重なる月

志生帆 海

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第2章

あの日から 4

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「洋!」

 見間違えるはずないじゃないか。大学のサークル仲間の飲み会に誘われ仕事帰りに参加してみたが、気乗りせず一番隅の席で適当に飲んでいた。その時、サークルの同期だった徳田が、誰かを連れて少し遅れて到着した。

「きゃー綺麗な子!」
「へぇ男にしとくのもったいないな」

 そんな歓声につられて、何気なくそちらを見たんだ。それがまさか幼馴染の洋だなんて。今日再会出来るなんて驚いた。
 
 洋は、高校時代のほっそりとしたシルエットのまま、少しだけ大人びてさらに綺麗になっていた。大人の色香が少し漂いだし、危うい雰囲気に拍車がかかっている。俺の好きだった儚げな笑顔も、何もかもそのままだ。

 俺の洋ではないが、大事な幼馴染の洋だ。
 本当に会いたかった。ずっとずっと探していた。

 洋を見た途端驚きのあまりグラスを落としてしまい、その音で洋も俺に気が付き、動揺しているようだった。

 もっと近くで話したい。
 お前何していたんだ?
 この5年間、一体何処で何を?

 早く聞きたいが、洋の席までの距離が異様に遠く感じて動けなかった。俺はただ見つめることしかできない。五年前も今も、何も変わっていないのか。洋は案の定、隣の奴らに絡まれて嫌そうな顔をし出した。気が付いているのに助けに行けない俺は、相変わらず嫌な奴だ。

 そんな洋が突然逃げるように帰ろうとしたので慌てて追いかけたのに、廊下を出たところで見失ってしまった。

「どこに行った、洋?」

 辺りを見回すが、姿が見えないことに焦る。トイレかもと思いドアの前に立つと中から音がした。まさか!

ガタンッ──

「やめろ!何するんだっ!」

 洋の嫌がる声が響いてきたので、すぐにドアを開けると、酔っぱらったサークル仲間に壁に押し付けられ、抱きしめられている洋の姿があった。

 俺はかっとなり、そいつを思いっきり引きはがした。
 今度は助ける!絶対助ける!洋のこと!
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