重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
47 / 1,657
第2章

あの日から 1

しおりを挟む
「おい、今から飲み会に付き合えよ」

 同じ課の2歳上の先輩に強引に腕をグイッと掴まれて、一瞬ぞくっとする。

「えっ!俺は、もう帰ろうかと」

 こういう時……俺はやはり丈以外の奴に触られるのは苦手だと実感してしまう。一方で丈になら何をされても大丈夫だった。丈が強く俺を抱きしめてくれるのが好きだ。俺の心を強く支えてくれるようで安心するから。

「お前が来ると女子どもが喜ぶからな。先輩命令だから来い!」
「……」

 半ば強引に連れて行かれた飲み会。

 ところがいざ来てみれば、会社関係でなく単なる先輩の大学時代のサークル仲間の飲み会じゃないか。全く、仕事絡みかと思ったのに。十人程の男女混合のテーブルで、すでに飲み会は始まっていたらしく賑やかな雰囲気だった。

「おぅ!待たせたな!こいつ俺の部署の新入社員の崔加 洋って言うんだ。よろしくな。なっ噂通り女みたいに綺麗な奴だろう」

 変な紹介をされ、皆の視線が集中して赤面してしまう。

「うわ!本当に綺麗な子ね~」
「へぇー女みたいだな。本当に~!」

 注目され居たたまれない気持ちで俯いていると、突然大きな音がした。

 ガシャンッ──

 突然グラスの割れる音がしたので視線を向けると、一番奥の席に俺のことを見て唖然としている男がいた。照明が暗くて良く見えなくて目を凝らすと、俺の心臓が止まった。

 少し面持ちが変わって……あの頃のように極端な短髪でもないし、随分大人っぽくなっているけれども……。

「安志……」

 高校二年生の夏のあの騒動の後、屋上への踊り場で別れてからずっと会っていなかった俺の大事な幼馴染だ。安志も目を見開いて唖然としている。

「おい!崔加、何をぼんやりとしている。こっちこっち。こっちの席に座れよ」
「あっ、はい」

 今すぐにでも安志の所へ行きたいが、先輩に引っ張られるように、何故か女の子の間じゃなくて両隣男性の席に座らせられてしまった。

「へぇ君が噂の洋くんなんだ。あいつから部署に女みたいに綺麗な奴が入社したって聞いて、ずっと会いてぇって思っていたんだぜ」
「凄いなぁ。洋くん綺麗だなぁ。ほんとに男?肌すべすべだな~」

 嫌悪感が走った。両隣りからいつもの嫌な視線を浴びて、逃げ帰りたい気分になる。でもここには安志がいる。せっかく5年ぶりに再会できたのだから、少しでも話したい。あの日あんな別れ方をしたから、ずっと気になっていた。

 俺……安志に本当はずっと会いたかった。ずっと気になっていた。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...