重なる月

志生帆 海

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第2章

あの日から 5

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  洋を誘い静かなバーに移動した。五年ぶりに会った洋とゆっくり落ち着いて喋りたかった。久しぶりの洋は、俺の幼馴染の洋のままで気を許して話してくれる。また俺に微笑んでくれる洋を見ていると、高校時代の日々を思い出す。

 二人で乗ったあの満員電車。触れそうで触れられない距離感に悶々としていた心。
 あの日の屋上階段での出来事も。本当にあんな告白しなければよかったよ。

 何度も何度も後悔したんだ。あの時の洋の驚いた顔が、ずっと忘れられなかった。
 あの日から洋が学校に来られなくなってしまい、心配して何度もうろついた家の前。

 どうしても勇気が出なくて押せなかったインターホン。そのうち足が遠のいていった。
 一か月程してから、先生から洋がアメリカへ家の都合で渡米したことを聞いて、慌てて駆けつけた家は既にもぬけの殻だった。連絡先も言わずに消えてしまうなんて…ひどいじゃないか。

 ずっと洋から手紙でも来るんじゃないかって淡い期待をして、ポストを覗いていた俺。一年、二年とあっという間に月日は流れ、洋がいない高校は何かが物足りず、あんなに打ち込んでいた野球も辞め、何となく過ごし何となく大学へ行き、普通に就職した。大学に入り、女と付き合っても、すぐに別れることの繰り返しだったよ。

 俺は、いつまでも未練たらしく洋の帰りを待っていたのかもしれない。



****


「はぁ……」


 安心した表情で俺の肩にもたれて眠ってしまった洋を見て、ため息をついた。こんな油断した顔をして、これじゃ何もできないな。

「洋!おい起きろよ。家どこだ?送っていくよ」
「ん……」

 肩を揺すっても一向に起きる気配がない。

「おい!洋!」

 はぁ……本当に困ったな。

「送って行くから今住んでるところ教えてくれ」
「ん……いや、安志んとこで休んでいけば一人で帰れるよ」
「えっ!」


 俺はそんな申し出に、激しく動揺してしまった。
 駄目だ!俺を信用しすぎるな。また……邪な気持ちが芽生えてしまうじゃないか。

 まったく洋の奴は、いつも俺に対しては無防備すぎる!
 もう二度と失敗はできない。幼馴染としてやり直ししたいのに……
 
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