重なる月

志生帆 海

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第2章

番外編 新しい一年が始まる 1

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 クリスマスの続き……大晦日の話になります。
 時系列が本編と違うので特別番外編として捉えてくださいね~テラスハウスでふたりが出会って、夏にあの事件がなく冬を迎えたのなら……の話になります。


****

「洋、本当に帰国しなくていいのか。アメリカの親父さんが待っているんだろう? 」
「あぁいいんだ」
「心配してるんじゃないか」
「いや、そうでもないさ。きっと」

 洋の家の事情、そういえばあまり聞いたことないな。母親はいるのか。確かうちの会社には父親のコネで入社したって人事が言ってたよな。

「そういえば洋って、母親の話しないな」
「えっ……あぁ」
「もしかして…」
「うん……中学の時に病気で」

 洋が悲し気な表情を浮かべた。

「そうか」
「あぁ」
「じゃあ尚更、親父さん向こうで一人で寂しいんじゃないか」
「ん……でも父とはしばらく会いたくないんだ」
「何故?」
「……なんとなく」
「そうか」

 それ以上のことを聴くのはやめておいた。洋があまり話したくなさそうだったから.少し沈んでしまった洋の気持ちを切り替えてあげたくて、話を変えた。

「じゃあこのテラスハウスで二人で新年を迎えられるのか」
「あぁそうするよ」
「年末は.一緒におせち料理を作ろうか」
「おいっ、俺が料理駄目なの知っているだろう」

 拗ねるような眼で見上げてくる洋が愛おしい。

「あぁ知っているさ。洋は何が好きか。作ってやるよ」
「本当に?」
「あぁ」
「俺さ、栗きんとんが好きなんだ。母がよく作ってくれて」

 懐かしそうな面持ちで洋が甘い笑顔になる。この表情を見るためにだったら何でもしてやりたい。そう思わせるんだよ、君の笑みは。

「ははっ甘いものが好きな洋らしい」
「丈と二人でここで新年を迎えたいんだ、駄目か」
「もちろんいいよ。」

 そんな約束をしたのは十二月上旬のこと。今日はもう大晦日だ。朝から二人でバタバタとテラスハウスの掃除をしている。

「丈、もうクタクタだよ。ゆっくりしようよ」
「まだ駄目だ。ほらここにもホコリが」
「……」

 洋はどことなくそわそわしている。実はあの後すぐに二週間も海外出張が入り、クリスマスの朝にようやく帰国したばかりだ。その日も結局午後には出社しなくてはいけなくて洋とクリスマスを心ゆくまで楽しめなかった。そのまま溜まった仕事をこなして年末まで残業続きで疲れ果てて、洋と二人きりの時間をゆっくりと過ごせていない。

 洋も早く私とゆっくり過ごしたいという気持ちが伝わってきて、嬉しくなる。

「洋、ちょっとこっちに来い」
「なに?」

 ぐいと手を引きソファに座らせ抱き寄せると、素直にコトンと頭を私の肩に預け甘えてくる。

「夜まで我慢できなくなったか」
「はっお前いい加減にしろよな」

 途端に照れくさそうに怒って立とうとするので肩を掴んでソファに押し倒した。私の前でコロコロと表情を変える様子が嬉しい。

 気を許してくれている、そう実感できるから。

「お……おいっ!何をするつもりだ!」

 見下ろすと目は怒っているのに頬を赤く染めて、なんともアンバランスで刺激的だ。もう食べたくなるな……夜まで待てないよ。洋を早くおもいっきり抱きたい。抱き潰すほど抱きたい。

 私はこんなに我慢できない男だったのかと、思わず苦笑してしまった。

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