重なる月

志生帆 海

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第2章

あの日から 10

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「洋、この人誰だ?」

 安志に聞かれて焦ってしまった。どうして丈が改札まで迎えに来ているのか、その真意が掴めず、心臓がバクバクしてくる。

「えっ! あっ会社の先輩で寮も一緒の……じょ……張矢さんだ」
「張矢さん……何でここに?」
「……いや、たまたま君を見かけたから」

 丈が不愛想に答えた。
 もしかして怒っているのか。
 途端に心配になってくる。

「ふーん……あっ俺、洋の幼馴染の安志です。よろしく! 洋がお世話になっています」

 安志が変な挨拶するから、ますますおかしなことになりそうで、冷や汗が出てくるよ!

「そう……よろしく。じゃあ私は先に帰るから」

 丈はくるりと背を向けて、スタスタと振り返りもせずに去って行く。どんどん小さくなっていく背中に不安が募った。

(丈っ……待って! 待てくれよ)

 俺は心の中で叫んでいた。

「安志っ悪い! またな!」
「おっおい……待てよ!」

 慌てて丈の背中を追いかけようとする俺の手首を、安志に掴まれて阻止されてしまった。

「なっ! 何?」

(離せよ! 丈が行ってしまうじゃないか!)

「洋……あの人は大丈夫か。お前に変な事をしないか」

 心配そうに安志がそんなこと聞くから、びっくりして顔がカッと赤くなった。

「なっ……何を言って!」

 変な事どころか毎晩のように抱かれているとは、死んでも言えない。しかも俺の方からそれを望んだなんて、絶対に安志には言えない。

「ごめん安志。俺……先輩と帰るから……また連絡するよ」

 手を必死に振りほどき駆け出そうとすると、後ろからギュっと抱きしめられてしまった。

「安志!おいっ離れろよ!」
「洋……今日は会えて嬉しかったよ」

 俺の背中に顔を埋めるように、安志が苦しそうに耳元で囁いた。
 ここは駅だし人が見ているし……何故こんな場所で抱きしめるんだよ!

 もうキャパオーバーだ!
 丈にこんな所見られたらと思うと、本当に焦ってくる。

「必ず……また会ってくれるか」

 だが……そんなにも切な気に、昔から助けてもらった幼馴染に切願されてしまうと……心がぐらついてしまう。

 駄目なんだ。

(安志じゃなかった。俺が探していた人は……)

 そんな酷な事は言いたくない。俺にとって安志は大切な友人だから。

「俺は……お前のことを以前と変わらず幼馴染みとしか思えないんだよ。それでもいいのか」

「それでもいい! それ以上は望まない! だからもう絶対に、お願いだから……消えないでくれよ」

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