重なる月

志生帆 海

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第2章

二人きりの旅 3

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 トクン──
 心臓の高鳴る音が丈に聴こえてしまいそうで、その胸に背を預けるのが憚られる。

「洋……二人きりだな。ここでは」
「そうだね。ここはとても静かだ」

 鳥のさえずりだけが聴こえる静かな俺たちだけの空間だ。この数週間のことが思い出される。丈に抱かれてから……抱かれる度に凍っていた心が解けていき、この湯のように暖かい気持ちでどんどん満ちている。本当に不思議だ。

 だが、静かに丈の胸に躰を預けお湯に浸かっているが、やはり恥ずかしい。こんなに明るいし貸し切りとはいえ外だし、誰かに見られないか心配になり、もぞもぞと落ち着かない。

「どうした?居心地悪いか?」

 いたずらそうな黒い切れ長の瞳で覗かれて、ちょっとムッとした。
 なんだって丈はそんなに余裕なんだ?俺はこんなに落ち着かないのに。

「もう上がるよ。このままだとのぼせそうだ」
「駄目だ、もう少しここにいろ」

 丈を押しのけて風呂から出ようとすると、俺の腰をぐいっと引き寄せ、俺のものに丈が触れてきた。更に背後には丈の熱いものがはっきりあたるのを感じ、途端に電流が走ったように体が熱くなり疼きだしてしまった。

「あっ!駄目!ここじゃ嫌だ!」

 慌てて身を捩ってお湯からあがろうとするが、腰をしっかりと抑えられていて動けない。

「んっ……んっ」

 声が出ないように唇を噛みしめるが、我慢しても丈の手の刺激があまりに気持ち良くて漏れ出してしまう。

「丈……」

 俺はどうしてこんなにも弱いのか。丈のすることなら何でも受け入れたくなるのは何故なのか。

 丈と結ばれた時に過去からの願いが叶ったような、過去からの呪縛から解き放たれたような、なんとも表現しがたい満ち足りた気持ちが溢れだした。だから、丈のためにだったら、丈が望むことだったら、何でもしてあげたいとさえ思ってしまう。

「んっ」

 刺激が一層強くなる。気持ち良さと恥ずかしさが入り混じる。いまだ丈は手を止めてくれない。


「も……我慢できなくなる。部屋に戻りたい」
「ここじゃ嫌か」
「こんな所で……慣れてないんだ。お願いだ……」

 刺激が強すぎて涙目になりながら必死で訴えると、丈は少し困ったような表情をして

「洋……分かったよ。その代り部屋では好きなだけ抱くけど、いいか」
「えっ……そんな」



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