重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
39 / 1,657
第2章

二人きりの旅 1

しおりを挟む
 洋を初めて抱いた日から、私は月のように儚げな洋をこの腕の中に閉じ込めたい、繋ぎ留めたい、そんな気持ちで溢れかえっている。だから毎晩のように彼の身体を求め、抱き続けていた。

 だが、洋が壊れそうになるほどしっかりと抱きしめているのに、幾ら求めても何かが足りない不安な気持ちばかり募っていた。

 何故だろう?まるで長い年月……洋に飢えていたかのようだ。

 そんな私の気持ちに寄り添うように、洋は私の望むままに、その躰を差し出してくれた。
 すべてを委ねてくれるそんな洋に甘え、欲情し続けていた。



**** 


 昨日から、お互い休暇が取れたので温泉宿に泊まっている。最近どことなく沈みがちの洋の気分を変えてあげたくなったのだ。ふと一人でいる洋を見ると、何処か遠くを見つめ、どこか寂しげにしている時があるから。

「洋、明後日まで休みだろう?近場の温泉に行ってみないか」
「丈……いいのか。温泉なんて久しぶりだ。うれしいよ」

 明るい表情を浮かべる洋につられて、私も笑顔になる。

 やってきた温泉宿は離れの一室でとても静かな空間だった。そこには二人きりの時間があった。窓の外には暖かな日差しがキラキラと輝いて見えていた。

「丈!景色が凄くいいね!後で外を歩いてみないか」

 にっこり微笑みながら、窓の外を眺めている洋の声は明るく澄んでいた。私に抱かれた日から洋はますます心を許してくれ、甘い笑顔を沢山見せてくれるようになっていた。もしかしたら本来はこういう性格なのかもしれない。

 最近は七歳も年下の洋の明るい雰囲気につられて、笑う自分自身にも驚いている。

 ここ数年は何をしても面白くなく、研究職という仕事柄一人で籠ることが多かった。そうしているうちに人と接するのがだんだん面倒になってきて、笑うことを忘れていたのに……。洋のおかげで私も変化してきている。そのことが嬉しくて、私はぼんやりと窓の外を眺めている洋の躰に腕をまわし、きゅっと抱きしめてやった。

「洋……その前に温泉はどうだ?」
「んっそうだね」

「この部屋には専用の露天風呂がついているんだよ」
「えっ……そうなのか」

 途端に顔を耳まで赤く染める可愛い洋になっていく。
 私は彼のこんな表情をもっと見たくて意地悪したくなってしまう。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

処理中です...