重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
48 / 1,657
第2章

あの日から 2

しおりを挟む
「洋くん~本当に可愛いね。飲んでよ~ほらっ」
「俺……あまりお酒飲めないので……」

 初対面の男に強引に酒を勧められ、戸惑うが、先輩の顔もあるから無下に断れず付き合っている。

 もう帰りたい。
 こんな所にいたくない。
 早く丈の待つ家に戻りたい。
 丈にきつく抱きしめてもらいたい。

 心の中でそう思っているが、変に騒いで目立ちたくないのでさっきからグッと耐えていた。

「うわぁ~洋くんってば本当に腰も細いんだね、なんだか女の子みたいでエロいな」

 左隣りの奴がさりげなく腰に手をまわしてきた。

「ちょっ……やめ……」

 腰を引き、逃げようとするが追いかけてくる。腰をさするように撫でられるとぞくりと、また心が震える。こういう時は決まって心がどんどん冷えて、手も足の先も冷たくなってしまう。

 飲み会は盛り上がっているらしく、女子のキャーキャーした甲高い声が耳にガンガン響いていた。ふとその奥で暗い表情で俺を見ている安志と視線が絡み合う。

 あの夏の日──

 階段上でのあいつからの突然の告白。何も応えてやれなかった俺は、年月が経った今も何も応えてやれない。すまない。その上……あの日と決定的に俺の方の状況が変わっていることに、お前は気が付いてしまうだろうか。

 俺は同性に抱かれた。
 今も抱かれ続けている。
 自らの意志で。

 そう思うと、やはりこのまま何も話さず帰った方がいいのかもと思った。ぼんやりと安志とのことを思い出していると、隣りの奴はますます酒に酔い、その酒臭い息であれこれ話しかけてくる。

 鬱陶しい。

 聞き流しさり気なく身を逸らし、我慢しているがそろそろ限界だ。先輩ももう酔っぱらって俺が今帰宅しようと気が付かないだろう。

「あの、すいません。この後用事があるので、そろそろ帰ります」

さっきからべたべた触ってくる男に一方的に告げて部屋を後にした。

「えっちょっとちょっと待ってよ~洋くん~」

おぼつかない足でさっきの男が追いかけてくる。

「……」
「こっち来てよ~」

 ギョッとして振り返れば、突然手首を凄い力で引っ張られトイレへ連れ込まれてしまった。

 まずい!

 この展開は何度も味わったものだ。本能が察知して慌てて拘束されそうになった手を解き、逃げを打つ。

「やめろっ何するんだ!」
「洋くんのこと気に入っちゃたよ、なぁいいことしよーぜ。んっ~」

 冗談じゃない!

 トイレの壁に押し付けられ、凄い力で抱きすくめられる。うっ……見知らぬ雄臭い匂いに吐き気がまた込み上げてくる。振り絞って拘束を解こうと必死にもがいていると、誰かが勢いよくトイレに入ってきた。


「おい馬鹿!悪ふざけもここまでにしろ!この酔っ払い!」

 俺に覆いかぶさってくる奴を、ガバッと引きはがしてくれたその男の顔を見上げた。

「安志……」

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...