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第2章
嫉妬するなんて 2
しおりを挟む何本の電車を見送っただろう。もう終電近いのに、まだ洋の姿は見えない。行き違ってしまったのかと、スマホを確認するが連絡は入っていない。
馬鹿だな私も。相手は男じゃないか。遅くなった位で、こんなに心配するなんて過保護過ぎる。そう無理矢理納得させようとするが、心はそうもいかない。放っておけないんだよ。
頭の中でそんなことをぐるぐると考えているうちに、また次の電車が到着したようで、階段から沢山の人が降りてくる。やっと……その中に一際輝く美しい洋を見つけた。
「洋!」
そう声を掛けようと思った途端、洋は隣に歩いている男に笑いかけた。私に見せたことにないような屈託のない笑顔で無邪気に……
そいつは誰だ?気まずい雰囲気になりそうなので背を向けたのに、洋が私を見つけてしまった。
「丈!どうしてここに?」
そう呼びかけた声は動揺で震え、驚きに目を見開いている。隣りの男も怪訝そうに、私のことを見ている。活発そうな青年が興味深そうに洋に私のことを尋ね、洋はたじろぎながらながら「会社の先輩だ」と紹介した。
ふっ会社の先輩か……当たり前だよな。
想いあっている。
抱き合っている。
なんて堂々と言えるはずもない。そんなこと洋も私もちゃんと分かっている。だが、洋のよそよそしい態度と、幼馴染だと名乗る青年の明るさがまぶしく、私は目を背けたくなった。何故だろう。太陽のように明るい笑顔の青年の笑顔が眩しくて、その青年に送ってもらった洋の顔がまともに見れない。
「じゃあ私は先に帰るから」
「あっ待って!丈」
遠くで洋の呼ぶ声が聞こえたが、振り返りもせずに足早に立ち去ることを選んだ。
「待って!」
切なげな洋の声が聞こえたので、最後に一度だけちらっと振り返ったら、その青年に背後から抱きつかれている洋がいた。
「なっ…」
あの青年も洋のことを?
不安が一気に押し寄せる。
太陽と月のように正反対の二人は、それはそれで二人で世界を照らす存在のように見えてしまった。大人げないが、これが嫉妬というものなのか。この私が、七つも年下の男に。
ひとりで戻る夜道は、どこまでも暗く侘しいものだ。
手の中に留めておきたい洋には洋の世界があるのは重々承知しているはずなのに、何故こんなにも胸が押しつぶされそうになるのか。洋の帰宅を冷静に迎えられるだろうか……。
洋と出会ってから私は今まで抱いたことがないような醜い感情に弄ばれている。
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