61 / 1,657
第2章
嫉妬するなんて 1
しおりを挟む
「遅いな…」
朝からずっとテラスハウスで仕事に没頭していたようで、気が付くと外はすっかり暗くなっていた。手を上にあげて伸びをしながらリビングの時計を見ると、もう二十一時を回っていた。
今日は週末だし、この前選んだワインを一緒に飲もうと約束していたのに……やれやれ今日に限って洋は残業か。
疲れて帰ってくるだろうと、遅い夕食を作り、風呂の掃除もしてやる。だが仕度を終わらせても洋は帰宅していなかった。スマホをチェックしてみるが、何も連絡は入っていない。メールも来ていない。着信履歴もない。
こんなこと珍しいな。
最近の洋は律儀に連絡をくれるのに、今日に限って何故何も寄こさない?今日は明け方雨がひどくて電車で行ったから……終電までに戻らないと。
まさかまた何かあったのでは……一抹の不安が過る。
洋はあまりに美しい顔に憂いのある雰囲気のせいで、変な奴に絡まれることが多い。実際私と深い関係になってからも少し目を離すと、執拗な視線を送られて困っていることが多々あった。
時計を見ると二十三時、あれからもうニ時間も経ったのか。家の中で洋の帰宅をイライラと待っている自分が滑稽にさえ思えてくる。
電話をしてみようか。だがこんなことでいちいち電話をするなんてと、変なプライドが邪魔して素直になれない。
洋は女のように綺麗だが、女ではない。だから女のように大切に扱われすぎるのを嫌がるから躊躇してしまう。少し帰りが遅い位で、電話するなんて。だが、じりじりと胸に迫る不安が拭いきれず、これ以上ここで待てなくなってしまった。とうとう痺れを切らして、駅まで迎えに行くことにした。
テラスハウスから駅までは歩いて十分程だが、住宅街のため夜道は思ったより暗い。洋をこの夜道を一人で歩かせるのは危険だな。頭の中で、そんなことを考えている心配性な自分に何故か笑いが込み上げてくる。
私はこんな人間だったか──
いつも研究に没頭していて、他人に興味なんて湧かなかったのに、たまに言い寄ってくる女を抱くのも、どこか無機質な気持ちで臨んでいた。
洋と関係を深めてから、私が探していた求めていたものを掴んだような、そんな懐かしい気持ちになるのは何故だろう。遠い遠い昔にこんな気持ちを抱いたような気がする。あの時胸に抱いた人は深く傷ついていた。そんな記憶があるのは何故だろう。
ふっ本当に馬鹿だ。私はこんなにも洋に溺れている。
洋が私の手元にいないと不安にすらなってくる。
若く美しい洋は男からも女からも引手あまただから、心配になってくる。
また、どこかへ行ってしまうのではないか。
何か嫌なことに巻き込まれないか。
****
「おい人事部の崔加 洋って知ってるか」
「見た見た!えらく綺麗だよな」
「そうそう男にしとくの勿体ないよな」
「男でも彼なら抱けそう~!」
「お前何言ってんだよ?そんな趣味あったか」
「いや待てよ、確かに彼ならいいかもな」
「あの唇……あの細い腰、抱きしめてみたいなぁ」
「飲み会で酔わしてとかどうだ?」
「お前それ犯罪!」
「だよなぁ~ははっ」
「お前興奮しすぎ!」
****
会社の同僚たちが洋の噂をいやらしくする度にイラつくし、やたら同僚に触られたりちょっかいを出されている洋の姿を見るのもイラつく。
この私が……三十歳を目前にして、まだ餓鬼のように、こんなことで嫉妬するなんてな。
洋、早く帰って来い。
あまり心配させるな。
朝からずっとテラスハウスで仕事に没頭していたようで、気が付くと外はすっかり暗くなっていた。手を上にあげて伸びをしながらリビングの時計を見ると、もう二十一時を回っていた。
今日は週末だし、この前選んだワインを一緒に飲もうと約束していたのに……やれやれ今日に限って洋は残業か。
疲れて帰ってくるだろうと、遅い夕食を作り、風呂の掃除もしてやる。だが仕度を終わらせても洋は帰宅していなかった。スマホをチェックしてみるが、何も連絡は入っていない。メールも来ていない。着信履歴もない。
こんなこと珍しいな。
最近の洋は律儀に連絡をくれるのに、今日に限って何故何も寄こさない?今日は明け方雨がひどくて電車で行ったから……終電までに戻らないと。
まさかまた何かあったのでは……一抹の不安が過る。
洋はあまりに美しい顔に憂いのある雰囲気のせいで、変な奴に絡まれることが多い。実際私と深い関係になってからも少し目を離すと、執拗な視線を送られて困っていることが多々あった。
時計を見ると二十三時、あれからもうニ時間も経ったのか。家の中で洋の帰宅をイライラと待っている自分が滑稽にさえ思えてくる。
電話をしてみようか。だがこんなことでいちいち電話をするなんてと、変なプライドが邪魔して素直になれない。
洋は女のように綺麗だが、女ではない。だから女のように大切に扱われすぎるのを嫌がるから躊躇してしまう。少し帰りが遅い位で、電話するなんて。だが、じりじりと胸に迫る不安が拭いきれず、これ以上ここで待てなくなってしまった。とうとう痺れを切らして、駅まで迎えに行くことにした。
テラスハウスから駅までは歩いて十分程だが、住宅街のため夜道は思ったより暗い。洋をこの夜道を一人で歩かせるのは危険だな。頭の中で、そんなことを考えている心配性な自分に何故か笑いが込み上げてくる。
私はこんな人間だったか──
いつも研究に没頭していて、他人に興味なんて湧かなかったのに、たまに言い寄ってくる女を抱くのも、どこか無機質な気持ちで臨んでいた。
洋と関係を深めてから、私が探していた求めていたものを掴んだような、そんな懐かしい気持ちになるのは何故だろう。遠い遠い昔にこんな気持ちを抱いたような気がする。あの時胸に抱いた人は深く傷ついていた。そんな記憶があるのは何故だろう。
ふっ本当に馬鹿だ。私はこんなにも洋に溺れている。
洋が私の手元にいないと不安にすらなってくる。
若く美しい洋は男からも女からも引手あまただから、心配になってくる。
また、どこかへ行ってしまうのではないか。
何か嫌なことに巻き込まれないか。
****
「おい人事部の崔加 洋って知ってるか」
「見た見た!えらく綺麗だよな」
「そうそう男にしとくの勿体ないよな」
「男でも彼なら抱けそう~!」
「お前何言ってんだよ?そんな趣味あったか」
「いや待てよ、確かに彼ならいいかもな」
「あの唇……あの細い腰、抱きしめてみたいなぁ」
「飲み会で酔わしてとかどうだ?」
「お前それ犯罪!」
「だよなぁ~ははっ」
「お前興奮しすぎ!」
****
会社の同僚たちが洋の噂をいやらしくする度にイラつくし、やたら同僚に触られたりちょっかいを出されている洋の姿を見るのもイラつく。
この私が……三十歳を目前にして、まだ餓鬼のように、こんなことで嫉妬するなんてな。
洋、早く帰って来い。
あまり心配させるな。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる