重なる月

志生帆 海

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第2章

嫉妬するなんて 4

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「えっ丈?待って!」

 そのままベッドへ仰向けに押し倒され、丈の躰がズシっと重なって来た。いつもの丈ではない乱暴な手つきと俺を映さない瞳に心が震える。強引に股間に伸ばされた丈の手を阻止しようと手を添えて抗うと、その冷たさにひやっとした。
 
 丈の手が冷たい。なんで……
 あっという間にベルトを外され、スーツのズボンを脱がされてしまう。

「……やっ嫌だ!お願いだ。今日は無理だ! 」

 こんなのは嫌だ。こんな乱暴なのは嫌なんだ。

「洋は嘘つきだな。君は……」
「嘘つき?」

 そうか……丈にはすべてお見通しなのか。それでこんなに怒っているのか。あっという間に乱暴に下着まで脱がされ、俺のまだ慣らされていない蕾にいきなり挿入されそうになる。

「ひっ」

 必死に躰を揺らして逃げを打つが……俺の腰を丈が両手でホールドし、とうとう侵入してきてしまった。一気に鈍痛が躰を突き抜け、声にならない悲鳴があげた。

「あぁ!……いたっ……!やっ!丈……お願いだ。待って、あぁ……」

 必死に組み敷かれている躰を起こそうとするが、びくともしないことに恐怖が募ってくる。

「こ……怖い。無理矢理は嫌だ!抜いてくれっ! 」

 すがるように丈に必死に話しかけるのに、丈の方は思いつめた余裕のない表情で俺を見てくれない。

「君は嘘つきだな。どうして私に本当のことを話さない?私はそんなに信用ないか?」
「痛っ!うっ……」

 丈が動きを速めると、俺のそこにヒリヒリとした切れるような熱い激痛が走った。

「あぁっ……こんな抱き方は嫌なんだ!やめろ!お願いだ」
「洋のことが好きで好きで堪らない。だが不安になるんだ、だからこうやって抱かないと今は落ち着かない。もっと力を抜け」

 俺は痛みから涙で滲む目で丈を見上げた。いつも冷静な丈なのに、今日は変だ。俺の言葉が耳に届いていない。熱に浮かされたように、俺のことを無理矢理攻めてくる。

「んんッ……」

 必死に抗うのに丈の耳には届かない。痛みから逃避したくて次第に霞む意識の中。

 まただ。また遠い昔の記憶が脳裏に浮かび上がる。

 これは誰の夢なのか。

 ゆらゆらと揺れる蝋燭の影。
 俺の躰を無理矢理弄ぶ手。
 蛭のようなざらざらとした舌が躰中を嘗め回していく。
 恐怖で冷え切った躰と声にならない悲鳴。

 夢の中の俺は見知らぬ男に、何度も何度も犯されていた。

 駄目だ!これは決して思い出してはならない危険な記憶だ。

 丈、今すぐやめろ! お願いだから俺から離れてくれ!
 お前には、いつものように優しくきつく抱きしめて欲しい。

 あぁ……この抱き方は駄目だ。

 俺に忌々しい過去を思い出させるような感覚に陥ってしまう。

 一体これは誰の記憶だ?俺の記憶にはないのに、俺の躰が遠い昔体験したと確信できるほどリアルに感じる痛みと恐怖。

「怖い……」

 そのリアルな感覚が恐ろしく、俺はとうとう真青な顔でブルブルと震え出してしまった。それに気づいた丈がはっと我に返り、いつもの落ち着いた声に戻っていた。

「洋……洋!大丈夫か。おいっ」
「あっ……いやだ! もうやめてくれ……」

 ゆるゆると首を振ると、堪えていた涙もはらはらと一緒に零れ落ちていった。

「すまなかった。こんなに乱暴に君を抱くなんてどうかしていたんだ。洋が何処かへ行ってしまいそうで…」

 眼をうっすら開けると、丈のいつもの思慮深い声と眼差しを見つけることが出来て、一気にほっとした。

 丈に触れたくて手を動かすが、震えて持ち上げることが出来なかった。

「丈……どうして?俺はいつだって君の傍に。ここにいるのに……」


****

いつも拙い話を読んでくださってありがとうございます。
このお話しは輪廻転生のエッセンスを入れています。

別に連載している『悲しい月』のヨウとジョウが現代の洋と丈につながっていきますので、
合わせて読んでいただけるとお話しに深みが増すかもしれません。これからもどうぞよろしくお願いします♪

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