近の俺は変だ。丈と少しでも離れるのが怖くなってきている。このまま会えなくなったらと考えてしまうんだ。

「馬鹿だな、すぐに会えるよ」

 まるで頭の中で考えていたことがバレているみたいに、丈は優しい言葉で包んでくれた。

コツン…

 お互いの額を合わせて約束する。

「いってらっしゃい、二日後に…」

****

 あと数時間後には洋に会えるな。

 学会も終わり、午後は自由時間だ。少し時間が空いたので、一人気ままに異国の街を歩いてみることにした。興味があったのは、歴代の王が眠る故宮だ。ずらりと並ぶ王の墓を一つ一つを丁寧に見ながら石畳の道を歩んだ。

 その中に、王を護ったと言われる名将の墓があるのを見つけた。ここは王の墓ばかりなのに、武将の墓一緒にあるとは珍しい。

 何という名の武将だろう?
 この文字は何と読むのだろう?

 異国の文字が彫られた石碑を、そっと手でなぞってみる。

ドクン…

 突然、何故だかとても懐かしい気持ちになった。

 ここには洋も連れてきてやりたい。
 必ず連れて来ないといけない。
 何故だろう。ここはとても懐かしい。


 その後故宮の門を出て市街に入ると、昔の骨董品が並ぶ市が開かれていた。人と人がぶつかり合う賑やかな市の中を、人波に押されながら、あてもなくふらりと歩いた。

 そう……吸い込まれるように、その指輪のもとまで。

 私は古びた露店に雑多に並べられた山のような品の中から、月のように光る乳白色の指輪を見つけた。

 ついに、出会うべきものに出会ったのだ。


……

『悲しい月』とお話の交差が始まりました!   「春の虹 ~二つの月輪~」参照。
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