重なる月

志生帆 海

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第2章

口づけの跡 1

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 朝日が昇るのを感じ……俺を抱きしめたまま眠る丈の腕の中からそっと抜け出し、洗面所の鏡に映る自分の顔を見つめた。

 女みたいな俺の顔。
 嫌いだ!

 いつからだろう性別問わず周りからの不快な視線に気がついたのは。電車の中で俺の自由を奪い、忍び寄る汚れた手。学校で友人の仮面を被り俺に近づく奴。俺はそれでもなんとか自分をガードして守って警戒して、生きてきた。

 そんな中、丈……君の静かな澄んだ目は違った。
 警戒して生きてきた俺には、その目に安らぎすら感じるようになり、俺の方からそう仕向け、この世界に飛び込んだ。

 なのに、最近のお前は少し変だ。
 俺のことを、片時も離そうとしない。
 日に何度も何度も俺を求めてくる。
 俺が壊れそうになるほどキツく抱く。

 かと思えば……俺なんて忘れてしまったのかと不安になるほど、放ったらかしにしてくる。
 今だって俺が腕からすり抜けても気が付かずに眠っている。

 丈……本当に俺のことを愛してくれているのか。
 それとも、他の奴と同じように、ただの性の捌け口としか見てないのか。

 信じているのにどうしても不安が拭えない。丈に抱かれてから喜びや怒り、哀しみ……なんだって次々にいろんな感情が湧いてくる?
 
 大きくため息をつきながら顔を洗いタオルで拭いていると、鏡に映った首筋に口づけの跡を見つけた。

「キスマークか。はぁ……これじゃ今日も外に出られないじゃないか」

 せっかく旅行に来ているというのに、ほとんど宿に籠りっきりだ。でもこんな生活も悪くないとで俺自身もどこかで思っているのだから不思議なものだ。

 俺は窓辺に座り、朝日を浴びながら深呼吸をした。
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